トランプ再選なら、貿易戦争で「インフレ再燃=ドル高」なのか

マーケットレポート

トランプ氏、バイデン氏の一般教書演説「分断的で憎悪に満ちていた」

スーパーチューズデーでトランプ氏が共和党から指名を受けることが確実になった2日後、バイデン大統領は2回目の一般教書演説を行った。
余談ながら、就任1年目の場合は、大統領就任直後とあって議会演説とされる。
バイデン氏の一般教書演説につき、メディア大手CNNは「まるで戦士さながら、エネルギー漲る演説だった」と称賛。
2024年の米大統領選が前回と同様に、バイデン氏とトランプ氏の一騎打ちが確実となったことも、意識したのだろう。

対戦相手のトランプ氏は、バイデン氏の一般教書演説後初めてとなる3月11日のインタビューで、経済金融局CNBCに対し「分断的で憎悪に満ちていた」と振り返る。
バイデン氏が「前任者」との言葉を用い、2021年1月に発生した米議事堂襲撃事件での対応を始め批判を続けたため、憤懣やるかたなしだったのだろう。

トランプ氏「関税の威力を信じる」、再選ならタリフマンの本領発揮か?

トランプ氏と言えば、再選されれば貿易相手国に原則10%の追加関税を課す方針を表明済みだ。
インタビューでも、同氏は「関税(発動の威力)を信じる」と明言した上で、「他国が米国を利用している際、経済学を超えて力を与えるのが関税だ」と力説していた。
また、報復関税を恐れないのかとの問いに、減税で相殺可能であり、追加関税発動によって製造業を始め国内回帰が進むと述べ、結果的に米国に恩恵を与えると主張した。

トランプ氏は「タリフマン(tariff man、関税男)」と自称し、2018年12月には「我々の偉大なる富を略奪しようとする人々や国には、その特権の代償を払ってもらう。
それが、わが国の経済力を最大限に引き出す最善の方法だ」との見解を寄せていたが、こうした考え方は不変のようだ。

保護主義的な通商政策は、トランプ政権1期目で導入されていたことが思い出される。
2018年3月、1962年通商拡大法232条に基づき、カナダとメキシコを除き鉄鋼・アルミ追加関税の発動を決定、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税を賦課する大統領令に署名した。
2018年7月には1974年通商法301条を根拠に、中国製品の輸入額340億ドル相当を皮切りに、2019年9月まで4回にわたり、対中追加関税を発動した。

                                                                                                                                                           
日付 決定・発表内容
2020年1月15日米中が第1段階の貿易協定に署名、20年2月14日に発効
2019年12月13日米中貿易交渉で、第1段階の合意を発表、第4弾のリストAについては、関税率を15%→7.5%へ引き下げ
2019年10月11日第1-3弾(2,500億ドル相当、6,842品目)の関税率を30%へ引き上げ延期を決定
2019年8月23日第1-3弾(2,500億ドル相当、6,842品目)の関税率を30%引き上げ、第4弾の関税率も15%へ引き上げを発表
2019年5月13日通商法301条に基づき、第4弾を提案(3,000億ドル相当、3,805品目、最大25%)
2019年5月10日第3弾-②:2,000億ドル相当(5,745品目)10%→25%へ引き上げ
2018年9月24日第3弾-①:2,000億ドル相当(5,745品目)10%
2018年8月23日第2弾:160億ドル相当(279品目)10%
2018年7月6日第1弾:340億ドル相当(818品目)25%
2018年3月22日通商法301条に基づく対中追加関税発動を決定
2017年8月18日通商法301条に基づき、中国の技術移転や知的財産権の侵害などについて調査を開始

チャート:トランプ前政権での対中追加関税 出所:USTRや米商務省など政府関連資料よりストリート・インサイツ作成

ただし、トランプ氏の著書「Trump: Art of Deal(邦題:トランプ自伝: アメリカを変える男)」が示すように、ディールつまり交渉や取引を好むことで知られる。
トランプ氏の戦法は、相手が取りづらい高いボールから投げ、キャッチボールしながら少しずつ低めに調整し、自分の有利な地点で決着させるというもの。
足元、トランプ氏は10%追加関税導入に積極姿勢を示すが、日本のような友好国に対して「ディール」というカードを切ることも想定しておきたい。

中国産の自動車に関税発動示唆も、TikTokの禁止に言及せず

追加関税の対象国として最も意識されているのは、1期目に続き中国だ。
インタビューの間、国・地域の名称で「中国」は38回登場し、2位の「ロシア」、「欧州」、「インド」の6回を大きく上回った。

中国という言葉に続くのは、やはり貿易問題だ。
中国が自動車に高関税を課すだけでなく、メキシコに工場を建設し米国へ自動車を輸出していると不満をあらわにしただけでなく、追加関税発動を示唆、貿易戦争の再燃を予感させた。
ただし「中国が米国内で工場を建設するならば、米国人を雇用できる」とも述べ、柔軟性も確保。
ディール次第との姿勢も忘れない。

柔軟性といえば、中国の動画アプリTikTokについては、共和党主導で米下院が3月13日に規制法案を可決する過程にありながら、ソフトな姿勢を覗かせた。
個人情報保護の観点で脅威と指摘しつつ、「若い世代を始め多くの人々が使用している」とコメント。
質問者が国家安全保障上の脅威ではないかと詰め寄るなか、トランプ氏は1期目にTikTokを使用禁止に追い込まなかった理由について、「フェイスブックという米国の敵が恩恵を受ける」と回答するにとどめた。
結局、TikTokに絡むトランプ氏の発言で煽りを受けたのはフェイスブックの親会社メタ・プラットフォームズで、3月11日に前日比4.4%安も急落した。

ちなみに、今回のインタビューで「日本」も「台湾」も言及せず。
CNBCの司会者からも、日本製鉄によるUSスチール買収や台湾海峡問題については質問も出てこなかった。

仮想通貨の規制強化に言及せず、ドルの基軸通貨の地位維持も強調

仮想通貨関連への規制強化を急ぐバイデン政権に対し、トランプ氏は一線を画した。
選挙資金集めのために限定1,000足、399ドルで発売した“不屈のスニーカー”は仮想通貨で購入した人々が数多く存在したとして「新しくクレイジーな通貨」と表現。
ビットコインをめぐり「まるで詐欺のようだ」と発言していた2021年6月から、態度を軟化させた。

一方で、トランプ氏はドルが基軸通貨の地位を堅持することの重要性を強調した。
ドル離れについて「戦争に敗北すると同じだ」と懸念を寄せた上で、ドルが基軸通貨の地位を失えばロシアや中国の台頭を許すと警告。
その上で「ドルは米国の活力の源であり、重要な制度」と訴えた。

こうした発言が「強いドル」の復活を目指すのかは、不透明だ。
トランプ1期目を振り返ると、追加関税導入後にインフレが高まらず、逆に米景気減速が進み、ドルは4年中3回下落した。
トランプ政権が2019年の米景気減速期にFedに圧力を掛け、「予防的利下げ」に踏み切ったこともドル安の一因だ。

足元は米国内でサービスを始めインフレの粘着性が確認されており、貿易戦争に突入すれば高インフレが再来するかもしれない。
しかし、2021年を含め3年連続でドル高が進んだ反動が出てもおかしくない。
米景気減速に伴い、ドル安が進行する場合もありそうだ。
また、1970年以降、ドルが4年以上にわたって下落したのは、アベノミクスを導入した2012~2015年のみ。
「トランプ再選=ドル高」を意味しないのではないか。

チャート:ドル円の年間リターン、1970年以降で4年以上のドル高1は回のみ
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