用語解説

地政学リスクとは|意味やマーケットの関係や過去の事例について解説(ちせいがくりすく)


地政学リスクとは、地理的な位置関係や諸要素が、政治的、軍事的、社会的な緊張を高め、世界経済に影響を及ぼすリスクのことです。

本記事では、地政学リスクの意味などについて解説します。

地政学リスクとは

地政学リスクとは、特定の地域における紛争やテロなどによる政治的、軍事的緊張が、関係国や世界の経済に及ぼす不確実性(リスク)のことです。

地政学的リスクと呼ぶこともあります。

近年では、ウクライナ情勢、中東情勢などが地政学リスクの例として挙げられます。

FX市場を始めとする金融市場では、地政学リスクによる影響は短期的なものとなるケースが多いですが、主要国経済に大きく影響する事態になると長期化するケースもあるため、しっかりと最新情報を把握する必要があります。

地政学リスクは、以下の2つに分けられます。

  • ・地理的リスク
  • ・政治的リスク

地理的リスクとは

国の地理的な位置は、他国との関係に大きな影響を与えます。

隣接国との国境線や地理的特性が、緊張や紛争の発生をもたらす側面は否定できません。

さらに、自然災害のリスクも、地理的条件に密接に関連します。

地震、洪水、台風などの自然災害は、特定の地域で頻繁に発生する傾向があります。

国境紛争などのリスクに加えて、自然災害のリスクも地理的リスクといえるでしょう。

政治的リスクとは

政府の安定性が低い国では、政策変更にとどまらず治安の悪化や社会的混乱が発生しやすく、政治的な混乱の発生は、投資やビジネスに大きく影響します。

さらに、紛争やテロも政治的リスクに含まれます。

政治的リスクとしては、政府の政策変更から紛争やテロまで、幅広く捉えられます。

地政学リスクとマーケットの関係性

地政学リスクとマーケットの関係性について、以下の5つの観点から解説します。

  • ・地政学リスクと金
  • ・地政学リスクと原油
  • ・地政学リスクと債券
  • ・地政学リスクと株価
  • ・地政学リスクと為替

いずれも一般的な捉え方と動きの解説であり、実際の動きとは異なる場合もありますが、地政学リスク顕在化の際の参考にできるでしょう。

地政学リスクと金

金は、装飾品などとして古くから高い価値が認められてきた金属で、かつては金本位制が採用されていたこともあり、金融商品に近い存在です。

特徴として、金を保有しても利息や配当などは得られないため、平常時の投資家は金への投資意欲はそれほど高くありません。

しかし、戦争など地政学リスクが顕在化すると、現物資産として保有するだけで価値のある金は買われ、価格が上昇する傾向があります。

地政学リスクと原油

原油は、金と同じく金融商品としての一面がありますが、戦略物資の側面が強いです。

特に、産油国および産油国周辺で戦争などの地政学リスクが顕在化すると、原油生産能力の低下が懸念され、原油価格は上昇する傾向にあります。

地政学リスクと債券

地政学リスクが顕在化すると、それらの国や地域の債券は、投資家のリスク回避の行動から売られる傾向があり、債券価格は下落して、金利は上昇します。

一方で、地政学リスクとは関係ない国の債券は、買われる傾向があります。

地政学リスクが顕在化した国の債券を売って、地政学リスクの影響の少ない国の債券を買う、という投資行動が生じるためです。

地政学リスクと株価

戦争などの地政学リスクが顕在化すると、世界経済に悪影響を及ぼす可能性があります。

直接的な影響を受けずとも、原油価格上昇などは多くの国の経済に影響を与えます。

特に、戦争など大きな地政学リスクが顕在化した際は、世界的に株価は下落する傾向にあります。

地政学リスクと為替

地政学リスクが顕在化した際は、ドルの動向が大きなポイントです。

地域紛争など中程度のリスク顕在化なら、新興国などの通貨が売られて、ドルが買われる傾向にあります。

他方、米国に対するテロ事件などが発生すると、ドルが売られて、有事に強いスイスフランなどが買われます。

なお、以前はスイスフランに加え日本円も有事の際に買われていましたが、近年は有事の有無に関係なく円安が継続中です。

地政学リスクがマーケットに影響を与えた事例

地政学リスクがマーケットに影響を与えた事例として、以下の3つの例を取り上げて解説します。

  • ・ロシアのウクライナ侵攻
  • ・新型コロナウイルス感染拡大
  • ・Brexit(ブレグジット)

ロシアのウクライナ侵攻

2022年2月にロシアはウクライナへ軍事侵攻を開始し、2024年4月時点でも戦争状態にあります。

ロシアのウクライナ侵攻で特に大きな影響を受けたのは、原油を始めとする商品市場です。

原油価格(USOIL)は大きく上昇し、侵攻前の2月には90ドル台にありましたが、3月には一時130ドル台まで上昇しました(下の原油チャート参照)。

また、世界屈指の小麦輸出国のウクライナでの小麦生産低下が懸念され、小麦価格も急上昇しました。

原油と小麦いずれも、約半年後にはロシアの侵攻前の水準まで値を戻しました。

しかし、ウクライナ侵攻は商品価格の高騰と、世界的インフレを呼び込む結果となりました。

地政学①

出典:TradingView

新型コロナウイルス感染拡大

2020年初頭、新型コロナウイルスへの感染者が世界的に拡大を始めると、多くの国でロックダウンが実施されました。

これにより、各国および世界経済の急減速が確実視され、企業収益の悪影響を織り込む形で株式市場は急落し、コロナショックと呼ばれる状態となりました。

各国中央銀行は経済崩壊を防ぐための急速な金融緩和を行い、その効果により各国の株式市場は3月半ば頃には底打ちすることになりました(下チャートはNYダウ)。

以後は、経済の回復とともに、金融緩和を背景とする世界的な株高が進む結果となりました。

地政学②

出典:TradingView

Brexit(ブレグジット)

英国は、2016年6月23日の国民投票で、EU離脱(Brexit)を決定しました。

事前予想はEU残留がほとんどであり、英国のEU離脱決定は金融市場に大きな驚きをもって受け止められました。

英国のEU離脱決定を受けて、急速にポンドが売られる結果になりました。

ポンド/ドルは、前日まで1ポンド1.4ドル台後半で取引されていたところから、Brexit決定が報じられると1.32ドル台まで急落しました(下チャート参照)。

当日は一時1.5ドル台まで上昇していたこともあり、1日の変動幅は約1800pipsにもなりました。

その後、約3か月続くポンド下落のスタート地点ともなりました。

地政学③

出典:TradingView

【まとめ】地政学リスクとは|意味やマーケットの関係や過去の事例について解説

地政学リスクといっても、内容やその影響は幅広いものがあります。

地政学リスクを把握する際には、どのような事態が発生しているのか状態を確認するだけでなく、どのような金融商品が影響を受けているのか、という視点も重要です。

地政学リスク顕在化の際は、状況の把握に努めるとともに、金融市場を幅広く概観し、影響を受けている金融商品も把握しましょう。


本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。

この記事をシェアする

ホーム » 用語解説登録 » 地政学リスクとは|意味やマーケットの関係や過去の事例について解説