ウォール街はコモディティに強気、米国投資家はゴールド買いに奔走

マーケットレポート

中国の需要回復、中東情勢の緊迫化でコモディティ価格の見直し広がる

「沈黙は金なり」と言われて久しいが、ウォール街のストラテジストともなればそうはいかない。
しかも、足元でNY金先物が連日で過去最高値を更新し、WTI原油先物が2023年10月以来の90ドル乗せが迫るとあって、見通しを引き上げなければならないなら、なおさらだ。

中国3月財新製造業PMIが51.1と2023年2月以来、非製造業PMIも2023年4月以来の水準へ改善するほか、イスラエルとイスラム派組織ハマスとの戦闘が長期化し中東情勢の緊迫化が続くなか、供給不足を懸念にコモディティ価格は右肩上がりの様相を呈する。

チャート:中国財新、製造業と非製造業のPMIは直近で改善傾向
チャート:中国財新、製造業と非製造業のPMIは直近で改善傾向

こうした状況下、J.P.モルガン・チェースのマルコ・コラノビッチ氏率いるストラテジスト・チームは、コモディティを「オーバーウエイト」で据え置いた。
エコノミスト・チームが利下げ開始予想を従来の6月から7月に先送りしつつ、年内の利下げ幅は0.75%(3回)で維持するなか、米国を始めとするインフレ高止まりや、潜在成長を上回る経済拡大を理由に挙げる。

特に、北海ブレント原油価格については、9月までに100ドルを予想。
石油輸出国帰国(OPEC)加盟国と非加盟国は3月、追加供給削減を6月末まで延長すると発表したが、これが継続すると見込むほか、ウクライナによるロシア石油精製所への攻撃による供給減少を主な理由に挙げる。
NY金先物についても、楽観的な見通しを維持。
2,300ドルを突破する見通しだ。

バンク・オブ・アメリカも、コモディティに強気だ。
特にゴールドと銅に注目しており、年末のNY金先物につき2,317ドル、NY銅先物に対し9,321ドルを見込む。
BofAがゴールドに強気な理由は、主に①Fedを始めとした中銀の利下げ、②中国投資家の需要――の2つ。
銅については、銅鉱山の供給ひっ迫を挙げた。

金需要、中銀の利下げ観測のほか、米投資家の「インフレ・ヘッジ」も!?

NY金先物は、新興国の中銀の需要や、インフレ・ヘッジに絡む投資家の需要も考えられよう。
新興国の中銀のゴールド需要については中国が活発で、人民銀行は金の保有量を17カ月連続で積み増し、2,263トンへ膨らんだ。

チャート:中国の金保有量、17カ月連続で積み増し
チャート:中国の金保有量、17カ月連続で積み増し

しかし、ワールド・ゴールド・カウンシルによれば、2023年は中国やトルコ、インド、ポーランドなど新興国の中銀が金を積み増し、今年に入っても、一部の国でこうした流れは継続。
中国の22.1トンを始め、インドは1~2月に13.4トン、カザフスタンは11.9トン、チェコは3.4トンとなった。

もうひとつ、インフレ・ヘッジを一因に、米国内での需要拡大も見逃せない。
中国投資家の間では、「金豆」と呼ばれる、重さわずか1グラムの小口の金投資が人気とされる半面、米国では卸売大手コストコを始め、金の延べ棒が大ヒット商品と化す状況だ。

米会員制量販店大手コストコが2023年9月に始めた金の延べ棒販売は、いまや小売大手ウォルマートにも広がり、今や銀やプラチナ、パラジウムなど手広く展開している。

コストコの決算資料によれば、2023年9-11月に金の延べ棒の売上高は1億ドルに達していた。
足元、米利下げ観測だけでなく、インフレ懸念の高まりを受け、さらに需要は拡大中。
ウェルズ・ファーゴの試算では、月間の金の延べ棒の売上高は1億ドル以上、最大で2億ドルに達しているという。

実際、米国での金(非貨幣用)輸入額は、コロナ禍を経て経済が正常化した23年Q2でも121億ドルと2020年Q3以来の高水準をつけ、同年Q4も70億ドルを比較的高い水準を保つ。

チャート:米国の金(非貨幣用)輸入額と、NY金先物の推移
チャート:米国の金(非貨幣用)輸入額と、NY金先物の推移

値上がりを受けた影響もあるだろうが、需要の高まりも金の輸入を押し上げたに違いない。
米投資家にとっても、ゴールドは資産を増やす「金の卵」そのものであるようだ。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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