FOMC議事要旨、BNPLを消費支出の「下方リスク」のひとつとして指摘
「多くの(many)参加者は、クレジットカードとBNPL(Buy Now Pay Later、後払い決済)の利用拡大のほか、複数の消費者ローンにおける延滞率上昇などを背景に、中低所得者層の家計に多大な圧力が掛かっている兆候について指摘し、消費支出見通しの下方リスクとみなした」――これは、4月30日~5月1日開催の米連邦市場委員会(FOMC)議事要旨で明記された文言だ。
このうち、BNPLについて最初に登場したのは、2023年12月のFOMC議事要旨で、「多くの参加者は、クレジットカードやBNPL、給料日ローン(給料を担保として提供する小口の高金利ローン)、いくつかの消費者ローンにおける延滞率の上昇」が、今後の消費支出の鈍化につながると書かれていた。
その後、1月FOMC議事要旨では、「複数の(some)」の参加者がBNPLなどを「消費見通しの下方リスク」と指摘。
3月FOMC議事要旨では「多く(many)」の参加者にとって、BNPLなどが「消費支出の下方リスク」として格上げされ、5月の内容にいたる。
BNPL、基本的に無利息の分割払いシステム
そもそも、BNPLとは何かをおさらいしてみよう。
BNPLとは、購入後に支払いを分割して行うことが可能な短期融資の一種だ。
オンラインを含め買い物先で支払い時にレジでBNPLを選択し、承認されれば、まずは総購入金額の25%などの少額の頭金を支払う。
その後、残りの金額を数週間から数カ月間、基本的に無利息で大体4~6回の分割で返済していく。
支払いは、銀行口座やデビットカード、クレジットカードなどから自動的に引き落とされる場合が多い。
小切手や銀行振込で支払うことも可能だが、消費者金融保護局(CFPB)によると、BNPL業者のほとんどは、自動引き落とし以外の選択肢を消費者に提供していないという。
消費者にとっては、欲しい商品を基本的に無利息で購入できる上、BNPL業者は支払い上限を設定しており支払い遅延の罰金や繰り越し返済のリスクもないため、利点が多い。
ただ、貸し手によっては通常より低いながらも、金利負担などが発生する場合もある。
またアファームは、遅延料金を一切請求しないものの、「120日以上の支払いを停止すれば、ローンを貸倒処理し、第3者の回収機関へ情報がわたる可能性がある」と警告。
つまり、米国で信用力を測る上で重要な信用スコアに影響しかねない。
拡大を続けるBNPL利用額、2024年は12.4%増の808億ドルとなる見通し
BNPLの利用拡大が消費支出リスクと明記された一方で、実態がつかめていない実情がある。
FRBを始め米国のいずれの当局も、BNPLを提供する米国のアファームや豪のアフターペイ、スウェーデンのクラーなどはノンバンク系であり、Fedの監督外となっているためだ。
Fedは消費者信用残高を毎月発表しているが、BNPLに関して銀行や信用組合などがクレジットカード経由などで提供した場合ならデータに反映される反面、「(BNPL業者の)借入額、未払い残高を個別に追跡することができていない」と説明する。
従ってFedを始め米当局は、BNPLを通じた借入規模がどの程度か、実態を把握できていない。
ただ、市場調査会社のeマーケターは、2023年に前年比19.7%増の719.3億ドルと推計し、2024年に同12.3%増の808億ドル、2025年には同20.4%増の973億ドルに膨らむと試算する。
NY連銀が発表した1~3月期のクレジットカード債務残高の1兆1,150億ドル(一部のBNPLがここに含まれている公算)と比較すれば小さいが、拡大しつつあることは間違いない。
BNPL、財務脆弱性が高い利用者が多い現状
FedはBNPLの利用拡大を受け、実態調査を進めている。
ボストン連銀によれば、BNPL利用者の特徴は①高い財務脆弱性を持つ層、②非白人、③低所得――に多い。
また、フィラデルフィア連銀は、2023年10~12月期に米国人の19.9%、実に5人に1人がBNPLを利用したと報告している。
BNPLの急速な普及に加え、足元でクレジットカードの90日以上の延滞率が10.7%と2012年以来の高水準とあって、Fedとしても懸念せざるを得ないのだろう。
チャート:BNPLの利用者の特徴
チャート:2023年Q4時点で、米国人の5人に1人がBNPL使用歴あり
ただ、アファームが5月にリリースした1~3月(Q3)決算資料からは、不穏な兆しはみられない。
30日以上の延滞率は2.3%と過去2四半期の2.4%から改善した。
貸倒引当金は2億8,900万ドルと2年前から約2倍に増加したが、全体の5.3%と当時の6.3%より低い。
何より、取引額は前年同期比36%増の63億ドルと急成長を維持。
もっとも、株価は消費減速と延滞増加のリスクを意識しているためか、5月28日時点で年初来で39.7%安とS&P500の11.2%高を大きく下回った。
アファームの株価が下落する別の背景として、規制強化への懸念が挙げられよう。
消費者金融保護局(CFPB)は5月22日、BNPL貸し手をクレジットカード提供者として分類する方針を発表した。
正式に変更されれば、消費者はBNPLローンを利用して購入した製品を返品した後、貸し手への料金の異議申し立てのほか、返金要求が可能となる。
BNPL業者の一部は既に一連の消費者保護を導入済みだとしているが、今後さらに規制が強化されてもおかしくない。
規制強化以外に、BNPLに潜む罠は米労働市場の急激な悪化だろう。
米国人の過剰貯蓄は取り崩され、クレジットカードの延滞が増加するほか、足元、5月23日付けのレポートで指摘したように失業率は今後、上昇しかねない。
そうなれば、ただでさえBNPL利用者は財務脆弱性が高いだけに、クレジットカードなどと合わせた債務拡大が中低所得者層の家計を直撃しうる。
米経済の約7割を占める個人消費の下押しを通じ、米経済に影響を与えそうだ。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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