ハリス氏が民主党の大統領候補に指名か、選挙資金で勢いづくも…
バイデン大統領が7月21日、選挙戦から撤退を表明し、民主党はハリス副大統領の下で結束を強めつつある。
選挙資金も怒涛のようにハリス陣営に流れ、民主党の小口献金プラットフォーム「アクトブルー」は、ブルームバーグによればバイデン氏が選挙戦撤退を発表した7月21日に5,910万ドルと過去最高の献金額を記録した。
その他、ジョージ・ソロス氏の息子で運用資産250億ドルを誇るオープン・ソサエティ財団のトップ、アレクサンダー・ソロス氏や、リンクトイン創業者のリード・ホフマン氏など、ウォール街やシリコンバレーの大物もハリス氏の下に結集。
黒人女性支援団体の献金もあり、ハリス陣営は7月22日、出馬表明後に36時間で1億ドルを超える資金が集まったと報告した。
米大統領選での1日の集金額は、米大統領選で過去最高となる。
画像:ハリス陣営、36時間で1億ドルの選挙資金を集める (出所:Kamala HQ/X)
ただし、バイデン氏撤退後の世論調査結果では、選挙資金ほどハリス氏が優勢とは言えない。
7月21日実施のロイター/イプソスの結果はハリス氏の支持率が44%と、バイデン氏の42%を上回った。
しかし、他の結果は、ロイター/イプソスの結果を含め誤差の範囲内も一部あるが、トランプ氏がリードし続けている。
キニピアック大学が7月19-21日に実施した世論調査では、トランプ氏が49%、ハリス氏が47%。
モーニング・コンサルトが7月21日に行った調査でも、ハリス氏の支持率は45%とトランプ氏の47%を下回ったが、バイデン氏離脱前にあった6ポイント差からは縮小した。
一方で、分散型予測市場プラットフォームで、暗号資産(仮想通貨)で予想の賭けができるポリーマーケットではトランプ氏が依然として大きくリードする。
7月23日時点でトランプ氏が勝利する確率は63%と、ハリス氏の37%と水を開けていた。
なお、ポリーマーケットのような賭けサイトについて、手法が不透明などと疑問視する声もある。
しかし、自らのお金を賭けるだけに、わざわざ損をするような選択をするとは考えづらい。
一方で、ポリーマーケットの参加者に特徴があると捉えられよう。
4月半ばの米連邦準備制度理事会(FRB)理事や地区連銀総裁による早期利下げに慎重な発言などを受け、ポリーマーケットの参加者はFedの年内据え置き確率を32%と予測、FF先物市場の11%より、タカ派的な見方を示していた。
ハリス氏勝利ならテクノロジー株上昇、エネルギー株下落か
7月13日にトランプ氏暗殺未遂事件が発生直後、耳から血を流しながら空に拳を突き上げたトランプ氏の姿が不屈のリーダーとしての印象を与え、同氏が再選する可能性が高まった。
その後、ブルームバーグとのインタビューでドル高・円安・人民元安是正が飛び出したこともあり、「トランプ・トレード」が広がり、テクノロジー株から石油関連や中小型銘柄、ナスダックからラッセル2000へ資金が流れた。
中小小型銘柄が買い戻されたのは、①割安感、②テクノロジー株の夏休みを控えた利益確定の売り、③トランプ再選での製造業の復活と対中強硬策をにらんだ国内回帰――と見込まれる。
チャート:バイデン氏撤退表明直後の7月22日、S&P500のセクター別動向
ハリス氏が民主党大統領候補に近付くなか、トランプ・トレードの一部は巻き戻されつつある。
その典型例が、WTI原油先物だ。
米景気減速懸念や中国4-6月期実質国内総生産(GDP)成長率が前年同期比4.7%増と減速したことが意識された。
さらに、イスラエルとハマスの間で停戦合意が近いとの期待も重なり、WTI原油先物は7月23日までに4日続落。
加えて、気候変動対策の旗振り役だったカリフォルニア州選出の上院議員だったハリス氏が民主党代議員の半数の支持を獲得し、大統領候補の指名を確実としたことが意識されたのだろう。
ハリス氏は、バイデン政権より厳格なエネルギー規制を掛ける懸念がある。
同氏は司法長官時代、気候変動問題で国民を欺いたとして、2016年1月、エネルギー大手エクソン・モービルへの調査を開始。
同年2月には、天然ガス貯蔵施設からの大規模なメタン漏れ事故に関し、サザン・カリフォルニア・ガス社を提訴した。
なお、バイデン氏はデラウェア州選出の上院議員だったため、シェール田を抱えるペンシルベニア州と近くハリス氏ほど厳格ではないとされる。
テクノロジー株が恩恵を受けるかどうかというと、CNBCの名物司会者、ジム・クレイマー氏の言葉を借りれば「バイデン政権のように反トラスト法違反に厳格ではない」と解釈される。
確かに、ハリス氏は司法長官時代、大手テクノロジー会社の寡占状態にメスを入れなかったとの指摘もある。
何より、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が2020年8月に報じたように、フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO、当時)やセールスフォース・ドットコムの共同創業者の1人、マーク・ベニオフ氏から支援を受けるなど、結び付きも強い。
ドル高是正に動くかは、未知数だ。
Fedの政策を軸に考えるなら、利下げを受けてドル高一服の展開もあり得よう。
米6月雇用統計で失業率が2ヵ月連続で上昇し4.1%と2021年11月以来の水準へ上昇したほか、米6月消費者物価指数(CPI)では、スーパーコア(住宅を除くコアサービス)が前月比で2カ月連続でマイナスに振れ、ディスインフレを飛び越しデフレ懸念すら高まりつつある。
チャート:スーパ―コアの前月比、2カ月連続でマイナス
ハリス氏はまだ正式に大統領候補に指名されておらず、副大統領候補も不透明で、11月5日に予定する米大統領選を控え、今後さらに波乱があってもおかしくない。
トランプ・トレードの一部が巻き戻されたとしても、世論調査結果では選挙戦の行方は不透明だ。
ただ、ドル円が一時154.36円と7月24日(15時時点)に約1ヵ月半ぶり安値を付けたように、ドル高・円安の一方向の流れは、現時点で確実に変化を迎えつつあるようだ。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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