米6月雇用統計・NFP、政府が押し上げ市場予想超え
米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、前月比14.7万人増と市場予想の11万人増を上回った。
一見、堅調な労働市場を表すが、政府が予想外に7.3万人増と押し上げたことが大きい。
政府効率化省(DOGE)の人員削減により、連邦政府が同0.7万人減と4カ月連続で減少した一方で、州・地方政府が同8.0万人増と打ち消したカリフォルニアやニューヨーク、テキサスなど、概して全米の主要な州を中心に6月末に年度末を迎えるほか、夏休みに伴い公立の学校の教員などもリストラとなる季節要因を踏まえれば、今回の増加は一時的と考えられよう。
チャート:NFPのうち政府の就労者数増減
政府がNFPを押し上げた結果、政府を除いた民間就労者数は同7.4万人増と、2024年11月以降の増加トレンドで最小の伸びだった。
サービス部門では、卸売と専門サービス、その他サービスが弱い。
財部門では、鉱業・掘削に加え、製造業がそろって2カ月連続で減少。
トランプ政権は「掘って掘って掘りまくれ!」とのスローガンを掲げ原油生産量を目指し、製造業の復活を訴えるが、鉄鋼・アルミや自動車・部品の関税の影響もあって、これらの業種は軟調だ。
チャート:民間就労者数の増加幅は、2024年11月以降の増加トレンドで最小の伸び
チャート:米6月雇用統計、業種別の雇用の増減
非白人の女性、働き盛り世代以外、大卒以上で労働参加率が低下の理由
失業率は4.1%と4カ月ぶりの水準へ低下したが、労働参加率が62.3%と、2022年12月以来の水準へ低下したことが一因だ。
労働参加率の低下は、主に3つのグループで顕著となった。
1つ目は、女性だ。
女性の労働参加率は57.0%と、全米と同じく2022年12月以来の低水準だった。
男性が67.8%と前月比横ばいだった結果と、対照的だ。
女性の中でも、特に非白人で労働参加率の低下が目立った。
黒人は60.9%と2021年11月以降で最低で、ヒスパニック系も61.3%と24年6月以来の低水準だった。
チャート:人種別、女性の労働参加率
2つ目に働き盛り世代(25~54歳)以外が挙げられ、16~19歳の労働参加率は35.1%と、2020年8月以来の水準へ落ち込んだ。
20~24歳も71.0%と9カ月ぶりの低水準となる。
また、55歳以上も38.0%と、2007年以来1月以来の水準へ沈んだ。
なお、働き盛り世代の労働参加率は前月の89.2%→89.4%へ改善していた。
チャート:働き盛り世代(25~54歳)を除く労働参加率
3つ目は高学歴で、25歳以上ながら大卒以上の労働参加率は72.0%と2021年10月以降で2番目の低水準だった。
労働参加率が低下したにもかかわらず、大学院卒の失業率は前月の2.4%→2.7%へ上昇する憂き目に遭っている。
チャート:大卒以上の労働参加率と失業率
労働参加率の低下は、職探しが困難な状態を表す。
特に非白人の女性や若い世代の場合は、学歴や経験不足などを踏まえ、一般的に労働市場での競争力が高いとは言い難い。
加えて、サービス産業など裁量的支出分野や生産部門に従事している割合が高いため、足元の景気減速の波を受けやすいと考えられよう。
また、6月に減少した業種とも、整合的だ。
チャート:業種ごとに従事する人種の割合
大卒以上の労働参加率の低迷は、ホワイトカラーの職の喪失であると想定される。
足元、世界に冠たる大手企業が相次いで大規模リストラを発表。
マイクロソフトは人工知能(AI)を活用した効率化を進める一方で、7月に全従業員の4%にあたる9,000人の人員削減計画を明らかにした。
6月には、アマゾンが業務に生成AIとAIエージェントの導入を進める過程で、今後数年間で従業員数を削減する方針を表明。
同社は、退職金パッケージの支払い負担を抑制する狙いなのか、解雇ではなく自主退職を促す傾向が強い。
6月には、一部の従業員に転居か退職かを要請している。
週当たり労働時間が短縮し需要低迷を示唆、長期失業者の割合も上昇
米Q1実質国内総生産(GDP)成長率・確報値は前期比年率0.5%のマイナスへ下方修正されたが、個人消費が押し下げた。
そのうち、娯楽は同5.1%減と、コロナ禍で経済活動が停止した2020年Q2以来の落ち込みを見せた。
米5月個人消費支出でも、いわゆるYOLO(You Only Live Once=人生一度きり)のサービス分野とされた、映画や美術館、コンサート、スポーツ試合などの入場料も同2.9%減と3カ月連続で減少した。
こうした裁量的支出分野の需要低減に象徴されるように、時間当たり労働時間も34.2時間と前月から短縮した。
サービス部門の11業種中、娯楽・宿泊、卸売、公益など10業種で前月を下回っており、需要の弱さが確認できる。
財部門の3業種も、鉱業・掘削と建設の2業種短縮していた。
その他、長期失業者の割合が6月に23.3%と上昇し2022年2月以降で2番目の高水準だった。
失業期間・中央値も10.1週と2022~24年の中央値9.1週から延びた。
米6月雇用統計のNFPや失業率が堅調だった上に、トランプ大統領は7月7日、日本や韓国、14カ国に通商協議で合意に達していない国に対し、新たに25%~40%の関税を通知した。
相互関税の猶予期限切れに合わせ、一律関税10%から引き上げたもので、交渉が進展しなければ8月1日から発動する方針だ。
こうした通知があったものの、FF先物市場では、年内の3回の利下げ観測が2回に巻き戻されたままだ。
企業の採用意欲の弱さや需要の低迷を踏まえれば、年内2回利下げは未だ妥当と判断されているようだ。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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