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米政府機関閉鎖ならドル円は下落か、自民党総裁選後のドル高を相殺?

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つなぎ予算の交渉で「カブキ」再び、オバマケアの補助金延長が争点

米国の年度末にあたる9月末、もはや季節の風物詩と化しているのが、政府機関の閉鎖リスクだ。
予算交渉は、「kabuki theater」と呼ばれる。
実質的な合意形成よりも党派間の立場表明や世論向けのパフォーマンスに重点が置かれ、記者会見、テレビ出演、SNS発信などが「見せ場」として機能するほか、最終的には期限直前に妥協する「お約束」の展開が繰り返されるため、歌舞伎をもじってそう呼ばれている。

米下院は9月19日、賛成217票、反対212票で、11月21日まで、7週間にわたるつなぎ予算案を可決した。
しかし、上院の議席数は共和党が53議席、民主党が47議席であるにもかかわらず、共和党は予算案通過に必要な60票を得るために民主党議員8人の賛成を確保できず、否決された。
なお、人数で言えば共和党が60票を確保する上で必要な民主党議員は7人だが、リバタリアン系のランド・ポール議員(ケンタッキー州)と中道寄りのリサ・マコウスキー議員(アラスカ州)の造反リスクを警戒し、スーン上院院内総務(共和党、サウスダコタ州)は少なくとも8人の民主党議員の支持が必要と訴える。

米議会の民主党は、政府予算案の審議に医療保険制度改革法(以下オバマケア)の保険補助金延長を結びつけようとしている。
一方、共和党指導部は、オバマケアの補助延長について「議論には応じるが、政府閉鎖の回避後に限る」としており、つなぎ予算に向けた交渉は膠着状態にある。

マイク・ジョンソン下院議長(共和党・ルイジアナ州)はCNNの「ステート・オブ・ザ・ユニオン」にて、「オバマケアの補助金は年末までに決定すべき政策課題であり、今は政府を開けておくための対応に集中すべき時である」と発言した。
この発言に呼応する形で、スーン上院院内総務はNBCの「ミート・ザ・プレス」にて、「民主党が抱える懸念に対応するための措置が必要であると認識しており、そうした措置が講じられることを期待している」と言及。
つなぎ予算の成立を前提とする姿勢を示した。

こうした発言は、政府閉鎖が目前に迫る中で、民主党に冷や水を浴びせる形となっている。
仮にオバマケアの税額控除が年末に失効すれば、数百万人のアメリカ人にとって保険料が急騰する可能性があり、2026年の中間選挙を前に共和党にとって政治的な弱点となる恐れがあるためだ。

予算審議の期限が迫る中、トランプ大統領は9月29日に共和党のスーン上院院内総務とジョンソン下院議長、民主党のチャック・シューマー上院院内総務(ニューヨーク州)およびハキーム・ジェフリーズ下院少数党院内総務(ニューヨーク州)との会談に臨む予定である。
この会談は、トランプ大統領が先週、民主党指導部との会合を突然キャンセルし、「生産的な会談になるはずがない」と述べたことを受けて設定されたものだ。

9月30日午前0時過ぎに迫る政府閉鎖を回避するための土壇場の会談が、合意に至るかどうかは依然として不透明な状況だ。
しかも、上院の休会明けは29日、下院は29日および30日も休会を予定している。
スーン上院院内総務は、共和党下院案への反対を取り下げれば、オバマケア医療保険制度の補助金一部延長などで譲歩する可能性を示唆しているが、民主党にとって命綱であるオバマケアを人質にすることはできず、神経戦が続く。

政府機関閉鎖で雇用統計など米指標発表に遅れも、ドル円は下落!?

仮に政府機関が閉鎖されれば、米労働省、米商務省、米国勢調査局による経済指標の発表は一時停止となる見込みである。
ただし、過去の事例を踏まえれば、新規失業保険申請件数のみは発表が継続される見通しだ。

なお、政府機関が全面閉鎖された2013年10月4日に予定した米9月雇用統計は、同年10月22日まで発表を待たねばならなかった。
通常通り発表されるまでに2カ月を要したことが思い出される。
その他、米消費者物価指数など、米連邦公開市場委員会(FOMC)が金融政策を決定する上で重要なデータも、政府機関の閉鎖が長引けば、当然、その分発表も後ろ倒しとならざるを得ない。

画像:2013年の米労働統計局の経済指標修正版カレンダー
画像:2013年の米労働統計局の経済指標修正版カレンダー
(出所:米労働統計局)

S&P500は過去の傾向として、政府機関閉鎖から12カ月後に上昇する傾向が見られる。
では、ドル円はどうかというと、1990年以降に発生した7回の政府機関閉鎖に対し、すべて下落で反応しており(政府機関閉鎖直前と直後のドル円終値ベース)、平均で1.22円安となる。
これは、政府機関の閉鎖に伴い、米新規失業保険申請件数が増加する傾向があり、それを受けて米金利が低下しやすく、つれてドル売りに反応する傾向が確認できるためだろう。

チャート:1990年以降、米政府機関の閉鎖とドル円の反応
チャート:1990年以降、米政府機関の閉鎖とドル円の反応

チャート:1990年以降の米新規失業保険申請件数、米政府機関の閉鎖を挟む週
チャート:1990年以降の米新規失業保険申請件数、米政府機関の閉鎖を挟む週

日本では10月4日に自民党総裁選を控えているが、米政府機関が閉鎖された場合、過去の傾向に基づけば、ドル円は下落する可能性が高い。
さらに、足元は米企業が採用活動に慎重な状況だ。
自民党総裁選の結果次第で、ドル円は上昇するリスクが意識されるが、仮に米政府機関が閉鎖されれば、総裁選の結果を受けたドル高・円安を吸収するシナリオに留意しておきたい。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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