債券の基礎

公開市場操作とは?世界各国の中央銀行による国債買い入れする理由を解説


公開市場操作


日銀や米国の中央銀行であるFRB、そしてECBやイングランド銀行などでは、いずれも、金融調節によって短期の市場金利をコントロールすることを通じ、金融政策を運営している。その際、各中央銀行は、「政策金利」として、特定の短期金利の誘導目標あるいは中央銀行が行う短期オペの基準金利等を決めており、これと整合的な水準に短期の市場金利を誘導することが大きな仕事となっている。

公開市場操作(オペレーション、オペ)とは、中央銀行が金融市場において民間金融機関との間で行う金融資産の売買や資金貸付けなどの取引である。現在、各中央銀行における金融調節の主たる手段となっている。オペは長期オペと短期オペに区別される。長期オペは主に銀行券など、中央銀行の安定的な負債に対応するものとして、長期的に資金を供給するための手段であり、国債の買入れがその典型例となる。短期オペは、主として一時的な資金過不足に対応するための手段となる。


FRBによる国債買い入れ


FRBでは長期国債および短期国債の買入れを永続的(permanent)な資金不足に対応する観点から実施するものと位置付けており、国債の保有残高や買入総額に関しては、金融調節上の必要に応じて適宜決定する扱いとなっている。年間や月間の買入れ予定額は事前に公表されていない。

国債の買入れの運営においては、「流動性の高いポートフォリオを維持すること」を目的としつつ、「個別銘柄の価格形成や流動性を大きく歪めないこと」に配慮することとしており、FRBは内規により、すべての発行証券について、銘柄毎のFRBの保有比率は発行残高の一定額を超えないとしている。また、買入れを行うにあたって、買入対象となる国債を種別や残存期間に応じて幾つかのグループに区切り、そのグループ毎に買入れを実施している。

2008年のリーマン・ショックに続いて2010年あたりからはギリシャの財政不安をきっかけとした欧州の信用不安が高まった。ユーロと言うシステムへの懸念も強まり、世界の金融経済は大きなショックに見舞われた。このショックに対して、日米欧の中央銀行は積極的な金融緩和策を行い、その際にはこのオペレーションが使われた。FRBではQEと呼ばれた量的緩和策として、米国債や住宅ローンを担保にした証券であるMBSを積極的に市場から買い入れた。

2011年9月21日のFOMCでは、残存期間6~30年の財務省証券4000億ドルを買い入れ、残存期間3年以下の財務省証券を同額売却するというプログラムを決定。これは1961年のケネディ政権下で、ドル防衛のため短期資本を流入させることを目的として短期金利の上昇を促すとともに、設備投資促進などによる景気対策としての長期金利低下の両方の効果を促すため行なわれたことがあるツイスト・オペもしくは、オペレーション・ツイストと同様の手段となった。


ECBによる国債買い入れ


2011年5月9日に欧州中央銀行(ECB)は国債の流通市場に介入することを発表した。1999年のユーロ発足以来、欧州の中央銀行が国債の買入を実施するのは初めとなった。これは証券市場プログラム(SMP)と呼ばれ、ECBによる国債の買入目的は市場への資金供給が目的ではなく、市場機能の正常化が目的となった。ただし、債券市場にECBが介入することは、リスボン条約で禁じられているユーロ加盟国政府へのファイナンスに値するという反対意見もECB内部から出ていた。

2011年12月8日のECB定例理事会で、政策金利であるリファイナンス・オペ金利を0.25%引き下げて年1.0%にすると決定。さらに非標準的手法として、流動性を供給するため期間3年の長期リファイナンス・オペ(Long Term RefinanceOperation、LTRO)を新設することを発表した。LTROは2011年末の12 月と2012年の2月に行なわれ、ユーロ圏の信用不安を後退させる一因となった。欧州の金融機関が銀行間市場で短期資金を調達する場合、このECBによる資金供給実施前まではベースとなる政策金利に大きく上乗せした水準で調達せざるを得なかったためである。

ECBのドラギ総裁(当時)は2012年7月にユーロ存続のために必要な、いかなる措置を取る用意があると表明した。9月6日のECB理事会では、市場から国債を買い取る新たな対策を正式に決定。ECB理事会では償還期間1~3年の国債を無制限で買い入れることを決定した。ECBの国債買入は、財政不安に伴う金利上昇の抑制であり、金利上昇により資金調達が困難になることを避けるのが目的となった。

この新国債買入プログラム(OMT)には、SMPと異なり明確な条件が付けられていた。国債買入の対象となる国は、ユーロ圏諸国に対しEFSF・ESMによる支援を要請し、その支援を受けるための財政再建等に取り組む必要がある。買入の対象は期間1~3年の国債が中心となり、買い入れ規模に上限は設けず、無制限の買入となる。しかし、このOMTは利用されることはなかったものの、その存在が市場の動揺を抑える役割を果たした。

2015年1月22日のECB理事会で、FRBやイングランド銀行、日銀と同様の国債買い入れ型の量的緩和策の実施を決定した。この際、ドイツ、オランダ、オーストリア、エストニアなどが反対した。ECBの指揮によりユーロ圏の各国中銀が2015年3月から国債を含めて毎月600億ユーロの資産を買い入れる。

それを2016年の9月まで続け、買い入れ総額は1兆ユーロを超す見通しとなった。ECBの買い取りの対象はユーロ圏の政府債のほか、欧州連合関連の国際機関が発行するユーロ建て債券となった。これまでに実施した資産担保証券(ABS)などの買い取りも続けた。

ECBは2016年と2017年に期間4年のTLTRO(targeted longer-term refinancing operations)を実施し、金融機関に総額7390億ユーロの流動性を供給。これは「貸し出し条件付き(targeted)」となっており、銀行は企業など実体経済に貸し出しを行う場合にはマイナス0.4%の中銀預金金利と同水準でECBから資金を借り入れ、金利を払う代わりにキャッシュを手に入れることができた。そして、2019年9月からは、TLTROの第三弾が開始された。


イングランド銀行による国債買い入れ


イングランド銀行の短期のオペレーションでは、Short-term Repo Open Market Operations(Short-term Repo OMOs)とLong-term Repo Open Market Operations(Long-term Repo OMOs)が中心的に用いられている。

このうちShort-term Repo OMOs は、マクロ的な資金過不足に対する主たる調整手段として実施されている。このオペはイングランド銀行が予め金利を定め、応札者は金額のみを応札する固定金利入札方式により行われ、この金利がイングランド銀行の政策金利となっている。

イングランド銀行は以前、期間が1年を超えるオペ手段を有していなかったが、2006年5月に金融調節の枠組みの見直しを実施するに当たり、その一環として、債券買入オペを導入した。

2009年3月5日、イングランド銀行は金融政策委員会(MPC)において、政策金利を0.5%に引き下げるとともに、量的緩和策(Quantitative Easing)として英国債を買い入れる方針を発表(資産買い入れファシリティ、APF)。

これは2008年9月のリーマン・ショックなどによる金融経済危機に対応したものであった。2009年の3月から11月の間に総枠2000億ポンドの資産(対象は主に英国債)を購入するというもので、750億ポンド相当の社債や国債の直接買い取りを行うこととなったので、国債の大量購入により準備預金増を目指すことが目的とされた。この国債買い入れに対し政府は損失補償の契約を結んだ。

量的緩和政策の採用を公表した後、国債を初購入し、その後国債の購入額を急拡大させた。3月25日には社債を初めて購入したが、買取りの基本は国債となっていた。その後、3か月ごとに見直しがかけられ、同年5月7日に1250億ポンド、8月6日に1750億ポンド、11月5日に総枠の2000億ポンドとなった。8月6日にイングランド銀行が資産買い入れプログラムの枠を1250億ポンドから1750億ポンドに拡大する際に英国債の種類を拡大し、償還期間が3年の国債や25年超の国債も購入することを決定した。

このイングランド銀行の量的緩和の第一の特徴は、資産購入規模の大きさとなった。1年弱の期間に2000億ポンドの資産を購入したのである。この時期は、資金吸収も同時に行っていたことからイングランド銀行のネットの総資産の増加額は810億ポンド程度となっていた。

2009年度のイギリスの国債発行額は約2300億ポンドとなっていたので、2009年度でみるとイングランド銀行はイギリス国債の発行額の8割以上を購入した格好となった。

2011年10月には量的緩和第二弾ともいうべき、2012年11月までに量的緩和第一弾と合計で総枠3750億ポンドの資産を購入する資産購入プログラムが決定された。10月に上限枠を750億ポンド引き上げ2750億ポンドとし、2012年2月に2750億ポンドから3250億ポンド、7月に3750億ポンドに引き上げた。


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本記事の監修者・久保田博幸(くぼた・ひろゆき)


慶応義塾大学法学部卒業後、国内の証券会社に入社。1986年から14年間以上にわたり、債券現物・先物のディーリングを担当する。債券市場のホームページの草分け

「債券ディーリングルーム」を開設。また、幸田真音著『日本国債』(講談社)の登場人物のモデルとなる。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策に詳しい。現在、金融アナリストとしてヤフーニュース(個人)に記事を配信している。また「牛さん熊さんの本日の債券」というメルマガを配信中。日本アナリスト協会検定会員。主な著書に『日本国債先物入門』(パンローリング)、『債券の基本とカラクリがよーくわかる本』(秀和システム)、『中央銀行と金融政策がよくわかる本』(秀和システム) など多数。

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