トランプ大統領就任100日、支持率低迷でも足元は「移行期間」か

ニュース

トランプ大統領の就任100日、インフレ減速で成果も…

4月29日で、トランプ大統領は就任100日目を迎えた。
米下院共和党は、トランプ氏の就任演説での言葉「黄金時代の到来」とかけてX(旧ツイッター)にて100をゴールド仕様にして投稿。
確かに、NY金先物が最高値を更新し続けるように、金の時代を迎えたが、それは不確実性の高まりを象徴する値動きと判断する見方が根強い。
逆にCFRAリサーチの分析に基づけば、S&P500は100日目に7.3%安と、ニクソン大統領(当時)2期目の9.9%安に続き、1945年以降で2番目の低水準だった。

従来、就任100日はハネムーン期間とされ、大統領の支持率は高水準を保つが、トランプ氏の場合は振るわない。
ワシントン・ポスト紙が同紙とABCニュース、ギャラップの世論調査結果を基に報じたところ、就任100日目を控えたトランプ氏の支持率は39%と、ルーズベルト大統領2期目以降で最低を記録した。

チャート:就任100日を控えた各大統領の支持率で、トランプ氏は1937年以降で最低(※トランプ氏のみ2期目も表示)
チャート:就任100日を控えた各大統領の支持率で、トランプ氏は1937年以降で最低(※トランプ氏のみ2期目も表示)

保守系のFOXニュースが実施した世論調査でも、トランプ2期目の支持率は44%と、1期目の45%を始め、バイデン氏(54%)、オバマ氏(62%)、ブッシュ氏(子、63%)を下回った。
政策別では、「国境警備」の支持率が55%と不支持率の40%を上回る程度で、「移民対策」は47%と僅差ながら不支持率の48%を下回るほか、「経済」は38%、「関税」や「インフレ」も33%と、ことごとく弱い数字が並ぶ。

トランプ政権は、ホワイトハウスのwebサイトで4つの優先課題、①米国を再び安全に、②米国をエネルギー支配国とし、生活費を引き下げ、③既得権益を一掃、④米国の価値観の回復――を挙げた。
このうち、①は国境警備の強化や不法移民の強制退去などを含むが、移民の拘留者数は2025年度(24年10月~25年3月末まで)で4万7,928人と、まだ年度末まで半年を残すところ、前年度の3万7,684人から27.2%増加した。
政策別のうち、「国境警備」への評価が高い理由だが、米3月消費者物価指数(CPI)が前年同月比2.4%と4カ月ぶりの低い伸びを記録、米連邦準備制度理事会(FRB)が注目する住宅を除くコアサービスを指すスーパーコアも同2.9%と、2021年3月以来の落ち着きを示したにもかかわらず、トランプ氏の評価につながっていない。

チャート:米3月CPIはインフレ減速を確認も、支持率は低下
チャート:米3月CPIはインフレ減速を確認も、支持率は低下

関税をめぐる不確実性の高まりで、家計のセンチメントは急激に悪化

トランプ2期目の支持率が低い理由は、相互関税を始め一連の関税措置であるのは明白だ。
4月に公表された米地区連銀報告、通称ベージュブックでは、見通しについて「一部の地区では特に関税をめぐる経済の不確実性を受けて、見通しが悪化した」と明記。
その報告通り、「関税」の文言は107回登場。
トランプ1期目以降で、最多を記録した。
また、「不確実性」の文言も89回使用され、それぞれ前回3月分から約2倍へ急増した。

NY連銀発表の消費者見通しでも、関税をめぐる不安が確認できる。
ミシガン大学消費者信頼感指数の場合、インフレ期待は1年先で民主党支持者が押し上げ全米で6.5%と1981年以来の高水準となったように党派性が強いとされる。
しかし、NY連銀調査の1年先インフレ期待でも3月に3.6%と、2023年10月以来の高水準だった。
関税により「インフレ再燃→企業の利益率低下→業績悪化→解雇増加」といった悪循環が見込まれたためか、労働市場の予想も著しく悪化し「1年先に失業率が上昇する」との予想は44%と、コロナ禍で経済活動が停止した2020年4月以来の水準へ急伸。
家計見通しも悲観度が増し、「1年先に家計が悪化する」との回答は30.0%と2023年10月以来の水準へ跳ね上がった。

チャート:NY連銀、インフレ期待は1年先が上振れ
チャート:NY連銀、インフレ期待は1年先が上振れ

チャート:1年先に失業率が上昇するとの予想は2020年4月以来の高水準
チャート:1年先に失業率が上昇するとの予想は2020年4月以来の高水準

センチメント以外のハードデータも弱含み、米3月雇用動態調査でも、求人件数が719.2万件と6カ月ぶりの水準へ減少。
結果、失業者1人当たりの求人件数は1.02件と、2021年4月以来の水準へ落ち込んだ。

トランプ政権、就任100日目に自動車関税の負担軽減を発表

トランプ政権は大統領就任100日を迎え、事態の改善を図ろうとしている。
トランプ氏は3月26日、1962年通商拡大法232条に基づき、自動車・部品の輸入に25%の追加関税を課す米大統領布告に署名。
輸入車に対しては25%の追加関税を4月3日から発動し、自動車部品については5月3日からの適用とした。
これについて、ラトニック商務長官は4月29日に米国内で車両を生産する全ての自動車メーカーを対象に、関税負担の軽減を発表。
輸入車への25%関税につき、カナダやメキシコ製品に対する25%の関税、鉄鋼・アルミニウムなどと重複しないよう調整し、その分を遡及して払い戻す予定だ。
また、米国で組み立てられた車両の価値の最大15%相当を輸入部品に対し、関税控除として適用が可能となる。
5月3日から適用予定の自動車の輸入部品への25%関税も、米国製自動車の価値の3.75%まで1年間払い戻し、2年目に2.5%へ低下し、段階的に廃止するという。

4月2日に国際緊急経済権限法(IEEPA)を基に発表した関税措置については、まず4月5日から一律10%関税を発動した。
しかし、各国・地域別に4月9日から個別に割り当てた関税率を課す予定だった相互関税については、報復関税で対抗した中国以外、90日間にわたり停止し10%に引き下げると決定、既に修正に動いている。
そもそも、トランプ政権は関税につき「交渉カード」と位置づけ、特に相互関税をめぐっては、中国の周辺国で迂回輸出を行っていたと目されるベトナムなどASEAN諸国に厳しく課していた。
結果、中国を除き各国・地域は米国と関税撤廃に向け交渉を開始しており、トランプ政権の目的の一部は達成できたため、「飴と鞭」のうち、鞭を振り続ける必要がなくなったのだろう。
今後、インドや日本が最初かと囁かれる大筋合意に至った国に対し、「飴」の中身が徐々に明らかになれば、有権者の過度な悲観が巻き戻される余地もあるのではないか。
中国商務部は4月29日、トランプ就任100日目を迎え、ボーイング納入停止で米中の航空会社が打撃を受けたとした上で「中国は米国が通常の貿易および投資活動に向け、安定かつ予測可能な環境を整備するよう望む」と表明した。
加えて、同日、ロイターが米国産エタンにつき125%の関税を免除する方針と伝えた。
中国にとってプラスチックに代表される原料のエタンはほぼ全て米国から輸入しており、関税免除は時間の問題だったが、一連の動きが米中貿易戦争の緊張を緩和させ、両者の協議開始へ向けた融和への一歩となってもおかしくない。

今が最悪期?不確実性が急速に高まるも、ベージュブックで「景気後退」予想の報告ゼロ

トランプ氏は2月2日、トゥルース・ソーシャルで関税をめぐり痛みを伴う可能性に言及した。
3月9日には、FOXニュースとのインタビューで景気後退のリスクを問われ「多少の移行期間はある」と発言した。
トランプ氏自身、米国のセンチメントの冷え込みや米経済指標の減速は、ある程度、想定内だったと考えられる。
しかし、トランプ政権にとって幸いなことに、ベージュブックでは「関税」や「不確実性」の文言が急増した反面、「景気後退」を予想する報告は確認されていない。

チャート:ベージュブックで「関税」、「不確実性」の登場回数は4月に急増も、「景気後退」はゼロ
チャート:ベージュブックで「関税」、「不確実性」の登場回数は4月に急増も、「景気後退」はゼロ

トランプ政権は、ベッセント財務長官が4月23日の講演で示したように「ブレトンウッズ体制の再構築」を目指すという。
いわば、1年目はトランプ氏が言う「移行期間」にあると言え、足元が最悪期となるか、トランプ政権の真価が問われよう。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

Provided by
株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。

この記事をシェアする
一覧へ戻る

ホーム » マーケットニュース » トランプ大統領就任100日、支持率低迷でも足元は「移行期間」か