5月日銀はハト派寄りでも、ドル円の上値は限定的か

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日銀、植田総裁会見で年内利上げ期待が後退

日米協議が開催されるなか、日銀金融政策決定会合が4月30日から5月1日に開かれ、市場予想通り政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.5%程度で据え置く方針を決定した。
事前の報道の通り、四半期に一度公表される展望レポートは、成長と物価(コア)の見通しが25年と26年度ともに下方修正され、ハト派的な内容となった。

成長見通し中央値は25年度につき従来の1.1%→0.5%に下方修正したほか、26年度も1.0%→0.7%へ引き下げた。
今回から追加の27年度は1.0%と、潜在成長率程度を見込む。

物価見通し(生鮮食品を除くコア)中央値について、25年度は従来の2.4%→2.2%、26年度も従来の2.0%→1.7%へ下方修正した。
27年度は1.9%と、物価目標2%以下を見込む。

物価見通し(生鮮食品及びエネルギーを除くコアコア)中央値について、25年度は従来の2.1%→2.3%へ上方修正した。
しかし、26年度は従来の2.1%→1.8%へ下方修正。
27年度は2.0%、物価目標2%との一致を見込む。

チャート:展望レポートの中央値、下方修正が目立つ
チャート:展望レポートの中央値、下方修正が目立つ

展望レポートで成長・物価見通しの他、リスクバランスを修正した。
今回の内容は以下の通りで、トランプ政権の通商政策をめぐる不確実性の高まりを受け、経済と物価に対し、25年度と26年度は「下振れリスクの方が大きい」と明記。
前回の、経済見通しについて「概ね上下にバランス」、物価の見通しについて「2024 年度と2025 年度は上振れリスクの方が大きい」から、下方修正した。

画像:展望レポートのリスクバランスに係る文言、今回は前回から下方修正(斜線は今回削除された箇所を示す)
画像:展望レポートのリスクバランスに係る文言、今回は前回から下方修正(斜線は今回削除された箇所を示す)
(出所:日銀よりストリート・インサイツ作成)

植田総裁の会見も、展望レポートの変更に合わせハト派寄りへシフトした。
主な発言は以下の通りで、特に「物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられる時期は、見通し期間の後半になる見込み」と述べ、利下げ期待の後退につながった。
これまでの2%達成の時期は「2025年度の後半から2026年度中」から、今回の展望レポートで2027年度が追加されたため、「2027年度までの見通し期間後半」と1年後ずれすることとなる。
会見の終盤には、物価上昇が伸び悩む中で「無理に利上げすることは考えていない」とも言及した。

もっとも、植田総裁は「利上げの時期が同様に後ずれするかというと必ずしもそうではない」と釘を刺すことも忘れず。
物価が上昇すると判断した場合は「やるときはやる」と明言し、利上げ姿勢を崩していない。

画像:植田総裁、5月会合での主な発言内容
画像:植田総裁、5月会合での主な発言内容

日銀会合と植田総裁の会見を受け、5月2日時点の年内の利上げ織り込み度は10月の11%が最も高い程度で、ほぼ見送りが優勢だ。
しかし、年内利上げなしとの判断は早計だろう。
トランプ関税の混乱は収束に向かいつつあり、米株相場も4月の下落を概ね打ち消した。
何より、Fedが利下げに急がない立場を維持する限り、ドル円が再び上昇するリスクも否定できない。

日米財務相会談について、加藤財務相や三村財務官は、ベッセント財務長官からドル高・円安是正をめぐる具体的な為替水準で要請がなかったと強調した。
しかし、ベッセント財務長官が4月26日にX(旧ツイッター)に投稿した内容では、「為替について協議した」との明確な記述を確認した。
赤沢経済再生相が4月30日から5月2日に訪米し第2回の日米協議を行うなか、同氏が5月2日に投稿したXの写真には、三村財務官の姿が認められている。

日銀の金融政策により、実質金利が大幅なマイナスの状況下、日銀の金融政策正常化が暗に求められてもおかしくない。
何より、ドル円の上昇局面では、トランプ大統領の口先介入が飛び出すリスクにも留意すべきだろう。

チャート:日本をはじめ、主要国の実質金利
チャート:日本をはじめ、主要国の実質金利

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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