中国格安通販大手に対し、G7各国が規制強化で協調

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G7財務相・中央銀行総裁会議の共同声明、中国を念頭に「過剰生産」を明記

G7財務相・中央銀行総裁会議が、カナダで5月20ー22日に開かれた。
トランプ政権が相互関税を発表し、90日間の一時停止を受けて各国・地域が米国と通商協議を続ける過程で、関税について言及を控えるなど、特にサプライズはなかった。

ただし、公表された声明では、「持続不可能な世界的なマクロ不均衡に対する懸念を共有した」、「過度な不均衡に対処し、マクロのファンダメンタルズを強化する必要性を強調」と明記。
さらに「非市場的政策及び慣行(NMPPs)がどのように不均衡を悪化させ、過剰生産能力を助長し、他国の経済安全保障に影響を及ぼすかについて、共通理解の必要性を認識」との文言も盛り込んだ。
一連の文言は、名指しこそ控えられたが、粗鋼生産を始め中国の過剰生産を念頭に置いたものと考えられ、ベッセント財務長官率いる米国側の勝利と言えよう。

ベッセント財務長官は、関税の分類として国や地域を①緑のバケツ(概して同盟国、日英韓など)、②黄色のバケツ(概して友好国、インドのような米国の敵対国であるロシアと通商関係が深い国などを含む)、③赤のバケツ(概して中露などの敵対国)――に振り分けると発言していた。

このうち、①の緑のバケツについては、同盟国というだけでなく、①価値観の共有、②経済の共有、③防衛の共有、④為替目標の共有――が必要と述べている。

米英が5月8日に異例のスピードで貿易協定を締結した理由は、単に米国が対英貿易黒字を計上するだけでなく、鉄鋼・アルミなど金属につき相互間の関税をゼロとした一方で、他国・地域に関税を課す貿易圏の創設や医薬品のサプライチェーン確保を含んだ。
これらは、中国をにらんだ対応であり、英国が米国の要請に応じ対中包囲網で協力した結果と言える。

従って、今回のG7財務相・中央銀行総裁会議の共同声明も、米国にとって望ましい内容であり、各国にとっても米国との通商協議の円滑化をにらんだものだろう。

画像:G7財務相・中央銀行総裁会議の共同声明、主なポイント
画像:G7財務相・中央銀行総裁会議の共同声明、主なポイント

EUは中国格安通販大手シーインに警告、デミニミス・ルールも修正へ

貿易協定が締結されていなくとも、G7各国との間では、中国の格安通販において協調姿勢が確認されつつある。
欧州連合(EU)の行政機関である欧州委員会は5月26日、同委員会と各国の消費者保護当局からなる消費者保護協力(CPC)ネットワークが、中国格安通販大手シーインの事業慣行がEUの消費者法に違反しているとして、同社に通知を送付したと声明を発表した。
声明では、シーインの重要な問題点として返品対応が不明瞭、偽の商品割引の提示、セールに虚偽のカウントダウンタイマーを設置し商品購入を煽る仕組み、商品に誤解を招くサステナビリティ関連を表記――を指摘。
その上で、シーインが対応しない場合、①各国の当局は法令遵守を徹底させるための措置を講じる、②EU加盟国でのシーインの年間売上高に基づく制裁金を課す可能性も含まれる――とした。

欧州委は2月、シーインの他、別の中国格安通販大手Temuに、サイト内で販売されている危険な商品を取り締まる責任があると通知していたため、シーインへの対応はG7財務相・中央銀行総裁会議とは別と判断する向きもあるだろう。
しかし、シーインへの対応は米国をにらんだ動きと考えるのが自然だ。
その証左が、EUによるデミニミス・ルール(小口貨物の免税措置)への対応である。
EUは5月21日、150ユーロ(約2万4,350円)の小口貨物に対し、一律2ユーロの料金を導入することを提案した。
今回の対応につき、EUのシェフチョビッチ欧州委員(通商担当)はシーインやTemuが免税対象外になると明言。
ロイターによれば、EUへの小口貨物は2024年に46億個流入し、その9割が中国からで、前年比で2倍に急増しただけに、対応せざるを得なかった事情が窺える。

もうひとつ、EUがデミニミス・ルールの適用修正に動かざるを得なかった理由こそ、米国による措置だ。
米中が90日間の115%の関税引き下げで合意したが、デミニミス・ルールは従価税を120%から54%へ引き下げられつつ、一時停止とはならなかった。
その結果、欧州では中国の格安通販大手の商品が欧州に向かってくる懸念が生じ、このような対応が講じられたのだろう。

日本でも、中国格安通販への対応が進んでおり、財務省はデミニミス・ルールの見直しへ舵を切った。
消費税を課税する方向で、検討が進んでいる。
その他、英国も小口貨物にて一律の手数料を課す方向で協議されている。

チャート:G7各国のデミニミス・ルールの修正内容
チャート:G7各国のデミニミス・ルールの修正内容

欧州や英国が利下げサイクルをたどるように、景気減速に直面するなか、安価な中国製品が大量に流入すれば、デフレのリスクを強めかねない。
日欧のデミニミス・ルールの修正は小さな一歩に過ぎないが、G7財務相・中央銀行総裁会議の声明の変化を含め、欧州を始め各国が米国と足並みをそろえざるを得ない状況を示唆しているかのようだ。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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