4.5兆ドルもの減税を盛り込むOBBB、当初目標の7月4日までに成立か
「2025年版:これぞ自由だ!『ひとつの大きく美しい法案(OBBB)』の目玉はこちら!」――ホワイトハウスは6月28日、ヒット曲を集めたコンピレーション・アルバム「NOWシリーズ」をオマージュした、ポップな内容をXに投稿した。
上院が6月28日、トランプ政権肝煎りの税制・歳出法案であるOBBBの審議開始をめぐり、51対49で可決。
共和党上院議員53人のうち、リバタリアン寄りのランド・ポール議員(ケンタッキー)、中道派のトム・ティリス議員(ノースカロライナ)の2人が反対にまわったが、独立記念日である7月4日の成立へ向け、重要な難関を突破した。
トランプ大統領がこれを評価し、トゥルース・ソーシャルにて「素晴らしい勝利だ!」と投稿した流れに合わせ、ホワイトハウスも祝福モードに花を添えた。
画像:ホワイトハウス、上院で動議可決した後の喜びの投稿
(出所:The White House/X)
上院が可決したとしても、債務上限引き上げ幅を含め(下院案:4兆ドル、上院案:5兆ドル)、5月22日に下院が通過した内容と詳細が異なるため、すり合わせが必要となる。
7月4日の成立を目指すのであれば、スピード採決が必要であることは言うまでもない。
OBBBとは、国境警備や国防費拡大の他、トランプ1期目の2017年に成立した税制改正法の恒久化を含め10年間で4.5兆ドルもの減税が柱となる。
減税案は他に、チップや残業代の課税免除、児童扶養税額控除、自動車ローン金利控除、MAGA口座(子供向け貯蓄口座)創設、州・地方税控除(SALT)の上限引き上げなどが盛り込まれている。
一方で、減税に伴い、歳入を補填するため、電気自動車(EV)や太陽光・風力発電向けの税額控除の早期打ち切り、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)を始め社会保障のコスト削減、海外送金への課税などが並べられた。
ただし、上院案では各州がメディケイドの予算拡大に活用してきた「プロバイダー税(連邦政府から補助金を獲得する上での手段)」について、米連邦政府が予定していた課税上限の引き下げ時期の延長が加えられた。
この措置により、州は当面の間、従来どおりの課税水準を維持し、メディケイド予算の安定的な確保を図ることが可能となり、中立派の共和党議員の支持を集める一因となった。
チャート:主な減税措置と、歳入減を補填する措置
OBBB、「現行の政策での基本シナリオ」では約5,076億ドルの赤字縮小!?
OBBBは、減税案を目玉とするだけに①財政悪化、②GDPの押し上げ――の効果が期待される。
米議会予算局(CBO)は6月17日、下院案を基に財政赤字が向こう10年間で2.8兆ドル増加すると試算した。
上院案については、6月29日に10年間で3.3兆ドルの拡大を見込む。
上院案の方が下院案より財政赤字の増大が予測された一因は、「内国歳入法899条」、別名「報復税」の撤回だ。
内国歳入法899条とは、OBBB策定にあたり、新設された条項である。
米国の企業や個人に対し不公平な税制を課す国・地域の政府、企業、個人に対し、米国で得た所得に追加で課税するもの。
課税対象は、配当、利子、ロイヤリティ、事業利益など。
初年度は5%、4年以上の場合は最大20%(上院案は3年以上、15%)上乗せする内容だった。
両院税制合同委員会は、10年間で1,160億ドルの増収になると試算していたが、6月26日、G7諸国との合意を受けベッセント財務長官が法案からの削除を要請し、上下院共和党指導部がこれを受け入れ、撤回の運びとなった。
CBOは、上院版のOBBBにつき向こう10年間で3.3兆ドルの財政赤字拡大を予測したが、さらに膨らむリスクがある。
借り入れコスト、つまり金利負担が含まれていないためだ。
ニューヨーク・タイムズ紙は、借り入れコストを含めれば、4兆ドルに達すると試算。
リバタリアンの共和党上院議員のポール氏が反対した主たる理由こそ、この赤字拡大だった。
共和党上院は、OBBBが財政悪化につながらないと主張すべく、会計当局に対し、予算の見積もり手法の見直しを求めている。
2017年の税制改正法を通じた減税の期限切れは2025年末であるため継続中と考えられ、これを延長しても「新たなコスト」にならないというわけだ。
CBOが、この「現行の政策での基本シナリオ(current policy baseline=CPB)の考え方を採用し試算も行ったところ、むしろ財政赤字は約5,076億ドル減少するという。
チャート:CBOが試算した下院と上院のOBBB、それぞれの財政インパクト
CEAは年平均1%のGDP押し上げを予測も、他の試算では限定的
OBBBが成立すれば、景気押し上げも期待できる。
米大統領経済諮問委員会(CEA)は、内国歳入法899条を削除する前の当初案である上院財政委員会のOBBB版を基に、2028年までの4年間で成長率を4.6~4.9%押し上げると予測、年平均では1.1~1.2%のプラスとなる。
ところが、他機関の予測はもっと低い水準にとどまる。
民間の独立税制調査機関であるタックス・ファンデーションは、向こう10年間で平均1.0%押し上げ、年平均では0.1%プラスと見込む。
下院版になると、成長率の押し上げ効果は0.5%以下と、一段と限定的となる見通しだ。
チャート:各機関が予測したGDPへの影響
OBBBの成立をめぐり、財政悪化への懸念と成長促進の期待、市場はどちらを重視するのか。
足元では、少なくとも米10年債利回りは低下の軌道を描き、財政赤字の拡大を警戒していないようだ。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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