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最後のジャクソン・ホール会合で、パウエルFRB議長は何を語るか

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FRB議長最後のジャクソン・ホール会合で、パウエル氏は利下げの地ならしを行うか

ベッセント財務長官は、トランプ大統領からの絶大な信頼を得る閣僚の一人だ。
今まで、4月と7月の二度にわたり、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の解任を阻止したとされる。

ただし、ベッセント氏は前回のコラムで指摘したように、トランプ政権の意向を汲み取り、自身の管轄外に物申すことも辞さない。
8月13日には、日銀にだけではなく、FRBにも金融政策についての見解を表明。
米雇用統計の速報値が修正値のように弱かったとすれば、6月と7月に利下げしていた可能性があったとして、「9月の0.5%利下げを起点とした、一連の利下げを行うと思う」と述べた。

さらに、モデルで推計すれば、「1.5~1.75%の利下げ余地がある」とも言及した。
現状のFF金利誘導目標4.25~4.5%から1.5%引き下げられれば2.75~3.0%、1.75%引き下げられれば2.5~2.75%となる。
この水準は、FOMCが6月の経済・金利見通し(SEP)で示した長期のFF金利予想・中央値、すなわちFOMC参加者が想定する「中立金利」の目安と解釈されるものだが、これが3%にあたる。
従って、金利環境から引き締め部分を取り除くべきとの見方を寄せたと言えるだろう。
実際、ブルームバーグのインタビューでは「調整の一環」と言及していた。

チャート:6月FOMCでのSEP
チャート:6月FOMCでのSEP

ジャクソン・ホール会合前に公表された米物価指標は、加速

このような流れを受け、パウエルFRB議長が8月22日にジャクソン・ホール会合で行う「転換期にある労働市場」と題した講演で、利下げへの地ならしを行うか、熱視線が注がれている。
米7月CPIの総合は前年同月比で横ばいだったが、スーパーコア(住宅を除くコアサービス)は3カ月連続、コアCPIも2カ月連続で上向いた。
金融市場は懸念したほど上振れしなかったと判断したが、徐々にインフレ圧力を示す。
加えて、米7月生産者物価指数(PPI)に至っては、サービスが押し上げ前年同月比で3.3%と5カ月ぶりの強い伸びだった。
PPIの上振れ項目を見ると、食品など関税に絡む品目の他、ポートフォリオ管理や航空運賃など、PCE価格指数に反映される品目が含まれる。

加えて、米7月小売売上高も前月比0.5%増、GDPの個人消費に反映されるリテール・コントロール(自動車、ガソリン、建築材、外食)も同0.5%増と堅調だった。
小売売上高の場合は、13品目のうち4番目に規模が大きい外食が減少しており、新学期セールやアマゾン・プライムデーを始めとしたオンライン・セールの影響が大きいと考えられるものの、差し迫った利下げが必要な状況には見えない。

チャート:米7月コアCPIとスーパーコア(住宅を除くコアサービス)、そろって加速
チャート:米7月コアCPIとスーパーコア(住宅を除くコアサービス)、そろって加速

チャート:米7月PPI、前年同月比は5カ月ぶりの強い伸び
チャート:米7月PPI、前年同月比は5カ月ぶりの強い伸び

チャート:米7月小売売上高は前月比0.5%増と堅調
チャート:米7月小売売上高は前月比0.5%増と堅調

チャート:FF先物市場、8月18日時点で9月利下げ織り込み度は83.6%
チャート:FF先物市場、8月18日時点で9月利下げ織り込み度は83.6%

パウエル氏と言えば、6月FOMC後の会見で夏場のインフレ加速に警告を発していた。
このタイミングで利下げを示唆すれば、自身の考えが間違いだったと認めることになる。
何より、トランプ氏が利下げに「遅過ぎ」と批判を続けるなか、パウエル氏は2026年5月で任期を満了する見通し。
いわば、今回のジャクソン・ホール会合は、自身の集大成となり、中銀の独立性がいかに重要か強調しそうだ。
現状では利下げへ急旋回するようには見えない。

しかし、8月18日時点で9月利下げを83.6%、前週は一時100%織り込んだ。
年内の利下げも2~3回の間で揺れ動いている。
このような状況でタカ派姿勢を打ち出せば、金融市場を混乱の渦に落とし込みかねない。
少なくとも、雇用や物価の安定が示されるならば、利下げが選択肢との見解を示すシナリオが想定されるが、FRB議長最後のジャクソン・ホール会合に臨むパウエル氏に、苦渋の選択が迫られよう。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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