9月FOMCは市場予想通り0.25%利下げ、ただし2026年は失望誘う
「タカ派的利下げ」――9月16~17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を評価するならば、このような見方が下されるだろう。
FOMCでは、FF金利誘導目標を0.25%引き下げ、4.0~4.25%に設定した。
市場予想通り、2024年12月以来の利下げを決定した格好だ。
利下げに合わせ、声明文はハト派へ修正。
リスク・バランスについて「雇用に対する下方リスクが高まっていると判断した」と変更し、労働市場に配慮した利下げであると明確化した。
反対票を投じたのは、新たにFRB理事に就任したミラン氏であり、今回の会合において0.5ポイントの引き下げを要請した。
しかし、同じくトランプ大統領によって指名されたボウマンFRB副議長およびウォラーFRB理事は、0.5%の利下げ支持には回らなかった。
四半期に一度公表される経済・金利見通しでは、労働市場の下方リスクを警戒し利下げを決定した一方で、2026~27年の失業率は強い方向へ修正し、2025~27年にわたり成長率見通しを引き上げた。
一方で、FF金利見通しの中央値は、年内に残された2回のFOMCにおいて連続利下げを示唆したものの、2026年および2027年はそれぞれ0.25%ずつ1回の利下げにとどまり、2028年は据え置きを予想。
FOMCを控え、2026年末までに少なくとも2回の利下げを織り込んでいたFF先物市場の期待に反する結果となった。
なお、今回から2028年分が追加された。

チャート:9月の2026年末のFF金利予想中央値、FF先物市場の期待に届かず

チャート:経済・金利見通し、2026年の利下げを1回と予想するように景気・労働市場を悲観視せず
「リスク管理」の利下げと明言したパウエル議長、トランプ政権に徹底抗戦の構え
パウエルFRB議長は、FOMC会見の冒頭で関税によるインフレの影響について「合理的な基本シナリオとしては、インフレへの影響は比較的短期的であり、物価水準の一度限りの変化にとどまると見られる」と述べた。
「一度限り」との表現はベッセント財務長官が使っていた言葉であり、トランプ政権の認識を倣ったと言える。
しかし、今回の利下げは「リスク管理のための措置(risk management cut)」、つまり予防的利下げとの考えを示すなど、市場予想よりタカ派的な内容が目立つ。
主な発言のポイントは、以下の通り。
- ・今回の利下げは「リスク管理のための措置」であり、その言葉通りGDP見通しは上方修正された。
- ・労働市場に対するリスクが、利下げ決定の主因である。
- ・0.5%の利下げは「幅広い支持を得られなかった」と明言し、現状は大幅利下げを正当化する「状況には全く該当しない」との立場を表明。
- ・雇用の最大化と物価の安定という二大目標をめぐる「リスク・バランスは均衡に近づいている」との認識を示し、政策スタンスを「中立的な方向へ移行すべき」との見解を示唆した。
- ・関税によるインフレの影響は「財価格に反映」されており、「今年のインフレ率上昇の大部分、あるいはすべてが財価格の上昇によるもの」と説明。
- ・利下げを実施しつつも量的引き締めは継続しているが、準備金の水準を踏まえれば停止が近い可能性があると示唆し、「マクロ経済に大きな影響を与えるとは考えていない」と言及。
- ・第3の目標である「長期金利の適正水準」については、政策対応すべきではないとの立場を示し、ベッセント財務長官やミランFRB理事の主張に反対する姿勢を示唆。
以上をまとめると、パウエル議長は①今回の利下げについて「リスク管理のための措置」との判断と強調、②利下げはあくまで中立水準へのシフトであり緩和的領域へのシフト示さず、財を通じた関税インフレへの警戒は継続、③量的引き締めの停止は視野に入るもののFRB改革には否定的――の立場を明らかにした。
市場の期待ほど、金利低下を招かない姿勢を強調するなど、トランプ政権に徹底抗戦の構えを打ち出したように映る。
2026年の利下げ見通しが市場の期待に反し1回にとどまったほか、パウエル議長の会見内容が「タカ派的利下げ」を示した結果、ドル円は下落を急速に巻き戻す展開に。
9月FOMCの政策発表および経済・金利見通し発表直後には8月14日の安値146.21円を下回り、145.48円まで落ち込みレンジブレイクを達成したが、パウエル議長の会見中に反発し、9月18日の午後14時30分までには一時147.29円まで上昇した。
その他、興味深い発言として、2026年5月にFRB議長の任期満了を迎えるにあたり、FRB理事からも退任するのかとの質問に対し、パウエル氏は回答を避けた。
仮に「イエス」と答えれば、自身の空席を新たなトランプ指名が埋めることになる。
そうなれば、FRB執行部7人のうち、4人がトランプ指名となり多数派に転じるだけに、敢えて答えなかったと言えるのではないか。
パウエル議長、ミラン氏の宣誓式に出席せず
9月FOMCが開催された9月16日、トランプ大統領が指名したミラン氏がFRB理事に正式に就任した。
興味深いことに、パウエルFRB議長は宣誓式を執り行わず、代わりに合衆国第11巡回区控訴裁判所のエリザベス・L・ブランチ判事が立会人を務めた。
宣誓式の立会人はFRB議長である必要はないが、バイデン前政権下で就任したジェファーソン氏(副議長就任含む)、クック氏、クーグラー氏、またトランプ政権下で就任したボウマン氏(副議長就任含む)およびウォラー氏の場合、すべてパウエル氏が宣誓を執り行い、写真にも記録されている。
パウエルFRB議長は、第3の目標の採用に否定的な姿勢を示しており、ベッセント財務長官やミランFRB理事に対して対立的な立場を取ったとも言える。
ミラン氏との対立は、この宣誓式の時点で既に始まっていたと見ることができる。
ちなみに、FRB議長が宣誓式の立会人とならなかった前回の事例は2006年2月であり、当時のFRB理事ケビン・ウォーシュ氏の宣誓式では、ベン・バーナンキFRB議長ではなく、ディック・チェイニー副大統領が立会人を務めた。

画像:ミラン氏の宣誓式の様子
(出所:FRB)

画像:過去のFRB理事就任の宣誓式の様子
(出所:FRB)
パウエル議長が出席を見送った理由は、本人の意志以外に、トランプ政権側の希望だった可能性は否定できない。
しかし、仮にパウエル氏の意志だったならば、FRBの改革に否定的だった立場などを含め、トランプ政権への反発をにじませたかのようだ。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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