ホーム » マーケットニュース » 植田総裁は10月利上げを示唆せず、政策委員の発言ラッシュでヒントも?

植田総裁は10月利上げを示唆せず、政策委員の発言ラッシュでヒントも?

ニュース

植田総裁は年内利上げ可能性を残すも、10月利上げのサインは点灯せず

日銀金融政策決定会合が9月18~19日に行われ、市場予想通り政策金利である無担保コール翌日物レートを0.5%で据え置くことを決定した。
5会合連続の据え置きとなる。

今回、2人の政策委員(高田委員、田村委員)が政策金利据え置きに反対、0.25%の利上げ票を投じた。
植田総裁体制が始まった2023年4月以来で初めてとなる。
高田委員は、物価が上がらない「ノルム」(規範)が転換し、物価安定目標の実現が「おおむね達成された」と主張した。
田村委員は物価上振れリスクが膨らんでいる中、中立金利にもう少し近づける必要があるとの見方を示した。
なお、田村委員の主張は、8月13日にベッセント財務長官が日銀にインフレ制御に向け利上げすべきと発言した内容を彷彿とさせる。

日銀は、今回の会合で上場投資信託(ETF)などの売却を決定した。
ETFは簿価で年間3,300億円程度(時価で6,200億円程度)のペースで売却を行う。
保有ETFの簿価は約37兆円、3月末時点の時価は約70兆円であるため、完全に売却するには、少なくとも100年要する見通しだ。
もっともブルームバーグによると、売却額は日銀が金融危機などの際に金融機関から買い入れ、7月に完了した株式売却とほぼ同じペースになるという。

画像:ETFの売却をめぐる日銀の発表
画像:ETFの売却をめぐる日銀の発表
(出所:日銀

植田総裁は会見で、金融政策をめぐって「現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、経済や物価の見通しが実現していくとすれば、経済や物価情勢の改善に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考える」との見解を踏襲。
今後の経済や物価の情勢が見通し通りならば、追加の利上げを検討する姿勢を改めて表明した。

会見での質問は、2人の政策委員による利上げ主張と、ETFの売却に集中した。
2人の政策委員による利上げ票への質問について、総裁個人としての意見を尋ねられると「高田委員は基調的な物価上昇率がおおむね2%前後のところに達しているという評価をされたと思うが、私の評価としてはまだ少し下回るが、2%に向けて近づきつつある過程にあるという評価」と回答した。
田村委員については「物価の上振れリスクが膨らんでいるということで提案され、もちろんリスクとしてあると思うが、米国の関税政策の影響などがこれから一段と出てくる可能性がある中で、景気に対する下振れリスクを通じて物価に対する下振れリスクも意識しないといけない」と発言。
ベッセント氏の「日銀はビハインド・ザ・カーブに陥っている」との見方を、間接的に否定したことになる。

日米貿易協定が締結され、自動車の関税が25%→15%へ引き下げられ、相互関税の特例措置も日本が該当することになった。
しかし、植田総裁は米国を始め各国の通商政策による日本の景気と物価への下振れリスクを重視する姿勢を維持。
基調的インフレ率が2%に近づきつつある過程と述べ年内利上げ余地を確保しつつも、10月29~30日開催の日銀会合での利上げへ向けたサインを点灯させなかった。

10月会合へ向け、9月29日に野口審議委員を始め、日銀政策委員の発言ラッシュを迎える。
2020年以降の講演や挨拶の回数を踏まえると、日銀ウォッチャーいわく「日銀政策委員の発言機会の増加と登壇回数には明確な相関関係はない」。
また、金融経済懇談会に限っていえば、通常は半年前に予定が立てられるため、政策委員の登壇回数が利上げに直結するとは言いづらい。

チャート:10月会合を控えた日銀政策委員の挨拶・講演を始め、重要予定
チャート:10月会合を控えた日銀政策委員の挨拶・講演を始め、重要予定

もっとも、2024年3月の大規模緩和解除の当時は、政策委員が4回登壇していた。
また、注目点として、政策変更を行う月は必ず正副総裁のいずれかが挨拶あるいは講演を実施。
講演内容は、2023年3月の植田総裁による「中央銀行デジタル通貨について知っておきたいこと」など、金融政策に関わる発言を必ずしも行っていたわけではない。
2024年7月の植田総裁の講演内容も、「新しい日本銀行券の発行開始における挨拶」だった。


チャート:植田体制発足後、挨拶・講演回数

講演回数と利上げが無関係とも言えない事情がある。
植田総裁は2024年7月の追加利上げを決定した後、同年10月の国際通貨基金(IMF)のイベントで、「(同年)7月は政策委員による公の場での発信がない期間があった。(対話する機会があれば)より良かっただろう」と発言した。
そう考えれば、今年1月の日銀金融政策決定会合前に行われた氷見野副総裁の講演テーマが「最近の金融経済情勢と金融政策運営」「金利のある世界」だった点は興味深い。

確かに、政策委員の講演の回数が利上げの決め手になるとは考えづらい。
一方で、正副総裁の講演を予定し、特に10月会合の前は植田総裁が1回、内田副総裁に至っては2回も控えているだけに、利上げの地ならしを行うのでは、との期待が高まってもおかしくない。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

Provided by
株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。

この記事をシェアする
一覧へ戻る