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米地銀に信用不安が再燃、決算シーズン控えリスクオフ強まるか

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ウォール街に激震、JPモルガンCEOは信用不安拡大に警鐘

米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は10月14日、「ゴキブリを1匹見つけたら、他にもいると思うべきだ」と述べ、信用市場の構造的リスクに警鐘を鳴らした。
その発言からわずか2日後、米地銀の融資ポートフォリオに潜むリスクが露呈することになる。

米企業の第3四半期決算発表が幕開けするなか、米地銀の株価が10月16日に軒並み急落した。
ブルームバーグによれば、米主要銀行74行の時価総額は同日に計1000億ドル余り消失したという。

引き金となったのは、2つの米地銀の発表だ。
ユタ州を拠点とするザイオンズ・バンコープは、カリフォルニア・バンク・アンド・トラスト部門で2件の融資に関して「虚偽の説明と契約違反があった」とし、6,000万ドルの貸倒引当金の計上と、5,000万ドルの貸倒損失を計上する方針を明らかにした。
この発表を受け、ザイオンズの株価は前日比13.1%安。
アリゾナ州に本社を置くウエスタン・アライアンスは、投資ファンドのカンター・グループによる詐欺行為を理由に訴訟を起こしたことが報じられ、株価は同10.8%安で取引を終えた。

この一連の動きは、9月に破綻した米修理・交換用自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループ(FBG)と、サブプライム自動車ローン業者トライカラーの事例と重なる。

FBGは、販売先からの未回収代金を担保に資金調達する手法を行ってきた。
しかし、財務諸表には計上されないこれらの債務への不透明性が懸念を招き、借り換えに失敗し、9月28日に米連邦破産法11条の適用を申請した。
短期資金調達仲介のレイストーンは、米自動車部品メーカーFBGの債権者として、15日に裁判所へ独立調査官の任命を求めた。
レイストーンは、破産した同社から最大23億ドルもの資金が「文字通り消失した」と主張している。

FBGと2014年から関係を構築してきた米投資銀行のジェフリーズは10月8日、資産運用部門傘下のポイント・ボニータ・キャピタルが貿易取引を始め企業の資金繰りを支援するトレード・ファイナンスとして、約30億ドル保有していたと発表。
そのうち、FBG向けの売掛債権は7億1,500万ドル、約24%を占めていたという。
また、ジェフリーズは10月12日に一連の投資の損失や費用負担をめぐり、「損失は財務上、十分吸収可能」と説明。
ジェフリーズの総資本は8月末時点で105億ドル、実質資本は85億ドル、現金保有額は115億ドルと明かした上で、財務や業務への影響は限定的との見方を強調した。

トライカラーは複数の債権者に対してリスクの高いローンポートフォリオを複数にわたって担保提供していたとされ、ブルームバーグによれば同社が実行した約7万件のローン債権のうち約40%、2万9,000件以上は、車両識別番号(VIN)を含む属性が少なくとも他の1件のローンと一致したという。
JPモルガンは1.7億ドルの貸倒損失を計上し、フィフス・サード・バンコープは最大2億ドルの減損損失を計上する見通しだ。
自動車ローンに占める90日以上の延滞の割合は5.0%に達し、リーマン・ブラザーズの破綻に象徴される金融危機以来の高水準に並び、トライカラーが打撃を受けた影響が読み取れる。

チャート:自動車ローンの90日以上の延滞の割合はQ2に5.0%、金融危機以来の水準に迫る
チャート:自動車ローンの90日以上の延滞の割合はQ2に5.0%、金融危機以来の水準に迫る

米銀のノンバンク金融機関向け融資が急拡大、今後の地銀の決算でリスク確認

特に懸念すべきは、米銀がトライカラーに代表されるようなノンバンク金融機関(NDFI)への融資を急増させている点である。
NDFIとは、預金を受け入れない金融機関(例:ヘッジファンド、保険会社、消費者金融など)であり、銀行と異なり規制が緩い。

米連邦預金保険公社(FDIC)の2025年リスクレビューによれば、NDFIが運用する資産は著しく増加し、現在では総額100兆ドルを超え、米国の銀行が保有する総資産の3倍以上に達している。
NDFI向け融資拡大の主な牽引役は、プライベート・エクイティやプライベート・クレジット関連の事業体への融資だ。
地銀はこれらの事業体との関係性を持たないことが多いが、特に大手銀行は財務管理や投資銀行業務を通じてNDFIとの関係を築いてきた。
FDICは、このような融資をめぐり「銀行が貸出先の信用判断やリスク管理を把握しづらく、金融システム全体に高リスクをもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らす。

チャート:米銀の総資産規模別、NDFI向け融資の割合
チャート:米銀の総資産規模別、NDFI向け融資の割合

画像:米銀、Tier資本に占めるNDFI向け融資の割合
画像:米銀、Tier資本に占めるNDFI向け融資の割合
(出所:FDIC)

投資家は、地方銀行の損失が単発ではなく、信用市場全体に波及する可能性を警戒している。
リーガン・キャピタルのスカイラー・ワイナンド最高投資責任者(CIO)は、「これは炭鉱のカナリアではなく、もっと多くの損失が控えている可能性がある」と注意喚起していた。

一連の懸念は、2023年のシリコンバレー銀行やシグネチャー銀行の破綻を想起させる。
当時も中堅銀行の信用不安が連鎖的に広がり、金融システム全体に緊張をもたらした。
FDICが発表する四半期銀行レポートによれば、「問題ある銀行」はQ2時点で59行と、前期の63行から減少した。
シリコンバレー銀行などが破綻した2023年Q1とQ2の46行を上回る。

チャート:FDICによる「問題を抱える」銀行数は2022年時点を上回る
チャート:FDICによる「問題を抱える」銀行数は2022年時点を上回る

折しもQ3決算発表シーズンに入り地銀も順次予定しており、ザイオンズ・バンコープは10月20日、ウエスタン・アライアンスは翌21日に控える。
金融市場は、米中貿易摩擦に加え、米銀のリスクに備える秋を迎えつつある。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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