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K字型経済に直面する米国、労働指標は下振れ圧力の強まり示す

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米ISM景況指数、雇用は製造業も非製造業も50割れ続く

「人生はチョコレートの箱のようなもの。 開けてみるまでは何が入っているかわからない」――とは、1995年開催のアカデミー作品賞など6部門で受賞した『フォレスト・ガンプ/一期一会』の名台詞の一つとして、あまりにも有名だ。
つなぎ予算をめぐる共和党と民主党の対立により、11月6日時点で米政府機関閉鎖から37日目を迎えた。
未曽有の事態に陥るなか、政府機関閉鎖終了後の米経済指標は、いつにもまして、どのような数字となるのか、不透明感が強まっている。

民間指標に頼らざるを得ないなか、11月第1週に恒例の米雇用統計を除く労働関連を中心に経済指標が相次いで発表された。
10月の米ISM景況指数は製造業と非製造業で明暗が分かれ、製造業が48.7と前月の49.1を下回り8カ月連続で拡大・縮小の分岐点である50を割り込んだ。
回答者の間からは、関税による下押し効果を確認。
加えて、化学業者は「完成品に対する国内需要の減少により、製造が鈍化し、原材料の在庫が積み上がる状況」と指摘し、その他製造業は「全体的に事業は非常に逼迫し、資金繰りは苦しい」と窮状を訴えるなど、暗いトーンが目立つ。

非製造業は52.4と、8カ月ぶりの高水準。
行政関連サービス業者から「新年度予算の影響により、事業活動が活発化」、小売業者から「事業は非常に好調で、サプライチェーンや物流面での問題は一切なし」との回答を確認するなど、底堅さをみせた。
ただし、サブ項目の雇用については、製造業と非製造業そろって前月を上回った一方で、製造業は46.0と9カ月連続で50割れ、非製造業でも48.2と5カ月連続で分岐点を下回った。
ISMのセンチメントから見た労働指標は、軟調と言わざるを得ない。

チャート:米10月ISM製造業景況指数は8カ月連続で50以下、雇用も分岐点割れ
チャート:米10月ISM製造業景況指数は8カ月連続で50以下、雇用も分岐点割れ

チャート:米10月ISM非製造業景況指数は8カ月ぶり高水準も、雇用は5カ月連続で50割れ
チャート:米10月ISM非製造業景況指数は8カ月ぶり高水準も、雇用は5カ月連続で50割れ

米10月ADP全国雇用者数は3カ月ぶり増加も、10月単月では過去最少の伸び

米労働指標結果は、まちまちとなった。
米10月ADP全国雇用者数は前月比4.2万人増、前月の2.9万人減(3.2万人減から上方修正)を上回り、3カ月ぶりに増加。
年末商戦の臨時雇用が下支えした格好だ。
10業種別の動向をみると、増加と減少ともに5業種。
増加をけん引したのは小売を含む貿易・輸送・公益で同4.7万人増だった。
一方で、減少した業種は人口知能(AI)の普及に伴い、マイクロソフトやセールスフォースなどテクノロジー大手でリストラ発表が相次ぐなか、テクノロジー(1.5万人減)の他、メディア関連などを含む情報(同1.7万人減)、その他サービス(同1.4万人減)と弱い。

チャート:米10月ADP全国雇用者数、3カ月ぶりに増加
チャート:米10月ADP全国雇用者数、3カ月ぶりに増加

チャート:10業種別では、小売を含む貿易・輸送・公益がけん引
チャート:10業種別では、小売を含む貿易・輸送・公益がけん引

米10月ADP全国雇用者数の回復は、年末商戦という季節要因に支えられたと考えられるが、堅調とは言い難い。
ADP全国雇用者数が発表された2010年以降、2024年までの10月の単月平均は25.2万人増と、季節要因を追い風に1年間で9月に次いで2番目の高水準を誇る。
しかし、今年の10月は4.2万人増にとどまり、データ発表を開始した2010年以降で最小だった。

従業員別では、従業員500人以上の大企業が同7.4万人増と、雇用の増加の大半を占めた。
年初来でも、9回目の増加となる。
根強いインフレ圧力や関税などの影響でも、価格決定力を維持できる大企業のみ堅調と言え、K字型経済(富裕層と貧困層の経済格差など、経済の二極化が進む状態)の一つの証左と言えよう。

チャート: ADP全国雇用者数における従業員別の動向、500人以上の企業の強さが際立つ
チャート: ADP全国雇用者数における従業員別の動向、500人以上の企業の強さが際立つ

米10月人員削減予定数、AIの普及などを一因に単月で2003年以来の高水準

米10月チャレンジャー人員削減予定数は前月比3倍近く増加の15万3,074人と7カ月ぶりの高水準だった。
前年比でも2.8倍も急増したように、10月の単月としては、ITバブル崩壊後まもない2003年以降で最大となる。

チャート:米10月人員削減予定数、2019年以降の月別の動向
チャート:米10月人員削減予定数、2019年以降の月別の動向

年初来では、政府効率化省(DOGE)が連邦職員のリストラを断行したこともあって、前年比65%増の109万9,500人と2020年以降で最多となった。
結果、全米50州別で、年初来の人員削減予定数1位は人口がわずか70万人程度のワシントンD.C.で30万3,778人と、前年同期の3万4,788人から10倍近くも膨らんだ。

発表元の人材派遣大手チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによれば、今回、人員削減が急増した理由のトップ3は①コスト削減(5万347人)、②AIの導入(3万1,039人)、③市場動向の変化(2万1,104人)――だった。
7月8日付の本コラムで指摘したように、AI導入が雇用を奪っている実態を確認した格好だ。

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は10月29日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、「大手の公開企業や消費者向け企業の決算報告や電話会議を聞いていると、多くの企業が経済の二極化を指摘している」として、K字型経済の実態について言及。
その上で「低所得層の消費者は困難に直面し、購入を控え、より安価な商品へとシフトしている。一方で、所得や資産の多い層では支出が続いている。こうした傾向については非常に多くの実例が報告されており、我々も何らかの関係があると考える」と述べた。
米国ではK字型経済が鮮明になる過程で、下方向の圧力がかかり始めているだけに、12月FOMCでの利下げの可能性が現実味を帯びてきたと言えよう。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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