米5月雇用統計・NFPの大幅増加は、一時的要因か
米5月雇用統計・非農業部門雇用者数(NFP)は前月比17.2万人増となり、市場予想の8.5万人増の約2倍に及んだ。
過去2カ月分も合わせて9.3万人の上方修正となり、年内利上げ観測が台頭。
中間選挙(今年は11月3日)直前にあたる10月27~28日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ織り込み度(0.25%以上を含む)は51.2%と、据え置きを逆転した。

チャート:米5月雇用統計後、10月利上げ確率が据え置きを逆転
ただし、米5月雇用統計の結果をめぐり、市場とエコノミストの見方は分かれている。
年内利上げ予想に傾斜する市場と反対に、エコノミストは慎重だ。
背景に①NFPは地方政府の雇用や、サッカー・ワールド杯関連で娯楽・宿泊業に含まれる食品サービスが押し上げ、②平均時給の伸び鈍化、③失業率が3カ月連続で横ばい、④労働参加率の低迷と長期失業者の割合上昇、⑤フルタイム雇用の減少、――などが挙げられる。
このうち、①のNFPの押し上げについては、地方政府の場合は連邦政府の人員削減の受け皿になった可能性に加え、地方政府での年度始め(7月が多い)前の採用増加など、一時的要因と受け止められている。
食品サービスの雇用増加も、ワールド杯特需ならば持続性は見込みにくい。

チャート:政府の雇用、地方政府が押し上げ

チャート:娯楽・宿泊、食品サービス(外食)が寄与
平均時給や失業率、労働参加率、長期失業者の割合などは労働市場の伸び悩み示唆
足元のインフレについて、ベッセント財務長官はウォーシュ氏の議長指名が上院で承認された翌日の5月14日に「大幅なディスインフレが来る」と予想。
直近でも、米上院財政委員会で「エネルギー価格の急騰が他の物価に波及しているが、インフレ急伸は「短期的な一時的現象(short-term blip)」との見解を表明した。
ハセット国家経済会議(NEC)委員長も、米5月雇用統計後に平均時給の伸び率が上昇すると失業率が低下するフィリップス曲線のようなカーブを描いておらず、足元の成長加速局面でもインフレは上振れしていないと説明。
そのうえで、利下げが可能との見方を示した。
確かに、イラン戦争による原油高でガソリン価格が跳ね上がったとはいえ、来年には今年急伸した反動で逆に減速する公算が大きいだけに、足元のインフレ加速が粘着性を持つかは不透明だ。
加えて、米5月雇用統計では平均時給は前年比3.4%と2021年5月以来の低い伸びだった。
ゴールドマン・サックスのチーフエコノミスト、ヤン・ハチウス氏は、労働市場を見極めるうえでNFPより重視する失業率が3カ月連続で4.3%だった結果を一因に、今年12月と2027年3月、2回の利下げ予想を維持した。
労働参加率は前月に続き61.8%だったが、職探しをする失業者が減少した可能性がある。
実際、27週以上の長期失業者の割合は5月に27.5%と2021年12月以来の水準へ上昇。
「働く意欲のある非労働力人口」をみても、前月比7.6万人増の618.7万人と4カ月連続で増加した結果、2021年7月以来の水準に膨らんだ。

チャート:長期失業者の割合、2021年の高水準

チャート:働く意欲のある2021年の高水準非労働力人口、2021年7月以来の高水準付近に
フルタイムの雇用は前月比7.9万人減と、年初来で4回目のマイナスとなった。
これは、需要に対する企業の慎重な姿勢を示唆する。
振り返れば、米Q1実質GDP成長率・改定値は前期比年率1.6%増だったが、寄与度のうち個人消費は0.95ポイントと2四半期連続で鈍化し、AI関連は逆に1.36ポイントと拡大していた経緯がある。
クリーブランド連銀ナウキャスト、市場予想以下の伸びを予想
年内の利上げ観測は、今週10日に発表予定の米5月消費者物価指数(CPI)と11日に発表予定の生産者物価指数(PPI)に左右されそうだ。
クリーブランド連銀のナウキャストによれば、米5月CPIは前年比4.2%と加速、コアは同2.8%と前月と一致を予想。
市場予想は総合が同4.3%、コアは同2.9%とクリーブランド連銀のナウキャストを上回る。

チャート:クリーブランド連銀のナウキャスト、市場予想以下に
仮にナウキャスト通りなら市場予想以下となり、一段の年内利上げ観測台頭は回避されるだろうが、予想を上回る結果となれば6月FOMCを前に利上げ観測がさらに強まりかねない。
ウォーシュFRB議長のデビュー戦となる6月FOMCも控え、為替市場のボラティリティは一段と高まりそうだ。
ドル全面高からの方向転換となれば、日本政府による介入とセットでドル円の調整を招くシナリオが視野に入る。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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