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米6月雇用統計は年内利上げを正当化せず、CPIで巻き戻しも?

マーケットレポート

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米6月雇用統計・NFP、W杯効果はく落で宿泊・娯楽が押し下げ

「この道はいつか来た道」――これは、詩人の北原白秋が作詞した『この道』の一節だ。
今年4月、日銀金融政策決定会合後のドル円上昇を受けたゴールデン・ウィーク(GW)の介入は、2024年4月、5月、そして7月を連想させるだけに、「いつか来た道」の印象が強い。

仮に当時のような流れが進むのならば、弱い米指標後の介入が意識される。
米6月雇用統計は、そのお膳立てとして機能したと言えよう。
非農業部門就労者数(NFP)は前月比5.7万人増と、市場予想の11.4万人増の半分程度にとどまった。
背景には、ワールドカップ開催に伴う特需のはく落がある。
娯楽・宿泊が前月の4.0万人増(速報値では7.0万人増)から、同6.1万人減とマイナスに転じ、NFPを押し下げた。

チャート:米6月雇用統計・NFPの増減と失業率
チャート:米6月雇用統計・NFPの増減と失業率

チャート:娯楽・宿泊の雇用の増減
チャート:娯楽・宿泊の雇用の増減

失業率は低下も労働参加率の下振れが影響、家計調査の就業者数は年初来で5回減少

失業率は4.2%と1年ぶりの水準へ改善したとはいえ、労働参加率が61.5%と2021年3月以来の水準に低下した影響とは無縁ではない。
実際、27週以上の長期失業者の割合は失業者全体の27.3%と2021年末以降で2番目の高水準であり、失業期間の中央値も11.0週と、2021年以来の高水準を保つ。
多くの州で失業保険支給期間は6カ月程度とあって、支給資格が外れた後は職探しをしない失業者が増えてもおかしくない。
こうした仮定をサポートするように、働く意欲がありながら職探しをしない非労働力人口は約605万人と、前月から小幅に減少も2021年夏以来の高止まりが続く。

チャート:労働参加率、2021年3月以来の低水準
チャート:労働参加率、2021年3月以来の低水準

チャート:長期失業者の割合、失業期間・中央値は2021年以来の高水準を維持
チャート:長期失業者の割合、失業期間・中央値は2021年以来の高水準を維持

チャート:働く意欲がありながら職探しをしない非労働力人口
チャート:働く意欲がありながら職探しをしない非労働力人口

その他にも、労働市場が芳しくない証左が見て取れる。
家計調査(聞き取り調査ベース)の就業者数は前月比50.7万人減と、事業所調査(給与明細をベースに行う事業所調査)のNFPが同5.7万人増に反する結果となった。
しかも、年初来6回のうち、NFPは5回増加した一方で、家計調査は5回減少と、正反対の結果となっている。
加えて、フルタイムの雇用は前月比51.4万人減と、年初来で5回目のマイナスとなった。
パートタイムは同5.3万人減と年初来で3回目の減少、複数の職を持つ者は同12.6万人増と年初来で2回目の増加だった結果を踏まえれば、企業は今後の業績への不透明感から、採用意欲が減退している可能性を示す。

チャート:雇用形態別の動向、特にフルタイムは年初来で5回減少と振るわず
チャート:雇用形態別の動向、特にフルタイムは年初来で5回減少と振るわず

米国生まれの労働参加率は上昇も、賃上げ圧力は限定的

一部のエコノミストは、失業率の低下を理由に「完全雇用」状態として、利上げ余地を指摘する。
平均時給が前年同月比3.5%と前月の3.4%を上回ったため、賃上げ圧力が根強いとの見方もある。
ただ、全米のうち生産労働者・非管理職は同3.4%と2021年5月以来の低水準だった。

チャート:平均時給、全米は前月を上回るが生産労働者・非管理職は2021年5月以来の低い伸び
チャート:平均時給、全米は前月を上回るが生産労働者・非管理職は2021年5月以来の低い伸び

トランプ政権の移民取り締まりに伴う移民の人口の減少が賃上げ圧力をもたらすとの懸念もあったが、足元の動向はその仮説を正当化していない。
季節調整前の労働参加率は米国生まれが61.0%と4カ月ぶりの水準を回復し、海外生まれは65.6%へ低下した。
海外生まれは3月の67.2%から急低下したが、平均時給は2026年に入り1-2月の3.7%を経て、以降は3.5%±0.1%での推移を保つ。

ウォーシュ議長はインフレ期待の低下に言及、ベッセント財務長官は実質賃金の上昇を予想

ウォーシュFRB議長は米6月雇用統計発表前の7月1日、欧州中央銀行(ECB)フォーラムのパネル・ディスカッションで「インフレ期待は低下し、インフレ・リスクも和らいだ」と指摘。
さらに「ボラティリティは上昇しておらず、むしろ低下し、利回りも下がり、インフレ期待も低下している。『市場は理解していない』という声も聞かれるが、むしろ市場は理解していると思う」と発言した。
ベッセント財務長官は6月30日、米6月雇用統計について、前月と同じく「強い数字になっても驚かない」と予想しながら、インフレ加速には言及せず。
7月2日付のCBSインタビューでは、インフレ上振れは「一時的」との見方を繰り返し、「早ければ今月にも実質賃金の上昇を確認するだろう」と述べた。
両者の発言を踏まえれば、FRBの年内利上げが視野に入っているようには見えない。

チャート:実質賃金、足元のインフレ加速を受け前年比にて2カ月連続でマイナス
チャート:実質賃金、足元のインフレ加速を受け前年比にて2カ月連続でマイナス

単月の米雇用統計だけで判断するのは早計だが、こうした結果に基づけば年内利上げについて再考を迫られるシナリオに留意すべきだろう。
7月7日発表のNY連銀消費者調査での1年先インフレ期待や、14日に発表される米6月消費者物価指数(CPI)がその試金石となる。

NY連銀の消費者調査では、5月の1年先インフレ期待は3.5%と4月の3.6%を下回った。
焦点は米6月CPIで、この結果次第では2024年7月のような介入が意識される。
クリーブランド連銀のナウキャストでは、現時点でCPI総合に対し前年同月比3.9%(前月:4.2%)と5月からの鈍化が見込まれ、コアCPIは同3.9%(前月:3.9%)と横ばいと予想されている。

仮にベッセント氏の発言通り、実質賃金が6月にプラスに転じるならば、CPIは3.5%以下となる必要がある。
さすがに6月に4.2%から3.5%以下まで鈍化するとは想定しづらいが、インフレが加速していないと判断されれば、年内利上げの期待が巻き戻されるきっかけとなりそうだ。
なお、米6月雇用統計を受け、9月利上げ織り込み度は55.6%と、前日の67.7%から低下したとはいえ、まだ高水準にあり、修正の余地があると言えよう。

チャート:クリーブランド連銀のナウキャスト、6月は総合が前月以下となる見通し
チャート:クリーブランド連銀のナウキャスト、6月は総合が前月以下となる見通し

チャート:FF先物、9月利上げ織り込み度は米6月雇用統計後に低下も過半数を維持
チャート:FF先物、9月利上げ織り込み度は米6月雇用統計後に低下も過半数を維持

三村財務官が「最も緊密な状態」と強調した日米連携の真価が問われる局面が、14日のCPI発表のタイミングで訪れるシナリオに留意しておきたい。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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