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ウォーシュFRB議長のタスクフォース、「発見モード」で体制見直し

マーケットレポート

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外部有識者15人、あえて「異論」も取り込む布陣

ケビン・ウォーシュ氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)議長に就任した5月22日以降、一貫して物価安定の立場を強調する反面、利上げの可能性については一切示唆を与えていない。
ただ一つ明確なのは、同氏が米上院での指名公聴会から掲げてきた、「レジーム・チェンジ」、いわゆるFRBの改革の方向性だ。

その1つこそ、FRBが7月9日に公表した金融政策運営の見直しに向けた5つのタスクフォースである。
①コミュニケーション手段、②バランスシート政策、③データ、④生産性・雇用、⑤インフレの枠組み――の5分野にFRB外から有識者3人ずつ、計15人を起用し、FRBスタッフの支援を受けながら独立して検証を進め、年内をめどに、米連邦公開市場委員会(FOMC)へ提言をまとめる。

チャート:5つのタスクフォースの顔ぶれ
チャート:5つのタスクフォースの顔ぶれ

「コミュニケーション手段」担当には、ジョージ・W・ブッシュ政権で財務次官を務めたピーター・フィッシャー氏(政策変更時の説明責任を重視)、フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ政権期のブラジル中銀総裁でハイパーインフレ収束を主導したアルミニオ・フラガ氏(透明性そのものを重視)、そして「マラドーナ理論(多くを語らずとも信頼性で市場を動かす)」で知られる元イングランド銀行(BOE)総裁マービン・キング氏を起用した。
3人は「発信」というテーマに異なる角度からアプローチしてきた人選で、キング氏の起用はウォーシュ氏自身の寡黙な中銀路線を理論的に補強する狙いとみられる。

「バランスシート政策」担当には、オバマ政権期に財務次官補を務めたハーバード大学のカレン・ダイナン氏、元インド準備銀行総裁ラグラム・ラジャン氏に加え、2012年にオバマ大統領(当時)の指名で、ウォーシュ氏の後任としてFRB理事に就いたジェレミー・スタイン氏を起用。
スタイン氏はウォーシュ氏の持論であるバランスシート縮小論に懐疑的な立場を公言してきた人物で、この側面だけでもイエスマンだけを集めたわけではない布陣だと評価できる。

ウォーシュ氏は7月14日に行った半期に一度の金融政策についての議会証言で、下院金融サービス委員会の前で、「バランスシートは金融政策の一部であり単なる実務ではない」、「政策変更の際は事前に予告・説明・議論する」、「財政政策の領域には立ち入らない」という3原則を提示。
現行の保有国債の平均残存年限は約6.5年で市場全体の平均(約4.5年)より長く、平時に保有規模が市場を上回る状態は「金融政策の権限の際どいところにある」と述べた。

「データ」担当には、郵便番号や税務データなど大規模データを用いて所得格差・世代間の経済移動を分析するハーバード大学のラジ・チェティ氏、小売大手ウォルマートを電子商取引企業へ転換させたダグ・マクミロン前最高経営責任者(CEO)、賃金格差・失業の実証分析で知られるシカゴ大学のケビン・マーフィー氏(クラーク賞受賞)を起用した。
3人はそれぞれ税務などのデータ、企業のリアルタイム販売データ、労働市場の統計分析という異なる強みを持ち、調査統計だけに頼らず速報性のある民間データも活用すべきだというウォーシュ氏の問題意識に沿う人選と言える。

タスクフォースにはAI推進派を登用、インフレ枠組みはトリム平均値にこだわらず

「生産性・雇用」担当には、ウォーシュ氏と30年来の友人であるベンチャー投資家マーク・アンドリーセン氏、アンソロピックに在籍中のスタンフォード大学教授チャールズ・ジョーンズ氏、マイクロソフト・Xboxのアーシャ・シャルマCEOという、AIの経済効果に総じて楽観的な3人が起用された。
今回の人選は、FOMC参加者の間のAI慎重論と対照的だ。
6月FOMC議事要旨では、参加者の一部がAIによる生産性向上の時期・規模には相当な不確実性が残るとし、ジョン・ウィリアムズNY連銀総裁はAI関連の電力・半導体価格急騰を通じたインフレ懸念を示していた。

この人選の背景には、ウォーシュ氏自身が議会証言の冒頭でアラン・グリーンスパン元FRB議長の議会対応力と指導力を称えたこととも重なる、1990年代の先例がある。
民主党議員は、1990年代にグリーンスパン氏がインターネットなどによる生産性加速がインフレの下押し圧力になったと見抜き、統計上のデータが追いつく前に緩和的な政策判断をした先例を挙げ、AIも同様の機会をもたらすかと質問した。
ウォーシュ氏は「生産性加速はそれぞれ性質が異なる」と述べ、確信には至らないとした。
フォーブス誌も、グリーンスパン流の”早期発見”アプローチをAI時代に再現しようとしていると評価した。

「インフレの枠組み」担当には、ジョージ・W・ブッシュ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたグレッグ・マンキュー氏、ノーベル経済学賞受賞者のトーマス・サージェント氏、国際決済銀行(BIS)の元経済顧問のウィリアム・ホワイト氏を起用した。
サージェント氏は、財政赤字が続く局面での利上げがかえって将来の通貨増刷予想を強め、インフレ期待を高めかねないとする「不愉快なマネタリストの算術」の理論で知られる。
3人に共通するのは、トリム平均PCEなど特定の代替指標を看板にした論者ではない点だ。

議会証言では、ウォーシュ氏が4月の指名承認公聴会で「トリム平均値」や「中央値型指標」を好意的に言及し、これがウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道を通じてトリム平均PCE偏重との見方を広めた経緯について、民主党議員が追及した。
ウォーシュ氏は「(自分に好みの指標があるとする)報道は誤りだ」としつつ、「トリム平均値を含む既存の指標はどれも基調インフレを十分に捉えていない」と述べ、大手小売店の価格のような切り口を新たに模索する考えを示した。
事実上、トリム平均値などを評価した指名公聴会から立場を巻き戻した格好だ。

チャート:米6月CPIとトリム平均CPI、CPI中央値の推移
チャート:米6月CPIとトリム平均CPI、CPI中央値の推移

タスクフォースの位置づけについて、ウォーシュ氏は証言で現状を「発見モード(discovery mode)」にあると説明した。
白紙の状態から、今のFRBに改善余地がないか原点に立ち返って問い直す立場を表明。
外部の独立したタスクフォースの見解は、まずFOMCメンバー19人に共有され、最終判断はあくまでFOMCが下すのであり「外部委託ではない」と強調した。
結論の時期については、7月9日の発表文書でも「年内をめど」と明記されている。

タスクフォースを構成するメンバーについては、ロイターが「滑り出しはA評価」と報じたように、市場の受け止めは総じて好意的だ。
エバーコアISIのクリシュナ・グハ氏は「市場やFRBスタッフ、FOMCメンバーからも真剣に受け止められる、バランスの取れた顔ぶれ」と評価。
著名投資家ウォーレン・バフェット氏も、ウォーシュ氏の起用そのものを「良い人選だった」とCNBCに語っている。

ウォーシュ氏が議会証言で次回の政策決定について言及を避け、「政策を正しく行うことが最優先」と述べるにとどめるなか、7月28〜29日のFOMCでも据え置きが有力視される。
同氏は議会証言前に公表された米6月消費者物価指数(CPI)が鈍化した結果を受けても、「任務完了とは考えていない」とインフレへのファイティング・ポーズを維持。
とはいえ、コミュニケーションやインフレの枠組みなどを再構築する過程で、金融政策の変更――すなわち利上げを行う公算は小さいと見込む。

実際、米6月CPIや生産者物価指数(PPI)は市場予想以下に終わり、ドル・インデックスも一時100.35と6月18日以来の安値をつけた。
FF先物市場での9月利上げ織り込み度は場中に一時48.2%へ低下、据え置き予想確率が逆転する場面も。
引けにかけて利上げ織り込み度は過半数へ切り返したが、6月FOMC後の利上げ見通しが本格的に巻き戻されれば、ドル全面高からの転換を迎えそうだ。

チャート:9月利上げ織り込み度、15日は場中に51.6%まで切り返したが一時50%割れ
チャート:9月利上げ織り込み度、15日は場中に51.6%まで切り返したが一時50%割れ

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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