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日米中銀がドル円を「挟み撃ち」―円キャリー巻き戻しと外貨準備急減の先

マーケットレポート

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日銀利上げとFRB利上げ慎重論で、日米金利差縮小を意識

ベッセント財務長官がG20財務相・中央銀行総裁会議の開催前後、日本に突き付けたメッセージは明らかだ――日銀の利上げ継続と、リフレ的な財政政策からの転換である。
もう一つ興味深いのは、G20前後の日銀とFOMC参加者の発言が、異なる方向から日米金利差の縮小を意識させている点と言えよう。

チャート:G20財務相・中央銀行総裁会議前後での要人発言
チャート:G20財務相・中央銀行総裁会議前後での要人発言
(出所:各種資料・報道よりストリート・インサイツ作成)

日本側では、氷見野副総裁が8月27日の講演で、円安や原油高、AI関連需要などによる物価上振れリスクを意識しつつ、適切な時期に金融緩和のアクセルを緩める必要性を強調。
そのうえで「毎会合で(利上げを)しっかり議論」と述べた。
植田総裁も9月1日、G20財務相・中央銀行総裁会議後の会見で「次回会合を含め毎回しっかり議論」と、2025年1月利上げ前のように氷見野氏の発言を踏襲
高田審議委員は9月2日、一定の利上げ間隔や0.25%という幅に縛られず、経済・物価環境に応じて機動的に対応する必要があると踏み込み、為替市場を通じた影響にも配慮すべきだとした。
日銀内部では、従来以上に「利上げを遅らせるリスク、ビハインド・ザ・カーブとなるリスク」を意識した発言が目立ち始めている。

チャート:高田審議委員の発言内容
チャート:高田審議委員の発言内容

一方、米国側では、ウォーシュFRB議長がジャクソン・ホール講演で「現在の焦点は物価」と強調しながらも、将来の政策をあらかじめ約束するフォワードガイダンスには慎重な姿勢を示した。
その後、ウィリアムズNY連銀総裁は、現行政策でインフレを2%へ戻せるのか、追加利上げが必要なのかは「まだ明確ではない」と発言。
ウォラーFRB理事も9月3日の講演で、最近のディスインフレが続けば9月は据え置きを支持する意向を明らかにした。

もちろん、FOMC全体がハト派に傾いたわけではない。
それでも、日本側では利上げペースを柔軟化する議論が強まり、米国側では追加利上げを急がない声も残る。
市場がこの組み合わせを日米金利差の縮小と読めば、ドル円には下押し圧力がかかる。
ベッセント氏の一連の発言は、その二つの政策方向を市場に強く意識させる役割を果たしたと言える。

日銀の正常化加速なら、17兆円の円ショート巻き戻しも

日銀については、9月会合での追加利上げが強く意識されるなか、その後の利上げペースについても市場の関心が高まっている。
高田氏が一定の間隔や幅に拘束されない姿勢を示した以上、物価や円相場次第では従来の想定より速い正常化も、逆に間隔を空ける展開もあり得る。

日銀の利上げペース次第で、円キャリートレードが巻き戻しとなるシナリオも注目を浴びつつある。
日銀が想定以上のペースで利上げを進める一方、Fedが追加利上げを急がなければ、日米金利差は縮小する。
これまで円を低金利で調達し、海外の高金利資産へ投資してきた取引の採算が悪化し、円ショートの解消を促す可能性がある。

その規模は無視できない。
ロイターによれば、J.P.モルガンは、高市政権発足以降に積み上がった円ショートを最大約17兆円と試算。
これが全面的に解消されれば、ドル円は142~146円まで下落する可能性があるとしている。
シティグループのインターバンク・フローでも、レバレッジ系ファンド、銀行、リアルマネー投資家が足元で円買いに転じており、円売り一辺倒だったポジションには変化が出始めている。

チャート:投機筋の円先物のポジション動向
チャート:投機筋の円先物のポジション動向

もっとも、円キャリーの巻き戻しが一直線に進むとは限らない。
最大の変数は、日銀が実際にどこまで速く利上げするかである。
ロイターによれば、9月会合では0.25%利上げがほぼ織り込まれる一方、その後の追加利上げについて市場が織り込む確率は10月が27%、12月が56%にとどまる。
高田氏が利上げの間隔や幅に縛られない姿勢を示したとはいえ、実際の正常化が緩やかなら、円ショート解消のペースも鈍る可能性がある。

外貨準備は2011年以来の低水準、介入で大幅減

日本政府による為替介入も、もう一つの重要な要因である。
8月の日本の外貨準備高は前月比795億ドル、6.2%減の1兆2,075億ドルと、2011年9月以来の低水準に落ち込んだ。
うち外貨証券は877億ドル減の8,395億ドルと、2007年12月以来の低水準となった。
外貨準備、外貨証券とも減少額は2000年以降で最大である。

背景には、7月30日から8月26日にかけて実施された大規模な円買い介入がある。
この期間の介入額は15兆3,993億円と、月次として過去最大に達した。
つまり、足元の円高方向への圧力は、日銀の利上げ観測や円キャリーの巻き戻しだけではない。
政府自身も外貨準備を取り崩しながら巨額のドル売り・円買いを実施してきた。

もっとも、外貨準備が1兆ドルを上回る以上、直ちに介入余力が尽きるわけではない。
ただ、外貨証券が約8,400億ドルまで減少し、短期間で過去最大の取り崩しが起きた事実は重い。
市場にとっては、政府が今後も同規模の介入を繰り返すのか、それとも金融政策や市場のポジション調整による円安是正へ軸足を移すのかが、新たな焦点となる。

チャート:日本の外貨準備、8月の減少幅は2000年以降で最大
チャート:日本の外貨準備、8月の減少幅は2000年以降で最大

円相場を左右するのは、日銀とFedだけではない

米国側の政策も重要だ。
ウォラーFRB理事らの慎重論で追加利上げ観測が後退すれば、日米金利差の縮小を通じて円キャリーの巻き戻しを促しやすい。
一方、米インフレが再び上振れし、Fedが利上げを続ければ、円を調達通貨とする取引の採算は残りやすい。
円キャリーがどこまで崩れるかは、日銀だけでなくFedとの相対関係で決まる。

高市政権の財政政策も別の変数である。
積極財政への警戒が強まり、国債利回りの上昇が金融正常化ではなく財政不安を映すようになれば、「日本金利上昇=円高」という単純な関係は崩れる。
財政拡張が円安やインフレ圧力を残せば、日銀には一段速い正常化が求められる可能性もあり、結果として市場変動を大きくしかねない。

また、民間の機関投資家の資金フローも無視できない。
日本国債利回りの上昇に伴い、国内投資家が海外債券を減らし、国内債券へ資金を振り向ける動きが強まれば、国際的な資金フローそのものが変化する。
これは円キャリーとは別の経路だが、日銀の正常化が海外資産市場にどこまで波及するかを見るうえで重要である。

さらに、GPIFの資産配分見直しは、民間機関投資家の動きとは分けて考える必要がある。
GPIFが国内債券の比率を引き上げる方向に動けば、その規模の大きさから日本国債の需給だけでなく、海外資産への資金配分にも影響を与え得る。
市場にとっては、日銀の利上げだけでなく、日本最大級の長期投資家が国内回帰に動くのかどうかも重要なシグナルになる。

チャート:GPIFの資産配分、過去の変化
チャート:GPIFの資産配分、過去の変化

155円攻防は政策と資金フロー変化の「試金石」

ドル円は9月4日に一時155.29円まで下落し、8月3日以来の安値をつけた。
しかし、5月6日の155.03円、8月3日の155.23円に続き、今回も155円を割り込めずにいる。
目先は、この水準を明確に下抜けるかが一つの焦点となる。

もっとも、円安是正が持続するかどうかは、テクニカルな節目だけでは決まらない。
日銀が市場の想定を上回るペースで正常化に動くのか、Fedが追加利上げにどこまで慎重になるのか、高市政権が積極財政をどこまで修正するのか。
それに加え、円ショートの巻き戻し、政府による為替介入、国内投資家の資金フロー、GPIFの資産配分見直しも重なる。
特に、外貨準備が2011年以来の低水準まで減少したことは、足元のドル円下落が金融政策だけでなく、政府の巨額介入も伴ってきたことを改めて示している。
155円割れは円高の「結果」ではなく、こうした政策と資金フローの変化が本格化しているかを測る一つの試金石となりそうだ。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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