米3月雇用統計の前哨戦、雇用指標はまちまちも勝負は失業率

マーケットレポート

米2月JOLTS、労働市場の鈍化トレンドを示唆

米3月雇用統計を控え、前哨戦となる雇用指標が次々に発表された。
まずは、4月2日にリリースされた米2月雇用動態調査(JOLTS)を振り返ると、求人件数は前月比0.1%増の875.6万人、3カ月ぶりに増加した。
求人件数は同2.1%増の581.8万人と、5カ月ぶりの水準を回復。
離職者数は同2.0%増の555.9万人となり3カ月連続で増加、6カ月ぶりの水準へ増加した。
全体的に増加しており、強弱ミックスのように見える。

ただし、詳細を振り返ると弱含みが確認できる。
まず、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が注目する失業者1人当たりの求職件数は1.36件と、2021年8月以来の低水準だった。
求人件数が前月比0.1%増の875.6万人にとどまった一方、失業者数が同5.5%増の645.8万人と増加幅が求人件数を上回ったことが響いた。

その他、採用件数は増加したとはいえ、採用率は3.7%と前月を上回りつつコロナ禍を除けば2018年以来の低水準近くを維持。
離職者数の内訳をみても、解雇者数が同8.0%増と2023年3月以来の高水準で、前月比での増加幅は11カ月ぶりの大きさとなった。
米2月雇用統計で、解雇者数が2021年11月以来の水準に増加した結果と整合的だ。

全体的に、労働市場の鈍化トレンドを確認した内容と言えるだろう。

米2月JOLTS、詳細を見ると弱含みが鮮明に
チャート:米2月JOLTS、詳細を見ると弱含みが鮮明に

米3月ADP全国雇用者数は好結果も、雇用統計・NFPとの相関低く

4月3日に発表された米3月ADP全国雇用者数は前月比18.4万人増となり、市場予想の14.8万人増や前月の15.5万人増(14万人増から上方修正)を超え、2023年7月以来の強い伸びだった。

米3月ADP全国雇用者数、2023年7月以来の強い伸び
チャート:米3月ADP全国雇用者数、2023年7月以来の強い伸び

業種別でみると、財部門が前月比4.2万人増で、建設が同3.3万人増、天然資源・採掘が同0.8万人増、製造業が0.1万人増だった。

米3月ADP全国雇用者数の結果が堅調で、米3月雇用統計・非農業部門就労者数が市場予想を上回るペースとなる期待が高まる。
しかも、2月までの7カ月間、米ADP全国雇用者数は米雇用統計・NFPに6回及ばず、平均5.2万人下回っていた。
これに基づき単純計算すれば、米3月雇用統計・NFPは同23万人超えが期待できる。

ただし、両者の間で決定係数R2は0.3285と、最も有意性が認められる1に程遠い。
米ADP雇用者数は、あくまで参考値
として考えるべきだろう。

その他、米3月ISMの製造業と非製造業景況指数が発表されるなか、雇用は製造業で47.4、非製造業で48.5と、そろって分岐点となる50割れを維持した。
米3月ADP全国雇用者数に反し、軟調な労働市場を示唆した格好だ。

問題は米雇用統計・NFPより、失業率!?

米雇用統計といえば、ヘッドラインに掲げられるNFPに熱視線が集まりがちだが、米大統領選を控えるなか、失業率に注意すべきだろう。

その理由は2つで、1つ目は、NFPは2022年以降、下方修正される傾向が強いためだ。
米2月雇用統計・NFPも、過去2カ月分が16.7万人の下方修正(2023年12月:4.3万人、2024年1月12.4万人)となったことが思い出される。

NFP、2022年以降、13回のうち11回が下方修正
チャート:NFP、2022年以降、13回のうち11回が下方修正

2つ目に、移民の増加が挙げられる。
バイデン政権下で不法移民を含め移民が急増するなか、彼らが労働供給源として雇用拡大を支えているためだ。
ブルッキングス研究所は、米議会予算局(CBO)の人口推計を基に、2023年のネット移民流入数は330万人増とコロナ前の100万人増を超えたと指摘。
その上で、物価や賃金を押し上げない増加ペースは従来の6万人増~13万人増から、2023年に16万人増~23万人増に拡大したと分析していた。

物価や賃金が上昇しない雇用増加幅ということは、失業率を押し上げない水準とも解釈できる。
従って、ネット移民流入数が急減しない限り、失業率は就業者数が20万人前後の増加を維持しなければ、上昇しかねないというわけだ。
2023年夏頃、ゴールドマン・サックスは失業率を悪化させない雇用の伸びは7.5万人増と試算していたが、これを大きく上回る。

また、失業率は給与台帳をベースとした事業所調査で算出されるNFPと違い、聞き取り調査をベースとした家計調査で計算される点にも留意すべきだろう。
米2月雇用統計・NFPは前月比27.5万人増だったが、家計調査での就業者数が同18.4万人減だったため、失業率は3.9%と2022年1月以来の水準へ上昇した。

事業所調査(NFP)と家計調査の雇用増減の違い
チャート:事業所調査(NFP)と家計調査の雇用増減の違い

今後のFedの金融政策を占う上では、NFPだけでなく失業率の動向に目を配るべきだろう。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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