NZも利下げ転換、2年で3回目の景気後退リスク回避目指す
2024年に入り、主要国・地域の中央銀行は利下げへ舵を切っている。
スイス国立銀行は3月21日、2015年以来、9年ぶりの利下げを決定。
5月8日には、スウェーデンの中央銀行であるリクスバンクが2016年以来、8年ぶりの引き下げに踏み切り、6月5日にカナダ銀行、6月6日に欧州中央銀行(ECB)、8月1日にイングランド銀行が続いた。
そして8月14日、今度はニュージーランド準備銀行(RBNZ)が政策金利を0.25%引き下げ5.25%に設定し、利下げサイクルに入った中銀に倣った。
RBNZの利下げは2020年3月以来、約4年半ぶりとなる。
エコノミスト予測では据え置きと利下げで五分五分だった一方、RBNZが5月に利上げを検討し、2025年後半まで利下げを行わないとしていただけに、ここ3ヵ月の間で政策転換したことになる。
最大の決め手は、7月17日発表のNZQ2消費者物価指数(CPI)で、前年同期比3.3%と、前期の4%を下回り2年ぶりの低い伸びにとどまった。
さらに、NZ6月総合PMIは40.9と、2021年8月以来の水準に低下。
NZQ2の失業率も、4.6%と2021年Q1以来の水準へ上昇した。
NZQ1の実質GDP成長率が前期比0.2%増と低空飛行を続け、RBNZは2年間で3度目の景気後退の瀬戸際に立たされていただけに、インフレ減速は利下げを決断する上でRBNZにとって好材料だったに違いない。
チャート:NZのCPI、Q2に3.3%と2年ぶりの低水準
RBNZはハト派シフト鮮明、年内3回連続の利下げも
声明文はハト派寄りの姿勢が鮮明となった。
景気について「国内経済活動の弱まりが、より顕著かつ広範に広がっている」と指摘。
また「インフレ率は低下し、企業のインフレ期待は中長期的な見通しで2%前後に回帰する見通し」とした。
今後の利下げについては「価格設定行動がインフレ率の低下にどこまで適応するか、そしてインフレ期待が目標の中間値にどの程度落ち着くか次第」と明記し、追加利下げ余地を保つ。
声明文と共に公表された議事要旨では、「経済が予想以上に急速に縮小していると示唆する幅広い指標により、7月に強調された生産と雇用の下振れリスクがより明白になっている」と明記した。
声明文や議事要旨より注目は、オア総裁の会見と金融政策レポートの内容だ。
オア総裁は会見で「0.5%利下げも議論した」と発言。
また「価格設定の意図が変わるというのは、良いニュースだ」と述べ、インフレ率が2%へ回帰しつつある方向性を歓迎した。
さらにRBNZは、四半期に一度公表する金融政策レポートで24年Q4の政策金利平均予想を4.9%、25年Q4は3.8%へ引き下げた。
年内1-2回、25年末までに5-6回の利下げを示唆した格好だ。
前回5月は2025年半ばまで利下げを予想していなかった内容と、対照的だ。
これを受け、エコノミストの間では、年内あと3回の会合全てで、0.25%利下げを行うとの見方が流れている。
チャート:RBNZの政策金利見通し
RBAはタカ派姿勢を維持、ブロック総裁は年内利下げを否定
利下げサイクルの突入を示唆したRBNZに反し、豪準備銀行(RBNZ)は政策金利を4.35%で維持するだけでなく、8月6日開催の金融政策決定会合後の記者会見では、ブロック総裁が「利下げは目先のアジェンダにはない」と断言するなど年内利下げ観測を否定、タカ派姿勢を貫く。
タカ派を貫く一因はインフレ率で、豪Q2消費者物価指数(CPI)のコアに相当するトリム平均は前年同期比3.9%上昇と、前期の4%以下だったが、CPI自体は同3.8%と前期の3.6%から再加速した。
こうした結果を踏まえ、RBAは金融政策決定会合の日に公表した最新予測でインフレ率と経済成長のトリム平均のCPI見通しをそれぞれ引き上げた。
チャート:豪Q2CPIは再加速、トリム平均は鈍化も高止まり
チャート:RBAの最新の経済予測の一部
NZと豪、金融政策がダイバージェンスする理由は?
両者の違いは何か。
米国では移民の急増が中立金利(緩和的でも引き締め的でもない金利水準)を押し上げたとされるが、豪は2023年に51.8万人、NZもに12.6万人と、それぞれ過去最高の流入ペースを記録しており、豪の人口が約2,650万人、NZが500万人と踏まえれば、移民が明暗を分けたとは想定しづらい。
両者の金融政策がダイバージェンスするカギは、実質金利が握っていると言えよう。
政策金利からCPIの前年比を引いた実質金利を比較すると、RBNZは政策金利を5.5%と2008年以来の水準まで引き上げた結果、6月時点で2.2%。
対して、RBAの利上げは4.35%までだったため、豪の実質金利は0.35%に過ぎない。つまり、NZの金融政策は、豪より引き締め度合いが強いことが分かる。
チャート:NZの金融政策、豪より引き締め寄り
実質金利の差と金融政策の引き締め度合いを踏まえれば、RBNZが先行して利下げを決断するのはサプライズではない。
足元、NZのほか中国や米国などで景気減速の足音が近づくなか、豪が利下げと無縁でいられるかは、インフレ動向が教えてくれるだろう。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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