高市首相の所信表明演説、2027年度「骨太の方針」の前哨戦に
衆院選で自民党が316議席を獲得し、結党以来最多の議席数を確保した。
結果を受け、ドル円でいわゆる「セル・ザ・ファクト」の展開が鮮明となった。
背景には、自民党の大勝を受けて、これまでの財政拡張路線に一定の修正が加えられるとの思惑が広がったためだ。
高市首相は総選挙直後に「(2年間の食料品消費税率ゼロについて)新規国債は発行しない。国民会議で検討を加速することになる」と発言。
翌9日にも、「債務残高(GDP)比を安定的に引き下げていくことを通じ…マーケットからの信認を確保していく」と強調した。
片山財務相も2月8日に放漫財政になることはないと説明、2月10日には「補助金や租税特別措置の見直し、税外収入等によって2年分の(食料品の消費税率ゼロへの)財源確保に向け知恵を絞る」と説明。
財政拡張路線に踏み込む姿勢を示していない。

チャート:高市首相、片山財務相の衆院選後の発言
さらに、片山氏から興味深い発言を確認できた。
2月13日の記者会見で、高市氏による「行き過ぎた緊縮財政」の発言について、片山氏は「頑張ってやってきた人たちと歴代の財務大臣のお考えに大変失礼」と言及。
これは、高市氏の経済・財政政策に対し、自民党として一定の軌道修正を促す意図がにじむ。
財務省のみならず、自民党としても、高市氏の従来の主張と距離を置き、第2次高市政権の財政運営が「責任ある積極財政」から、より伝統的な自民党路線へと回帰する可能性が示唆される。
今後、市場が注視すべきは、高市政権が実際に「方向転換」を図るかどうかであり、その判断材料となるイベントが2つある。
1つ目の焦点は、高市氏の所信表明演説である。
自民党は衆院選を受けた特別国会を2月18日に召集する意向を野党側に伝えており、同日に首相指名選挙が実施される見通しだ。
高市氏が再任され、第2次内閣が同日中に発足すれば、20日予定の所信表明演説が最初の試金石となる。
振り返れば高市氏は、2025年10月24日の所信表明で、名目国内総生産(GDP)の範囲内で政府債務残高の伸びを抑える政府債務残高対GDP比を重視する姿勢を表明。
また、1月22日の経済財政諮問会議で、高市氏は財政健全化の指標となる国と地方の“基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB:歳出の総額から国債の利払いや償還費を差し引いたもの)について、単年度黒字目標を改め、「数年単位でバランスを確認する方向に見直す」方針を打ち出した。
しかし、内閣府が同日の経済財政諮問会議に合わせ公表した資料では、2026年度の国・地方のPBは2025年8月時点の3.6兆円の黒字予想から転じて、8,000億円程度の赤字となる見通しが示された。
高市政権下で2025年12月に成立した18兆3,034億円規模の補正予算が影響したためだ。
確かに、2026年度は国の一般会計ベースで28年ぶりにPB黒字化を達成した。
もっとも、今後は食料品の消費税率ゼロの財源問題に加え、足元の金利上昇を受け、利払い負担が拡大する見通しだ。
したがって、PBの数年単位でバランスを確認する方向が適切か疑問が残る。
第2次高市政権発足に向け、高市氏が所信表明で、財政規律に向けた修正を図るかが、今後の長期金利やドル円を占う上で重要なカギを握ることは間違いない。
6月の閣議決定が見込まれる2027年度の骨太の方針を控え、所信表明が”前哨戦“となりそうだ。
日銀審議委員の後任、本田氏は「リフレ派である必要なし」と発言
2つ目の焦点は、日銀審議委員人事である。
政府は2月25日にも国会同意人事案を提出する見通しだ。
衆院選を受け、通常国会の開会が遅れるなか、一部報道では3月31日に任期満了となる日銀の野口旭審議委員だけでなく、6月29日に任期切れを迎える中川審議委員の後任案も俎上に載る公算が大きい。
こうしたニュースが飛び込むなか、政府は2月16日に高市氏が午後5時に植田総裁と会談を行う予定を発表した。
2025年11月18日以来、2回目となる。
日銀審議委員の後任について、協議してもおかしくない。
さらに、高市氏の経済ブレーンの本田悦郎元内閣官房参与は、ロイターとのインタビューで3月や4月の利上げに否定的な見解を寄せつつ、日銀審議委員の後任について「リフレ派である必要ない」と発言した。
安倍政権時代と異なりすでに「日本はデフレを脱却」しており、高市氏もフェーズが変わったことを「理解している」とも言及。
野口氏はリフレ派の学者なだけに、少なくとも1人はリフレ派が入るとみられていたが、風向きが変わりつつある。

チャート:日銀の政策委員会メンバー
仮に、後任人事のうち2人がリフレ派になったとしても、9人の政策委員会で主流派になるとは想定しづらい。
とはいえ、リフレ派の指名が見送られたならば、1月の「主な意見」で打ち出した、3月あるいは4月の利上げも辞さない日銀の方向性を、高市政権が容認したと受け止められそうだ。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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