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米・イラン交渉決裂、トランプ氏はホルムズ海峡封鎖を宣言

マーケットレポート

米・イランは交渉決裂、バンス氏は「最終かつ最良の提案を残していく」

米国とイランは4月11日、1979年のイラン・イスラム革命以降で最もハイレベルとなる対面での会談を行った。
バンス副大統領は、会見で「21時間にわたり交渉を続けたが、合意には至らなかった。これは米国にとってというより、イランにとってより悪いニュースだ」と説明。
「最終かつ最良の提案を残していく」と述べた上でパキスタンを後にした。

次回協議の予定は白紙だが、イラン側からは対話継続を示唆する姿勢がにじむ。
ガリバフ国会議長はXへの投稿で「今回の交渉では(in this round of negotiations)」という表現を用い、次回協議の余地を示唆した。
イラン外務省も、「いくつかの問題ではワシントンと理解に達した」との見解を表明したと報じられている。

しかしトランプ大統領はこうした動きに応じることなく4月12日、ホルムズ海峡の海上封鎖をトゥルース・ソーシャルの投稿で宣言した。
「米海軍が即時に、ホルムズ海峡に出入りしようとするすべての船舶に対する封鎖措置の準備を開始する」とし、他国との協力による機雷除去、イランに通航料を支払った船舶への介入、攻撃を行うイラン側への武力行使も辞さない姿勢を明示した。
さらに「適切な時期が来れば、米軍はイランに残された僅かなものを完全に片付けるだろう」と述べ、軍事的壊滅をも示唆した。
米中央軍は、13日の米東部時間午前10時から行う予定を発表。
イラン行き・帰りでない船の航行を妨げず、ホルムズ海峡そのものを閉鎖しない方向で、国際航行の自由に一定の配慮を示した。
ホルムズ海峡封鎖だけでなく、WSJ紙によれば、トランプ政権は協議膠着を打破すべく限定的ながら攻撃再開も辞さない構えだ。
WTI原油先物は再び100ドルを突破、欧州ガス価格も急伸した。

画像:CENTCOM、米東部時間13日午前10時からのホルムズ海峡封鎖を発表
画像:CENTCOM、米東部時間13日午前10時からのホルムズ海峡封鎖を発表
(出所:U.S. Central Command/X)

トランプ政権、膠着打開に向け地上軍投入より「ホルムズ海峡封鎖」を選択か

この封鎖宣言は、交渉の構図を根本から変える可能性がある。
イラン側は米国との交渉で①ホルムズ海峡の主権、②濃縮ウランの保有――をレッドラインとしたと報じられるが、トランプ政権はこのうちホルムズ海峡の主権維持を、軍事力によって封じにかかったものと読むべきだ。
これにより、米国とイランの間でエスカレーションが懸念される一方、クリントン政権で中東担当特使を務めたデニス・ロス氏は「封鎖はイランの輸出と収入を止め、イランがホルムズ海峡を閉鎖していることへの対抗策にもなる」と評価した。
また、中国に対してもイランへの圧力を強めるよう促す効果があると指摘している。
その他、地上軍投入よりは、少なくとも米国内からの反発は回避できる選択肢でもあると言えそうだ。

イラン外務省は「2〜3の論点で意見が一致しなかった」との見解を表明したが、その論点こそホルムズ海峡の主権、核開発の権利、制裁解除(凍結資産)といった核心領域である。
イラン国営放送が示したとされる 4つのレッドライン――①ホルムズ海峡主権、②戦争賠償、③凍結資産の全面解除、④地域全体の包括停戦――は、米国が受け入れ得ない要求を含んでおり、交渉が短期で進展するようには見えない。

チャート:米国の15項目の和平案と、イランの10項目の和平案
チャート:米国の15項目の和平案と、イランの10項目の和平案

米側は、イランと協議を行ったバンス氏が「核兵器を追求しないこと、迅速に取得し得る能力を追求しないこと」を最低条件として提示済みだ。
「問題は、イランが核兵器を開発しないという根本的なコミットメントを長期的に示すのかどうかだ」とも述べており、将来にわたる拘束力ある約束をイランに求めていることが明確だ。
米国とイランの協議は、平行線をたどっているように見える。
このような局面で、プーチン大統領との電話会談でペゼシュキアン大統領が「均衡の取れた公正な米国との合意に向け完全に準備が整っている」と発言したと報じられた。
ここが交渉の糸口となる可能性も否定しづらい。

トランプ氏は中国をけん制も、訪中を前に中国による武器供与の報道に深入りせず

イラン情勢は、トランプ政権の対中政策にも影響を及ぼし得る。
トランプ氏はFOXニュースの電話インタビューで「中国がイランに肩撃ち式対空ミサイルシステムを供与する準備をしている」との報道に対し、「そうなれば、中国は大変なことになる」と指摘
さらに「イランに兵器を提供する国には50%の関税を課す」と4月8日に示した方針を繰り返し、中国も例外ではないと強調した。
ただし、トランプ氏は「習近平国家主席とは非常に良い関係にある」と言及したうえで、中国はイランへの武器供与を行わないとの認識を示した。
対中警告を外交カードとして手元に残しつつ、5月14〜15日に予定されるトランプ訪中を前に、米中関係の不安定化を避ける意図がうかがえる。

以上を踏まえると、今後のイラン情勢は以下の3つのシナリオのいずれかに収束すると見られる。

  • ①危機管理シナリオ――封鎖は実施されるが双方が直接衝突を回避しつつ、膠着状態が継続
  • ②エスカレーションシナリオ――海上での偶発的衝突やイランによる石油施設攻撃が引き金となり、軍事的対峙が一段階上昇
  • ③交渉再開シナリオ――封鎖という圧力を受けてイランが折れ、ペゼシュキアン大統領が示した「均衡ある合意」を軸に協議が再開へ

封鎖の実施そのものが既にエスカレーションの一形態であり、偶発的な衝突がより大規模な軍事衝突へと発展するリスクは現実味を帯び始めた。
トランプ政権がホルムズ海峡封鎖というカードを切ったいま、焦点はイランがこの圧力にいかに応じるか――報復に出るか、交渉に戻るか――に移ったと捉えられよう。

WTI原油先物は再び100ドル台へ急伸、ドル円は赤沢発言が影響し高値もみ合いか

WTI原油先物は13日、時間外取引で米国とイランの交渉決裂に反応し100ドル台へ急伸した。
一方で、ドル円は13日の午前中時点で一時159.86円まで本日高値を更新後、159円後半でのもみ合いが続く。
背景に、赤沢経済産業相の発言が意識された可能性がある。
赤沢経済産業相は4月12日、NHKの番組で、イラン情勢悪化に伴う物価高騰対策として「実質金利はかなり低い状態なので、経済に及ぼす影響を見ながら(円高方向の金融政策を)考えていくのも一つの選択肢としてはあり得る」と述べた。
閣僚が日銀の金融政策の方向性に言及するのは異例であり、高市政権内で円安阻止に向けた4月利上げ容認の動きが出てきたのか、読み解く必要がありそうだ。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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