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ベッセント財務長官、5月訪日なら日本に「3つの転換」を促すか

マーケットレポート

ベッセント財務長官、再訪日の背景と今回の焦点

スコット・ベッセント米財務長官が、5月中旬に北京で予定される米中首脳会談の前後に日本を訪問する方向で調整していることが4月15日に明らかになった。
片山さつき財務相および赤沢亮正経済産業相との会談が想定されており、原油市場の動向や重要鉱物のサプライチェーン多様化が表向きの議題となるとみられる。
トランプ大統領は3月25日、イランとの交戦を理由に延期していた習近平国家主席との北京会談を5月14~15日に開くと表明しており、ベッセント氏も同行する見通しだ。
中東情勢次第では延期となる恐れもあるが、訪日が実現すれば2025年10月以来となる。

ベッセント氏の訪日では、表向きの議題のほかに、日本に迫る”3つの転換”――金融政策の正常化、財政拡張路線からの脱却、そして中東安全保障への関与――が意識される。
足元、4月27ー28日に予定される日銀の金融政策決定会合 を直前に控えているが、市場の4月利上げ確率は4月17日時点で20%割れと先週の57%から大幅に低下。
中東情勢の不確実性を受けた3月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIが前月比6.7ポイント低下の42.2と大幅悪化したことに加え、植田和男総裁が4月13日の信託大会で利上げを示唆する発言を控えたことなども、利上げ観測の後退を招いた。

チャート:3月景気ウォッチャー調査の現状判断は2022年2月以来の低水準
チャート:3月景気ウォッチャー調査の現状判断は2022年2月以来の低水準

さらに赤沢経産相による『円高につながる金融政策も一つの選択肢』との発言に対し、片山財務相が高市首相と自身の意見として日銀政策への言及を慎むよう注意したことは、利上げに慎重な高市氏の姿勢を市場に印象づけた。
こうした状況下でのベッセント氏の訪日予定の報道は、4月会合を直前に控え市場にサプライズを与えた。

ベッセント氏、就任早々から日銀の金融政策正常化を訴え

ベッセント氏による日本へのメッセージは就任以来、一貫した方向性を持つ。
就任早々の2025年2月にオンライン会談で植田総裁と会談した。
同年6月の半期為替報告書では日本を引き続き監視対象国としつつ、異例となる「日銀は金融引き締めを継続すべきで、対ドルでの円安の正常化と二国間貿易の必要な構造的リバランスにつながる」との文言を追加した。

同年8月には日銀が「ビハインド・ザ・カーブ(後手に回っている)に陥っている」と名指し。
同年10月の訪日時に米財務省が公表した会談記録は「アベノミクス導入から12年が経過し、状況は大きく変化している」と明記した上で「健全な金融政策の立案とコミュニケーションがインフレ期待の安定と過度な為替変動の防止において重要な役割を担う」と踏み込んだ。

今年1月には日本の長期金利急騰を「6シグマ」と表現し、日米財務相声明でも同様の文言を確認した。
その後NY連銀によるレートチェックが報じられ、ドル円160円超えを容認しない「ベッセント・シーリング」の存在が市場に意識された。
1月公表の最新為替報告書では前述の文言が削除されたが、「新政権下での拡張的な財政政策期待から円は数十年ぶりの安値圏で固定されている」と明記し、円安への批判をにじませた。

チャート:ベッセント財務長官、過去の日本に対する発言など
チャート:ベッセント財務長官、過去の日本に対する発言など

IMF財政警告が加わる複合的な圧力と、4月日銀会合

こうした米側からの圧力に、国際機関からの警告が重なる。
IMFは4月15日、財政モニターで中東での戦争が既に脆弱化している世界の財政に一段の負担をもたらしているとし、世界の公的債務残高は2025年のGDP比94%から、現状の軌道が続けば2029年には第二次世界大戦後以来初めて100%を超えるとの見通しを示した。
また、財政悪化の性質が構造的なものであると明示した上で、世界の財政余地がほぼ消滅しつつあると指摘しており、ガソリン補助金など他の先進国より財政支援を優先する日本への示唆とも読める。
ベッセント氏が2025年10月の訪日時に「アベノミクスからの転換」と「拡張型財政への抑制」を一体として日本に求めた文脈は、こうした国際的な財政規律への要請とも符合している。

ただ、ベッセント氏がG20財務相・中央銀行総裁会議を経て片山氏との会談についてXに投稿した文言には、金融政策の正常化や財政拡張路線への言及は一切なく、日米同盟の再確認とエネルギー・金融分野での日本のリーダーシップへの謝意、そして投資安全保障局(OIS)による対内直接投資審査メカニズムの導入支援にとどまった。
少なくとも公式の場では”3つの転換”への圧力を前面に出さない姿勢を示した格好だ。

植田氏はG20財務相・中央銀行総裁会議後の会見で『中東情勢のショック持続踏まえ対応する』との考えを寄せ、利上げ示唆を与えなかった。
この発言がベッセント氏による金融政策正常化への圧力後退を示すのか、4月会合の決定で明らかになる。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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