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ウォーシュFRB議長のデビュー戦、6月FOMCの「衝撃に備えよ」

マーケットレポート

トランプ大統領、6月FOMC前に利上げを望む姿勢を強調

「良い雇用統計が出るたびに金利を上げたがるのは不公平だ。我々はむしろ金利を下げるべきだ」――トランプ大統領は6月7日付NBCインタビューで、あらためて利下げを望む姿勢を強調した。
米5月雇用統計が予想の2倍超となる17.2万人を記録した直後と合わせ、2回目となる。
就任宣誓式と同様に「ケビン(ウォーシュ議長)には自分のやりたいようにやってほしい」とも言及し、ウォーシュ氏率いるFRBの独立性を尊重する姿勢も見せたが、利上げはもってのほか、とするトランプ氏の本音が再び明確化された。

力強い雇用統計を受けてFF先物市場では年内利上げの織り込みが急速に高まり、10月FOMCの利上げ織り込み度は51.2%と据え置きを逆転した。
ウォーシュ氏のFRB議長デビュー戦となる6月16〜17日のFOMCでは、声明文から緩和バイアスが削除される公算だが、経済・金利見通し(SEP)の公表も予定するだけに、市場は利上げの地ならしを行うのか、固唾をのんで見守る状況だ。

ウォーシュ氏といえば、トランプ氏がFRB議長に指名する以前から「FRBの改革」を掲げ、指名公聴会では①政策ツールの見直し、②物価安定の取り組み、③コミュニケーション手法の変更――の3つを軸に「体制転換(レジーム・チェンジ)」の必要性を主張した。

ウォーシュ新議長、「FRB改革」の狼煙を上げる

有言実行のごとく、ウォーシュ氏は就任早々に中央銀行での経験を持たない2人の顧問を招き入れ、改革の先鞭をつけた。
1人はスタンフォード大学フーバー研究所のダニエル・ハイル氏で、同氏は連邦政府の医療費支出の削減や社会保障制度の著作で知られる。
もう1人こそ、2024年の米大統領選の最中に保守系シンクタンクのヘリテージ財団を中心に作成された「プロジェクト2025」で、FRB改革の章を執筆したポール・ウィンフリー氏だ。
同氏のFRB改革は①二大統治目標(雇用の最大化、物価の安定)の廃止、②6.7兆ドル規模のバランスシートの大幅縮小、③FRB廃止にあたる「フリーバンキング」まで射程に収める、急進的な内容だ。

チャート:ウィンフリー氏が「プロジェクト2025」で提示したFRB改革案
チャート:ウィンフリー氏が「プロジェクト2025」で提示したFRB改革案

その後、ウィンフリー氏は「FRBは改革されるべきだが、廃止には賛同しない」と軌道修正し、自身が立ち上げたEPICの論文でも実証的な手法でFRBの国債購入と財政赤字の関係を分析するなど穏健な立場へと移行している。
とはいえ、急進的な改革案の起草者を議長自らが顧問に迎えたという事実は、改革への本気度を示すシグナルと受け止められよう。
加えて、ウォーシュ氏はFRBスタッフに書簡で「過去の慣行に縛られず、より良い代替手段を追求する」との立場を表明。
FRB改革への固い決意の表れと言える。

J.P.モルガン・アセットマネジメントは、ウォーシュ議長の改革アジェンダを同氏の名字のスペルに合わせ「WARSH」という頭文字で整理し、①フォワードガイダンスの廃止、②インフレ指標刷新、③バランスシート縮小、④規制監督の役割縮小、⑤FRBの独立性堅持――と位置づけた。

チャート:J.P.モルガン・アセットマネジメントが提示した改革アジェンダ「WARSH」
チャート:J.P.モルガン・アセットマネジメントが提示した改革アジェンダ「WARSH」

6月FOMCで想定されるFRB改革の布石は

ただし、このうち6月FOMCで実現可能なのは①に含まれるコミュニケーションの修正への一手となる。
例えば、ウォーシュ氏がドットチャートを含め経済・金利見通しを提出しない、あるいは会見の場で会見の頻度を削減する意図を明らかにするシナリオが想定される。
その他、②については、会見で従来のコアPCEではなく、指名公聴会で言及したようにトリム平均PCEを重視する姿勢を打ち出す可能性もありうる。
その場合、トリム平均PCEの前年比は4月まで8カ月連続で鈍化しており、加速するPCEとコアPCEと正反対で推移するだけに、年内利上げ観測が台頭する市場に冷や水を浴びせかねない。

チャート:PCEとコアPCEは加速も、ウォーシュ氏が重視するトリム平均は8カ月連続で鈍化
チャート:PCEとコアPCEは加速も、ウォーシュ氏が重視するトリム平均は8カ月連続で鈍化

超党派シンクタンクの外交問題評議会(CFR)に在籍するロジャー・ファーガソン元FRB副議長は、FRBの制度的現実を知り尽くした視点から何が起こり得るかを論じている。
ファーガソン氏はまず、FOMCの議長は政策決定においてあくまで1票を持つ委員の一人に過ぎず、過半数の支持なしには政策を動かせないという制度的制約を強調する。
そのうえで、最初の100日間でウォーシュ議長が行うと予想されることとして、①優先課題を検討するワーキンググループの設置発表、②将来の金利決定に関する詳細なフォワードガイダンスを避けるより抑制的なコミュニケーション姿勢への転換、③バランスシート縮小に向けた措置、④中央銀行デジタル通貨(CBDC)を追求しないという確約表明――を挙げる。

チャート:想定されるウォーシュ氏のFRB改革案と、変更に必要な権限・手続きなど
チャート:想定されるウォーシュ氏のFRB改革案と、変更に必要な権限・手続きなど

一方、ファーガソン氏が最大のリスクとして指摘するのがインフレの再加速だ。
イラン戦争に起因するエネルギー供給の混乱が一時的なショックにとどまらず広範な物価上昇として波及すれば、ウォーシュ氏はトランプ氏が望む利下げとは正反対の利上げを迫られかねない。
利上げを行えば「大統領の期待を裏切った」と批判され、据え置けばインフレ対応の不作為を問われる構図だ。

パウエル前議長が理事として残留する異例の体制を受け、同氏が「影の議長」として“院政”を敷く可能性も指摘。
ただ、パウエル氏自身はFRB議長として最後のFOMC会見に臨んだ際に、その可能性を否定しており、両者の関係が実際にどう機能するかは未知数だ。

指名公聴会で「操り人形にはならない」と明言したウォーシュ氏は、6月FOMCで、まずコミュニケーション改革という一歩を踏み出すことだろう。
FRB改革への一歩を踏み出すならば、市場が期待するほどタカ派的ではない可能性を視野に入れておくべきだ。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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