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ベッセント財務長官が迫る『脱リフレ』、日銀利上げと高市財政への圧力

マーケットレポート

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ベッセント氏、「リフレ政策を止めるべき」と踏み込む

トランプ氏が2016年の米大統領選に勝利した際、英エコノミスト誌は同氏を「Impresario=興行主」と表現した。
政策を説明するだけでなく、人々の注目を集める舞台をつくり、登場人物を配置し、政治そのものを一つのショーとして動かす。
そんなトランプ氏の政治手法を言い表した言葉だった。

翻って現在、トランプ政権で財務長官を務めるベッセント氏は、ドル円の下落を促すうえで「演出家」と言えそうだ。
8月30日、ベッセント氏は円相場について「抑制されている」と述べるとともに、植田日銀総裁については高市首相の支持を得て金融政策で「正しいことをする」と発言
翌31日には、日本政府と日銀について「円高につながる措置を取る」とさらに踏み込んだ。

G20財務相・中央銀行総裁会議では、その要求を一段と明確にした。
植田氏との会談後、米財務省は、インフレ期待を安定させ、過度な為替変動を避けるための「健全な金融政策の策定とコミュニケーション」が重要とする声明を公表。
円の「大幅な過小評価」に対処する日本の市場対応と金融政策上の措置を支持し、円安が日本国内のインフレ圧力を高めているとも指摘した。

そして9月1日のG20後の会見で、ベッセント氏は「日本はアベノミクスで大きな成功を収めた。
今はそれを自然に進ませ、リフレ政策を止めるべきだ」と踏み込んだ。
この「stop the reflation」という言葉は、片山さつき財務相の9月4日の会見でも取り上げられた。
片山氏は、ベッセント氏から日本側に具体的な金融政策上の要求を受けたわけではないと説明したものの、「should」「stop」という直接的な表現を使った点は、それまでの発言とは明らかに一線を画す。

対日要求は2025年から一貫、今回は「オブラート」を外す

もっとも、ベッセント氏が日本に政策転換を求め始めたのは今回が初めてではない。
2025年6月の米財務省の為替報告書では、成長やインフレを含む国内のファンダメンタルズに応じて、日銀は金融引き締めを続けるべきだとの考えを示した。
さらに2026年1月の為替報告書では、円安の背景について「新政府の下で財政政策がより拡張的になるとの見通し」を明示的に挙げている。

2025年10月には、片山財務相との会談後に米財務省が公表した声明で、アベノミクス導入から12年が経過し、日本経済を取り巻く環境は大きく変化したとして、インフレ期待を安定させ、過度な為替変動を防ぐための「健全な金融政策」を求めた。
その翌日にはベッセント氏自身がXで、アベノミクスは「純粋なリフレ政策」から、国民の「成長とインフレへの懸念」のバランスを取る政策へ移行しているとの認識を示していた。

画像:ベッセント氏の訪日時のX
画像:ベッセント氏の訪日時のX
(出所:Treasury Secretary Scott Bessent/X)

こうしてみると、ベッセント氏の問題意識は2025年からほぼ一貫している。
日本はもはやデフレ脱却を最優先し、超低金利と財政刺激を同時に続ける局面ではないということだ。
ただ、当時は「金融政策の正常化」、「健全な金融政策」、「成長とインフレのバランス」といった比較的婉曲的な言い回しだった。

それが今回は、「リフレ政策を止めるべきだ」と外交的なオブラートを外した。
その背景を考えるうえで、高市政権の政策運営だけでなく、それを支える経済ブレーンや日銀人事まで見る必要がある。

チャート:G20財務相・中央銀行総裁会議前後のベッセント氏の主な発言内容
チャート:G20財務相・中央銀行総裁会議前後のベッセント氏の主な発言内容

高市政権の経済ブレーンと日銀人事にも向けられた視線

英エコノミスト誌は、高市政権の積極財政を支える人物として、日本成長戦略会議のメンバーで経済ブレーンでもある会田卓司氏を取り上げている。
同氏は2%程度のプラスの需給ギャップをつくる必要性を唱え、将来の便益が金利負担を上回る戦略的投資については、国債発行による資金調達も辞さない立場を示してきた。
同誌は高市政権の財政刺激について、インフレが定着し、日銀が正常化を進める局面でなお需要を押し上げる政策を続ければ、金利上昇や国債市場の不安定化という形で副作用が先に表れかねないと批判している。

こうした経済ブレーンへの違和感は、ベッセント氏本人の発言とも重なる。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙によれば、ベッセント氏は5月の訪日時、片山財務相との夕食の席で約2時間にわたり、高市政権の経済政策への不満を示したという。
高市政権が政府支出を拡大する一方、日銀に低金利の維持を求めることで資本流出と円安を招いているとの問題意識を示し、「なぜ高市氏の周辺にいる一部の経済アドバイザーは、円安のメリットを説いているのか」と疑問を呈した。
NYT紙の報道では、ベッセント氏が日銀についても「なぜ独立性が与えられていないのか」と問い掛けたとされる。
こうした経緯を踏まえれば、ベッセント氏は単に利上げを求めているだけではなく、高市政権を支えるリフレ派の政策思想そのものの見直しを求めているようにも見える。

日銀人事も同じ文脈にある。
高市政権は、日銀の金融正常化に慎重なハト派色の強い浅田氏佐藤氏を審議委員として送り込んできた。
ベッセント氏が2025年から一貫して金融正常化を促してきた一方で、政府側が低金利を長く維持しやすい人事を進めてきたのであれば、今回の「stop the reflation」には、そうした姿勢への不満もにじむ。
少なくとも、米財務省側からみれば、財政は拡張、金融政策はできるだけ低金利を維持し、円安のメリットまで強調するという政策の組み合わせは、これまで求めてきた方向と逆である。

積極財政と財政規律、問われる高市政権の政策運営

9月6日付英フィナンシャル・タイムズ紙も、高市政権の積極財政に対する市場の警戒を取り上げている。
同紙は、片山氏をベッセント氏、高市氏、債券市場の間をつなぐ重要人物として描き、約143兆円に膨らんだ概算要求や食料品の消費税減税、国債利回り上昇を並べながら、高市政権の成長戦略と市場が求める財政規律との緊張を浮き彫りにした。

具体的には、まず食料品の消費税減税がある。
ベッセント氏自身は、その是非について言及していない。
ただ、2026年のIMF対日4条協議は、日本経済が潜在成長率を上回るなか、短期的な財政政策について「さらなる緩和を避けるべき」とし、より中立的な財政スタンスを推奨している。
生活費高騰への支援についても「財政中立・一時的・対象を絞る」ことを求め、消費税減税は原則として避けるべきだと明記した。
一方、食料品などに限定した2年間の時限措置については、追加国債発行を必要としない財源を確保し、対象を必需品に絞ることで財政コストを抑える余地も認めている。

高市政権の2027年度予算編成も気掛かりだ。
高市氏は「責任ある積極財政元年」と位置づけ、成長投資を大胆に進める方針を打ち出した。
7月27日の記者会見では、成長力を高める投資を進めながら、債務残高対GDP比を安定的に低下させると説明した一方、「強く豊かな日本」を実現するための投資については従来型のシーリングに縛られない予算編成を掲げた。

その結果、9月4日に公表された一般会計の概算要求額は143.1兆円に膨らんだ。
金利上昇を受け、国債の利払い負担も増える。
政府は新規国債発行を抑える方針を示しているものの、市場が見るのは要求額の前年比だけではない。
成長投資の拡大を、どこまで国債増発に頼らず実現できるのかが問われる。
ロイターによれば、2027年度の概算要求では、想定金利の引き上げを背景に国債費が過去最大規模に膨らんでいる。

ガソリン補助金も同じ文脈で捉えられる。
高市政権は原油高を受け、ガソリン価格を全国平均170円程度に抑える支援を続けてきた。
9月から補助を縮小する方向も検討されていたが、高市氏は8月25日、中東情勢の不透明感を理由に補助の継続を表明し、必要に応じて予備費を活用する方針を示した。

家計支援としては理解できる。
しかし、物価高への対応を財政支出で続ける一方、成長投資では歳出拡大の余地を広げ、さらに消費税減税まで加われば、財政全体としては拡張方向に傾きやすい。
加えて、政府投資の拡大が人材や資材を民間部門からクラウディングアウトすれば、人手不足や資材価格の上昇を通じてインフレ圧力をさらに強めかねない。
機械受注をみると、受注残が約52兆円と過去最大を更新していた。

チャート:6月機械受注、受注残は52兆円超えと過去最大を更新
チャート:6月機械受注、受注残は52兆円超えと過去最大を更新

ベッセント氏が一連の発言で演出したのは、日銀の利上げによる円安是正だけではない。
日本が本当に「脱リフレ」へ転換するのかを市場に問い直させることだったのではないか。
日銀の利上げに加え、高市政権が財政面でもアクセルを緩めるのかが、次の焦点となる。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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