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AI一本足の米経済に黄信号、日米中銀会合を経てドル円は下方向を試すか

マーケットレポート

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メタ決算で揺らぐAI一本足の米経済

AI関連企業をめぐる信用不安が吹き荒れている。
火元は、借入資金でAIインフラを築いてきた「ネオクラウド」の代表格、コアウィーブだ。
同社の5年物クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は10月半ばに1,200bp近くまで上昇し、破綻前の目安とされる1,000bpを超えた。
決算発表シーズンを迎えると、信用不安はネオクラウドから巨大IT企業へと飛び火した。

メタが21日に発表した7-9月期決算は、売上高が前年同期比26%増と好調だった。
しかし、ファイナンス・リースを含む設備投資が営業キャッシュフローを上回り、フリーキャッシュフローは10年以上ぶりの赤字に転落した。
議決権のないクラスC株の新設も発表し、株式による資金調達への布石と受け止められた。
メタの5年物CDSも22日に過去最高を更新しており、最も財務の厚い巨大IT企業ですら、手元資金だけではAI投資を賄えなくなったことが鮮明となった。
なお、28日のアルファベットとマイクロソフト、29日のアマゾンの決算でも、設備投資の規模に加え、その資金をどう賄うかが焦点となろう。

チャート:メタ、設備投資が営業キャッシュフローを上回りフリーキャッシュフローは赤字に
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AI投資の息切れは、米経済そのものの死角にもなりうる。
米経済分析局(BEA)の統計を基にした当社の試算では、2026年上半期の実質GDP成長率のうち、情報処理機器とソフトウェアからなるIT投資が占める割合は41%と、ITバブル期の1999年上半期の28%を上回る。
アトランタ連銀のGDPナウを基にした試算でも、Q3のIT投資の寄与度は約1.2ポイントと上半期を上回り、在庫を除く最終需要(1.6%増)に対しては7割を超える。
国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事も、世界経済は「AIという片足で立っている」と発言。
AI一本足の米経済で信用不安が投資計画の見直しにつながれば、日米の金融政策と為替の行方も大きく変わりうる。

チャート:AI関連投資、足元で米成長をけん引
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FOMCは据え置きへ、GDPの強さとは裏腹に需要には陰り

今週は27-28日にFOMC、29-30日に日銀金融政策決定会合を控える。
FOMCは9月に2023年以来となる0.25%の利上げを決め、FF金利誘導目標を3.75~4.00%に引き上げた。
ケビン・ウォーシュFRB議長は10月16日、「会合の結果を予断しない」と述べつつ、足元の物価上振れでも景気認識は変わらないと発言し、10月据え置きの見方を打ち消さなかった。

10月23日時点のFF金利先物市場で、10月据え置きの織り込み度は90%に達し、12月の利上げ織り込み度は68.9%と一時の75%超えから低下の兆しをみせている。
2027年末までの3回以上の利上げを見込む確率も49.2%と、50%を割り込んだ。

チャート:12月利上げ予想は引き続き優勢も2027年末までの3回利上げ予想は後退
チャート:12月利上げ予想は引き続き優勢も2027年末までの3回利上げ予想は後退

利上げ確率の後退は、AI関連の信用不安に加え、高官の発言も一因だ。
フィリップ・ジェファーソンFRB副議長は10月1日の講演で、次の一手を判断するには「より時間がかかるかもしれない」と言及。
FOMCで副議長を務めるジョン・ウィリアムズNY連銀総裁も9月29日の講演で「急ぐ必要はなく、さらに情報を集める時間がある」と述べ、10月13日のブルームバーグのインタビューでも、年内にあと1回の利上げを示唆しつつ、2027年に追加利上げが必要になるとは考えていないと語った。

ウォーシュ氏はフォワード・ガイダンスの撤廃を目指しており、12月の利上げを前もって約束するとは限らない。
ただ、FOMC翌日の29日に発表される米Q3実質GDP速報値は、強含みの見通しだ。
アトランタ連銀のGDPナウは、10月20日時点で前期比年率3.5%増と予測する。
同日発表の米9月PCE価格指数も上振れが見込まれ、クリーブランド連銀のナウキャストは、PCEが前年比3.6%と8月の3.4%から、コアPCEも3.1%と3.0%から加速すると予想する。
もっとも、前述の通り米国の成長はAI投資頼みの色彩が濃い。
AI関連の信用不安で投資が減速すれば、米成長率は押し下げられ、物価上昇圧力も後退しかねない。
数字の強さとは裏腹に、米経済には黄信号が灯りつつある。

その兆しは、足元の需要に表れている。
米9月小売売上高は前月比0.8%増だったが、インフレを除く実質小売売上高は前月比0.1%増にとどまった。
企業の景況感にも陰りがみえ、10月のNY連銀製造業景況指数の仕入れ価格は63.1から59.5へ、フィラデルフィア連銀の同指数も約5ポイント低下して43.2となり、ピークアウト感が出てきた。
6カ月先の見通し指数は、NY連銀が29.0から21.0へ、フィラデルフィア連銀が53.0から33.0へと、そろって2カ月連続で低下し、年初来で2番目の低水準に落ち込んだ。
NY連銀の6カ月先の仕入れ価格見通しは70.9へ上昇しており、原油高の価格転嫁には警戒が残る。
それでも需要が鈍化すれば、インフレ圧力は高まりにくい。
ウォーシュ氏が会見でこうした需要の鈍化に触れるか否かが、12月利上げの行方を占う試金石となろう。

チャート:PCE価格指数、クリーブランド連銀のナウキャストは9月の加速を予想
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チャート:NY連銀とフィラデルフィア連銀の6カ月先見通し指数、2カ月連続で急低下
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日銀は2%到達判断へ、政府との温度差と浅田委員が焦点

日銀は、9月に引き上げた政策金利1.25%程度の据え置きが確実視される。
時事通信は、日銀が10月会合で利上げを見送る一方、一時的な要因を除いた基調的な物価上昇率が2%目標に到達したと判断する方向だと伝えた。
日本経済新聞も「2%物価目標に事実上到達」と報道。
2013年1月の物価目標導入から約14年を経ての到達となる。
10月30日公表の展望レポートでは、原油高に伴うコスト転嫁を背景に、2027年度の物価見通しも小幅に引き上げられる公算が大きい。

植田和男総裁は16日の挨拶(内田副総裁が代読)で、物価を「2%程度の水準に安定させていく観点がより重要」との認識を示し、氷見野良三副総裁も21日の衆院財務金融委員会で「緩和調整遅れれば、景気の悪化につながる可能性」と答弁した。
特に氷見野氏の発言からは、多少の株安や米成長の鈍化があっても、12月利上げへの地ならしを進める構えがうかがえる。
2024年7月の利上げ後、日経平均が8月5日に4,451円安と過去最大の下げ幅を記録した際、内田副総裁が同月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と述べた当時とは対照的だ。

政治の風向きも日銀の背中を押す。
エリン・ブラウン米財務次官は10月15日(米国時間)、「日本はもはやデフレ環境にない。円の水準と金融政策もそれに合わせて変わるべきだ」と発言した。
高市政権も脱リフレに舵を切った。
高市早苗首相は8日の国会答弁で、日本経済は物価の持続的な下落という意味でのデフレではないと述べた。

ただ、温度差もある。
城内実経済財政相は20日、今月の日銀会合にも「都合がつけば出席したい」と表明した。
そのうえで23日の閣議後会見では、消費者物価やGDPデフレーターなどを総合的にみて、デフレに後戻りしないよう慎重に判断する考えを示し、ブラウン氏の発言には触れなかった。
同日の東京時間には、この発言を受けてリスク回避の円買いが巻き戻され、ドル円は一時157円台を回復した。
日銀が2%到達を判断しても、政府のデフレ脱却宣言はなお先となりそうだ。

10月会合では、まず城内氏が出席するかがポイントとなる。
据え置きの見通しでも日銀が12月利上げへの地ならしを進めるなかで同氏が出席すれば、デフレ脱却や利上げの判断を慎重に見極めたいという政府の姿勢を、会合の場で示唆したと判断されかねない。

もうひとつ、10月会合後の浅田統一郎審議委員の動向も今後の利上げへ向けたカギを握る。
9月会合の利上げは7対2の賛成多数で、浅田氏は佐藤綾野委員とともに反対した。
もっとも、佐藤氏はその後、共同通信のインタビューで、政策金利を段階的に調整していく方針には「賛成している」と述べた。
浅田氏は「リフレ派」との見方に「違和感はない」と述べる一方、就任会見ではアベノミクス以降の政策は実際には物価と雇用の両方を考慮してきたとの認識を示した。
11月12日の長崎県金融経済懇談会での挨拶で見解に変化がみられれば、12月利上げは「一枚岩」で決まる公算が大きくなろう。

チャート:今後の予定
チャート:今後の予定

ドル円は下方向を試すか、カギは円買いの積み増し余地と脱リフレの本気度

為替への影響をみると、2023年4月以降、日銀の金融政策発表日にドル円が前日比で上昇したのは28回中20回で、上昇した回の平均の上げ幅は1.40円(当社集計)だった。
もっとも、年初来は当局の動きが会合日の円売りを打ち消してきた。
①1月23日のNY連銀によるレートチェック、②7月30日の財務省による円買い介入、③7月31日の日米協調介入と、日銀会合の結果発表と前後して当局が動き、ドル円の上昇を抑えた。
据え置きと2%到達の判断が想定通りであれば、材料出尽くしの円売りを招きやすい。
ただ、円安が進めば当局の牽制が再び意識されやすく、会合後の円売りにも歯止めがかかりやすい。

チャート:日銀金融政策発表日、ドル円の前日比
チャート:日銀金融政策発表日、ドル円の前日比

一方、2027年度の物価見通しが想定以上に引き上げられ、12月利上げへの地ならしが鮮明となれば、円買いが進む余地がある。
FOMCは「タカ派的な据え置き」でドルを支えうるが、AI関連の信用不安が続き、GDPの強さよりも先行きの鈍化に市場の目が向けば、米利上げ観測の後退と日米金利差の縮小を通じて、ドル円の上値は重くなろう。

IMFの国際金融安定性報告書も、2024年8月の円キャリートレードの巻き戻しを分析し、投機筋の持ち高が偏った局面では、借入を使った円ショートの積み上がりが円高と日本株安の下振れリスクを大きく広げると指摘した。
AI株安と日銀の利上げ観測が重なれば、円高・株安が増幅されるリスクもある。

もっとも、円買いの持ち高にはなお積み増しの余地がある。
比較の目安となるのが、米国が2025年4月に相互関税を発表した後の局面だ。
世界的なリスク回避で円買いが膨らみ、CFTCの統計によれば、投機筋の円先物ネット・ロングは同年4月29日週に17万9,212枚に膨らみ、特にアセットマネージャーの円のネット・ロングは12万7,275枚まで積み上がった。
レバレッジ系も4~5月に2万~3万枚台のネット・ロングに転じ、ドル円は4月22日に139.89円と2024年9月以来の水準へ下落した。
これに対し、10月20日週時点でアセットマネージャーのネット・ロングは7万9,103枚へ拡大も当時には及ばず、レバレッジ系も2万2,890枚のネット・ショートにとどまる。

チャート:投機筋の円先物ネット・ポジション、2025年春の水準までネット・ロングの余地はあるが…
チャート:投機筋の円先物ネット・ポジション、2025年春の水準までネット・ロングの余地はあるが…

ただ、ドル円が当時の水準まで下落するには、越えるべきハードルが多い。
2025年10月4日の自民党総裁選で高市氏が総裁に選出された後、ドル円は大きく窓を開けて上昇した。
10月3日の高値147.82円と6日の安値149.05円の間の窓を埋めない限り、本格的な円高は想定しにくい。
その手前でも、155円の節目と、年初来安値の152.09円を割り込む必要がある。
円買いの持ち高が当時のように積み上がるには、AI関連の信用不安による株安と重なるか、高市政権の脱リフレ姿勢が本物と受け止められるかがカギとなりそうだ。
高市氏は23日、ガソリン補助金の段階的な縮小を含む見直しを経済産業相に指示したが、消費税減税の財源をはじめ、脱リフレ姿勢の本気度が今後試されることになろう。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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