CHAPTER 01投票日から何が起きたのか
投票日から3日間で、AI関連株の値動きは「選別」から「全面安」へと変わり、6日には東京市場にも売りが広がりました。
(米国)
- 米中間選挙の投票。民主党が上下両院で過半数を確保
- 出口調査などでデータセンターへの反発の強さが明らかに
(米国)
- 大手IT株が上昇(マイクロソフト+6.7%、アマゾン+6.1%)。新設が抑えられれば、すでに設備を持つ大手が有利との見方
- 半導体株指数は3.1%安、電力のビストラは13.8%安と「建てる側」が売られた
- 引け後にクアルコムとアームが決算を発表。見通しが物足りないと受け止められた
(東京)
- アドバンテスト14.7%安、東京エレクトロン9.4%安など半導体株が急落し、日経平均は1.79%安
- 一方、トヨタ自動車の業績予想の引き上げなどでTOPIXは1.16%高。下げはAI関連の一部の大型株に集中
(米国)
- 半導体株指数は12.2%安、ナスダック100は6.4%安、S&P500は4.4%安と全面安
- AMDとマイクロンが17%超下落。前日に上がった大手IT株も軒並み下落(アップル1.5%安〜メタ4.0%安)
- S&P500の11業種すべてが下落し、情報技術の業種は7.3%安
(東京)
- 日経平均は一時4,332円安の5万6,746円まで下げ、取引時間中として5月20日以来の6万円割れ
- 前引けは3,160円安の5万7,918円。半導体株は安値から戻した一方、トヨタ自動車や三菱UFJなど幅広い銘柄が売られた
5日の米国市場:主要な株価指数がそろって大幅安
出所: 各指数の終値をもとに当社計算。「〜以来」は報道による
11月5日の米国市場では、AI関連株が大きく売られました。半導体株指数(SOX)は12.2%安の9,011と、2020年3月以来の下落率を記録しました。ナスダック総合指数は5.5%安、S&P500は4.4%安、ダウ平均は1,833ドル安で、いずれも2025年4月の「関税ショック」以来の大きな下げです。
報道によると、S&P500の11業種はすべて下落し、なかでも情報技術の業種は7.3%安と2020年3月以来の下落率でした。ニューヨーク証券取引所では値下がりした銘柄が値上がりした銘柄の5倍を超え、相場の変動の大きさを示すVIX指数(恐怖指数)は28台と、3月末以来の高さに上昇しています。
※前日の終値からの騰落率。TSMCは米国に上場する預託証券(ADR)。コアウィーブはAI向けクラウド、バーティブはデータセンターの電源・冷却設備、ビストラはデータセンターへの電力供給で注目される電力会社
銘柄ごとにみると、2日間の値動きの違いがはっきりします。選挙の翌日(4日)は、データセンターをすでに持つ大手IT株が上がり、これから建てる・設備を納める側の半導体や電力の株が売られる「選別」でした。5日は、エヌビディアが9.3%、AMDが17.3%、マイクロンが17.5%と半導体株が大きく下げ、大手IT株も1.5〜4%下落しています。それでも、マイクロソフト・アマゾン・アップル・アルファベットの4社は、投票日(3日)の終値を上回って取引を終えました。売りの中心は、あくまでデータセンターの新設に業績を頼る銘柄です。
出所: 各社の株価の終値をもとに当社計算(前日比)。補足は報道と各社の公表資料による
CHAPTER 02なぜAI関連株は売られたのか:3つの要因
規制への警戒、決算への失望、積み上がっていた不安。3つが同じタイミングで重なりました。
要因1:選挙後に相次いだ「建設停止」の声
最大の要因は、データセンターへの規制が強まるとの警戒です。AIの開発や利用には、大量の半導体を詰め込んだデータセンターが必要です。建設が止まれば、エヌビディアなどの半導体や、電源・冷却の設備、電力の需要も伸びにくくなります。
選挙では、電気料金の上昇や水の不足への不満から、データセンターが大きな争点になりました。投票日の出口調査では、地元に新しいデータセンターを建てることに76%が反対し、AIとデータセンターを議会選の投票の「決定的」または「大きな」要因に挙げた人は56%に上りました。報道によると、そう答えた有権者の6割強が議会選で民主党に投票しています。10州で行われたデータセンター関連の地域の住民投票41件でも、報道によると1件を除くすべてで、建設に反対する側の主張が通りました。
出所: 米国の出口調査(2026年11月3日、報道による)、米エネルギー省・ローレンス・バークレー国立研究所「2024年 米国データセンターのエネルギー使用報告書」
反発の大きな理由は電気料金です。米エネルギー情報局(EIA)によると、家庭向けの電気料金の全米平均は2025年に1kWhあたり17.23セントと、2020年から31%上がりました。2026年もさらに5%程度上がる見通しです。州別にみると、データセンターの建設が相次ぐバージニア州やオハイオ州では、2026年1〜8月の料金が前年同期より13%上がっています。
※バージニア・オハイオ・ペンシルベニア・メリーランド・イリノイ・ニュージャージーは、データセンターの建設が相次ぐ電力網(PJM)の地域。テキサス州やジョージア州もデータセンターの建設が多いが、電力網の仕組みが異なり上昇は小さい。料金の上昇には天候や燃料費、送電網の増強の費用なども影響する
EIAは、料金の上昇の主な理由を天候や送電網の増強の費用などとしており、データセンターだけが原因とはしていません。ただ、バージニア州では2019年から2025年にかけて商業部門の電力販売量が約3,000万MWh増え、その多くがデータセンターによるものだと分析しています。データセンターが集まる電力網(PJM)の卸電力価格は、2026年に前年より41%上がる見通しです。「AIのために自分たちの電気代が上がっている」という不満が、投票行動に表れたとみられます。
選挙前後に伝えられた主な発言・公約(報道をもとに当社で整理、2026年11月5日時点)
もっとも、全国的な一時停止をめざす法案は、上院では3月にサンダース氏が、下院では6月にオカシオコルテス氏がすでに提出したもので、選挙後に新しい法案や公聴会の日程が決まったわけではありません。それでも、地域の反発が選挙の結果として数字で示されたことで、投資家は「データセンターの建設計画が今後、遅れたり減ったりする可能性」を株価に織り込み始めたとみられます。
要因2:クアルコムとアームの決算
4日の米国市場の引け後に、スマートフォン向けの半導体を手がけるクアルコムと、半導体の設計図を提供するアームが決算を発表しました。報道によると、クアルコムは見通しが市場の期待に届かず、アームは業績が予想を上回ったものの、次の四半期の見通しが予想をわずかに上回る程度にとどまりました。両社とも、メモリーの値上がりでスマートフォンの部品のコストが膨らんでいることを挙げています。5日の株価はクアルコムが9%超、アームが13.1%安でした。
要因3:10月から続いていたAI投資への不安
AI関連株への不安は、選挙の前から積み上がっていました。半導体株指数は10月6日に高値を付けた後、下落基調に入っています。大手IT企業のデータセンターへの投資は年々膨らんでおり、「巨額の投資を回収できるのか」「株価が高すぎるのではないか」との見方が出ていました。10月には米長期金利が5.3%を超え、データセンターの建設資金の借り入れが割高になったことも重荷でした。
※9月1日の終値を100として指数化。番号は本文の出来事
半導体株指数は、10月6日の高値から5日までに約32%下落しました。ナスダック総合指数も高値から約12%下げ、一般に「調整局面」とされる10%超の下落に入っています。今回の急落は、選挙をきっかけに、それまでの不安が一気に表に出た面が大きいといえます。
※2024・2025年は有形固定資産の取得による支出(暦年。マイクロソフトは四半期の合計)。2026年は各社の見通し(アルファベットは1,950〜2,050億ドルの中央値、メタとマイクロソフトはファイナンス・リースを含む)で、定義が異なるため目安。赤い線は2026年1〜9月の支出の合計
不安の背景にあるのが、大手IT企業の設備投資の急増です。アルファベット、アマゾン、メタ、マイクロソフトの4社の設備投資は、2024年の約2,300億ドルから2025年には約3,800億ドルに増え、2026年は各社の見通しを合わせると約7,300億ドルと、2年で約3倍の規模です(2026年は各社の定義が異なるため目安)。2026年1〜9月の支出だけで約5,000億ドルに達しました。アルファベットとアマゾンは、2027年も投資をさらに増やす方針を示しています。
この巨額の投資が、エヌビディアなどの半導体や、データセンターの設備、電力の需要を支えてきました。裏を返せば、規制でデータセンターの建設が遅れたり、大手IT企業が投資を絞ったりすれば、関連企業の業績の前提が大きく変わります。4日に大手IT株が上がり、半導体などが下がったのは、投資を絞る余地がある大手ITと、その投資に業績を頼る側とで、受け止めが分かれたためとみられます。
なお、5日に発表された米国の経済指標は、新規失業保険申請件数が18.9万件と少ないなど、景気の底堅さを示す内容でした。それでも株価が下がり、米国債が買われて利回りが低下したことからも、今回の下げが景気への不安ではなく、AI関連への不安が中心だったことがうかがえます。
CHAPTER 03データセンター規制はどこまで進むのか
連邦の法律は進みにくく、規制の中心は州と地域。ただし「州の一時停止」は株価にとって軽くない材料です。
民主党が議会を握っても、連邦レベルでAIやデータセンターの規制が一気に進む可能性は低いとみられます。上院で法案を通すには、議事妨害(フィリバスター)を止めるための60票が必要です。さらに、大統領の拒否権を覆すには上下両院で3分の2の賛成が要ります。民主党の上院の議席は、未確定の2州を含めても最大56と、どちらにも届きません。新しい議会が始まるのも2027年1月です。
出所: 米議会、ホワイトハウス、各州政府の公表資料、報道(2026年11月5日時点)
規制の中心は州と地域になりそうです。データセンターの建設の許可、電力網への接続、税の優遇は、州や地域が決める部分が大きいためです。トランプ政権の大統領令も、連邦法で州法を上書きする立法提案の対象から、データセンターなどの計算基盤を外しています(一般的な許認可の改革は除く)。テキサス州では共和党の現知事がすでに許可を止めており、データセンターの問題は党派を超えた地域の問題になっています。
株価にとって重いのは、データセンターの建設が集まる州で一時停止が広がる場合です。計画の遅れは、半導体や電源・冷却設備の受注、電力会社の需要の見通しに直接響きます。一方で、すでに大きな計算能力を持つ大手IT企業にとっては、新しい競争相手が育ちにくくなる面もあります。4日に大手IT株が買われた背景には、こうした見方もあったとみられます。
CHAPTER 04日本株への影響:日経平均は「AI株の比重の大きさ」で下げやすい
5日は下げがAI関連の一部の大型株に集中しましたが、6日は売りが市場全体に広がりました。
東京市場の5日は、米国の急落の前の取引です。それでも、4日の米国で半導体株が売られた流れを受け、アドバンテストが14.7%安、ディスコが12.5%安、東京エレクトロンが9.4%安と半導体関連株が大きく下げました。日経平均は1,110円安の6万1,077円と4日続けて下落し、5月20日以来の安値で取引を終えています。報道によると、ソフトバンクグループは、大株主であるアームの見通しが物足りないと受け止められて売られました。
一方、TOPIX(東証株価指数)は1.16%上昇し、東証プライム市場では値上がりした銘柄が値下がりした銘柄の2倍を超えました。業績予想を引き上げたトヨタ自動車などが買われています。日経平均は値がさの銘柄の影響を受けやすく、アドバンテストや東京エレクトロン、ソフトバンクグループなどAI関連の銘柄の比重が大きいため、TOPIXとの差が開きました。
※選挙前の最後の取引日(11月2日)の終値から、11月5日の終値(濃い赤)と11月6日前場の終値(前引け、薄い赤まで)までの騰落率。数字は前引けまでの騰落率。東京市場は3日が祝日で休場。キオクシアはメモリー、古河電工・フジクラ・住友電工はデータセンター向けの光ファイバーなど
選挙前の最後の取引日(2日)から6日の前引けまでの下落率をみると、データセンター向けの光ファイバーなどを手がける古河電気工業が27%近く、フジクラとメモリーのキオクシアが2割を超えました。半導体の検査装置のアドバンテスト、半導体パッケージの基板のイビデン、マスクの検査装置のレーザーテックも2割前後の下落です。いずれも、米国のデータセンター投資が業績を大きく左右する銘柄です。
6日の前場:日経平均は一時4,300円超安、6万円を割り込む
出所: 日経平均の値と各銘柄の株価をもとに当社計算。「6万円割れは5月20日以来」は報道による
6日朝には、大阪取引所の夜間取引で日経平均先物(12月物)が3,520円安の5万7,400円で夜間取引を終えていました。東京市場は取引開始から売りが先行し、日経平均は10時半ごろに4,332円安の5万6,746円まで下げました。報道によると、取引時間中に6万円を下回るのは5月20日以来です。その後は下げ幅をやや縮め、前場は3,160円安の5万7,918円で終えています。
6日の前場で目立ったのは、売られる銘柄の顔ぶれの変化です。取引開始直後は半導体株が大きく下げ、アドバンテストは一時16%安、東京エレクトロンは一時14%安となりましたが、その後は買い戻されて下げ幅を大きく縮めました。一方で、5日に業績予想の引き上げで急伸したトヨタ自動車や、三菱UFJフィナンシャル・グループなど、AIと直接の関係が薄い主力株も売られています。5日はTOPIXが上昇しましたが、6日はTOPIXに連動するETFも日経平均と同じ程度に下げ、売りは市場全体に広がりました。
※6日の前引けの株価の、5日の終値からの騰落率。「前場の安値」は前場で最も安かった時点の騰落率。出所: 各社の株価をもとに当社計算
CHAPTER 05為替・金利・金への影響
株安で米国債が買われて金利が低下。ドル円はやや円高に動きました。
株式市場の急落を受けて、比較的安全とされる米国債が買われ、米10年債利回りは前日の4.90%から4.84%に低下しました。報道によると、CME FedWatch(金利先物から算出する利上げ確率)では、12月のFOMCでの利上げの確率が、5日昼の時点で前日の8割強から約7割に下がりました(終盤は約6割との報道もあります)。株安が景気や物価を冷やすとの見方から、利上げ観測がやや後退しました。
ドル円は、米金利の低下とリスクを避ける動きから円がやや買われ、6日朝は一時157円台前半まで下げました。ただ、日経平均が大きく下げた6日の前場でも円高は続かず、昼前には157円80銭台に戻しています。日米の金利差は大きく、株安でも円高の勢いは限られています。6日夜(日本時間22時30分)の米雇用統計で利上げ観測が変われば、ドル円も大きく動く可能性があります。
CHAPTER 06今後の注目点とシナリオ
目先の焦点は、11月18日朝のエヌビディアの決算。データセンターの需要が崩れていないかが試されます。
※各シナリオの影響は、報道で伝えられている市場の見方と、業種ごとの一般的な関係をもとに当社で整理した方向感で、将来の値動きを示すものではありません。▲上昇・▼下落・▶横ばい・◆まちまち
今後の注目日程
出所: 各社の公表資料、FRB、米労働統計局(BLS)。日時は日本時間
チェックしておきたい3つのポイント
- ✓決算でデータセンターの需要が崩れていないか:エヌビディアやコアウィーブが、受注や見通しで規制の影響に触れるか
- ✓州の一時停止がどこまで広がるか:テキサスなど建設が集まる州で、許可の停止が長引くか
- ✓大手ITが投資計画を変えるか:設備投資の削減や延期が出てくれば、半導体や電力の需要の見通しに直結する
まとめ
- ✓11月5日の米国市場でAI関連株が急落。半導体株指数は12.2%安と2020年3月以来の下落率、ナスダック100は6.4%安、S&P500は4.4%安だった
- ✓選挙の翌日は大手IT株が買われる「選別」だったが、5日は大手ITも含めて売られた。下げの中心は半導体とデータセンターの設備・電力の銘柄
- ✓背景は、選挙後に民主党から相次いだデータセンターの建設停止を求める声、クアルコムとアームの決算への失望、10月から続くAI投資への不安。出口調査では地元への建設に76%が反対し、電気料金の上昇への不満が表れた
- ✓大手IT4社の設備投資は2024年の約2,300億ドルから2026年は約7,300億ドル(見通し)へ。この投資に業績を頼る半導体・設備・電力の銘柄ほど、規制の影響を受けやすい
- ✓連邦の規制は大統領の拒否権があり進みにくいが、テキサスなど州・地域の一時停止は広がる可能性がある
- ✓日経平均はAI関連の比重が大きく下げやすい。6日の前場は一時4,332円安と6万円を割り込み、売りはAI以外の主力株にも広がった。次の焦点は6日の米雇用統計と、18日朝のエヌビディアの決算
参考資料
- ホワイトハウス「Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence」(2025年12月11日)
- 米エネルギー省「DOE Releases New Report Evaluating Increase in Electricity Demand from Data Centers」(2024年12月20日)
- 米エネルギー情報局(EIA)「Electric Power Monthly」州別の電気料金(Table 5.6.B)
- 米議会「S.4214 – AI Data Center Moratorium Act」
- テキサス州知事室「Governor Abbott Directs TCEQ To Halt Data Center Permits」
- AMD 2026年7〜9月期決算(米証券取引委員会への提出資料)
- NVIDIA「NVIDIA Sets Conference Call for Third-Quarter Financial Results」
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