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JTのロシア事業が「一時管理」に、株価はストップ安|利益の約2割を稼ぐ市場で何が起きたのか、前例と今後を図解(2026年11月6日)

マーケットレポート

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JTのロシア事業
ロシアがJTの製造4社を「一時管理」に。株価はストップ安
ロシアのプーチン大統領は11月5日、日本たばこ産業(JT)の海外子会社がロシアに持つ製造会社4社を、ロシア企業の「一時管理」の下に置く大統領令に署名しました。JTの持ち分はそのまま残りますが、経営の権限は事実上ロシア側に移ります。ロシアはJTのたばこの出荷数量の1割強、利益の約2割を稼ぐ市場です。6日の東京市場でJT株は売りが殺到し、前日の終値より1,500円安いストップ安の6,269円で取引を終えました。日本政府はロシアに抗議し、措置の撤回を求めました。何が起きたのか、JTにとってどれだけ重いのか、過去に同じ扱いを受けた外国企業はどうなったのかを図と表で整理します。
JT株(6日)
ストップ安
6,269円で終了(前日比−1,500円、19.3%安)
ロシアの出荷数量
13.7%
JT全体に占める割合(1〜9月)
ロシアでのシェア
35.8%
最大手(1〜9月、JT推計)
ロシアの利益の比重
約2割
販売子会社の税引前利益÷連結(2025年)
JTのロシア事業の一時管理を3行でいうと
1
ロシアが大統領令で、JTの製造4社の経営権を事実上取り上げた
持ち分(所有権)はJTに残るが、経営はロシア企業が担う。2023年に作られた「非友好国」の企業への対抗措置の仕組みで、日本企業が対象になるのは初めてとみられる
2
ロシアはJTの稼ぎ頭の一つ。株価は最高値の翌日にストップ安
出荷数量の13.7%を占め、販売子会社1社の税引前利益は連結の約2割にあたる。JTは影響を「合理的に見積もれない」としてきた
3
前例では、多くが安値での売却や長期の管理に
ダノンやカールスバーグは事業を手放し、ほかに今も管理が続く例がある。返還されたのは一部にとどまる。焦点は交渉の行方と、JTが業績予想や配当をどう扱うか

CHAPTER 01何が起きたのか:大統領令から株価のストップ安まで

大統領令の公表から1日足らずで、JT株は売り一色になり、日本政府は抗議に動きました。

11月5日
(ロシア)
  • プーチン大統領が、JTの海外子会社JTインターナショナル(JTI)がロシアに持つ製造会社4社の持ち分を、ロシア企業「インダストリアル・アセッツ」の一時管理の下に置く大統領令に署名
  • 報道によると、世界的な大手たばこ会社の資産がこの仕組みの対象になるのは初めて
11月5日
(夜)
  • 取引所の時間外に取引できる私設取引システム(PTS)で、JT株は5日の終値より1,500円安い6,269円と、1日に動ける幅の下限(ストップ安)まで売られた
11月6日
(午前)
  • 片山財務相、木原官房長官、赤沢経済産業相が相次いで、ロシアに抗議し「措置の撤回」を至急求めたと説明
  • モスクワでは経済産業審議官と外務省欧州局審議官が駐ロシア大使とともに抗議。東京では外務省欧州局長が駐日ロシア大使に撤回を求めた
11月6日
(東京市場)
  • 東京証券取引所では、取引開始からストップ安の6,269円で売り気配が続き、大引けに比例配分で約279万株の売買が成立。終値は前日比1,500円安(19.3%安)
  • JTは、4社が一時管理の対象とされたことを確認したと発表。グループへの影響の確認と、今後取り得る対応を進めている

対象になった4社:完成品の工場2つと、原料の加工2つ

会社(報道による呼び名)場所役割
ペトロサンクトペテルブルクたばこの完成品の製造。JTの有価証券報告書に主要な工場として記載(従業員1,042人)
JTIドンスコイ・タバクロストフ・ナ・ドヌーたばこの完成品の製造。2018年に買収した現地メーカー
JTIエレツリペツク州原料(葉たばこ)の加工
クレス・ネヴァレニングラード州原料の加工

出所: 報道(ロシアの通信社の報道を引用したもの)、JT 有価証券報告書(2025年12月期)。4社目を別の会社とする報道もある。従業員数は2025年末時点

報道によると、ペトロはJTIの投資会社が100%を持つ会社で、ロシアの通信社が伝えた2023年の売上高は730億ルーブル、利益は132億ルーブルと4社の中で最も大きい規模です。JTのロシア事業は、1999年に米RJRナビスコの海外たばこ事業を買収して始まり、「ウィンストン」「キャメル」「LD」などの銘柄で、2007年からロシアのたばこ市場で首位に立っています。

「一時管理」とは:持ち分は残るが、経営はロシア側へ

一時管理は、ロシアが2023年4月の大統領令でつくった仕組みです。欧米がロシアの資産を凍結したことへの対抗措置として、ロシアが「非友好国」とする国の企業の資産を、ロシア政府が指名した管理者の下に置きます。持ち分は元の持ち主に残りますが、経営の判断や資金の動きはロシア側の管理者が握ります。ロシア側は、外国でロシアの資産が取り上げられた場合などに使う「対称的な対応」と説明してきました。

1
大統領令に署名
対象の会社と管理者を指名。会社の持ち分は、管理者が議決権などを代わりに使う
▼
2
経営権の移転
経営陣の入れ替えや資金の管理を、ロシア側の管理者が行う。配当などで日本に資金を送ることは難しくなる
▼
3
その後の行方
交渉による返還、ロシア側が認めた相手への安値での売却、管理の長期化などに分かれる
一時管理の流れ(ロシアの大統領令と過去の事例をもとに当社で整理)

今回の管理者「インダストリアル・アセッツ」について、報道によると、同じ名前のロシア企業が複数あり、どの会社が管理者になったのかははっきりしていません。JTの所有のまま経営の権限だけが移るため、JTが今後、ロシアの事業を連結の対象から外すかどうかも焦点になります。

CHAPTER 02JTにとってロシアはどれだけ重いのか

ロシアはJTの出荷数量の1割強を占め、利益への貢献はさらに大きい市場です。

JTの業績に占めるロシアの割合:数量は1割強、利益は約2割
0% 5% 10% 15% 20% 25% たばこの出荷数量 2026年1〜9月 13.7% ロシア599億本/全体4,374億本 ロシアの卸売会社への売上 2025年 14.3% メガポリス・グループ向け4,975億円 ロシアの販売子会社の売上 2025年・1社 11.3% JTIロシア3,924億円/連結3兆4,677億円 販売子会社の税引前利益 2025年・1社 19.8% JTIロシア1,463億円/連結7,398億円 たばこの出荷数量(2026年1〜9月) 13.7% ロシア599億本/全体4,374億本 ロシアの卸売会社への売上(2025年) 14.3% メガポリス・グループ向け4,975億円 ロシアの販売子会社の売上(2025年・1社) 11.3% JTIロシア3,924億円/連結3兆4,677億円 販売子会社の税引前利益(2025年・1社) 19.8% JTIロシア1,463億円/連結7,398億円
出所: JT 有価証券報告書(2025年12月期)、2026年12月期第3四半期決算資料をもとに当社計算
※子会社の数字は、ロシアでたばこを販売する「JTIロシア」1社の値(今回の一時管理の対象外と報じられている)。JTはロシアの事業の損益を開示していないため目安。報道では、ロシアは調整後営業利益の約25%を占めるとされる
599億本
2026年1〜9月のロシアでの出荷数量。前年同期比3.6%減(JT全体は4,374億本)
35.8%
ロシアでのJTのシェア(1〜9月、JT推計)。加熱式を除く紙巻きたばこなどでは41.0%
5,010億円
販売子会社JTIロシア1社の純資産(2025年末)。連結の純資産4兆1,154億円の約12%

出所: JT 2026年12月期第3四半期決算資料、有価証券報告書(2025年12月期)。割合は当社計算

JTはロシアの事業だけの損益を開示していませんが、有価証券報告書などから規模がわかります。2026年1〜9月のロシアでの出荷数量は599億本で、JT全体の13.7%を占めます。シェアは35.8%と、ロシアのたばこ市場で最大手です。

2025年は、ロシアで物流・卸売を手がける「メガポリス・グループ」への売上だけで4,975億円と、JTの連結売上の14.3%にあたりました。ロシアでたばこを販売する子会社JTIロシア1社の税引前利益は1,463億円で、連結の税引前利益7,398億円の約2割です。報道では、ロシアはJTの調整後営業利益の約25%を占めるとされています。メガポリス向けの売上の割合は2024年の13.6%から2025年は14.3%に上がっており、ロシアでの値上げが続くなか、比重は高まっています。

JTにとって大きいのは、利益だけでなく資産の重みです。JTIロシアの純資産は約5,010億円と、JTの連結の純資産の約12%にあたります。一時管理が長引いたり、安値での売却を迫られたりすれば、この資産の価値を大きく引き下げる(減損する)可能性があります。

JTはロシア事業をどう扱ってきたか

2022年3月
  • ウクライナ侵攻を受け、ロシアでの新規の投資と販売促進の活動を停止
2022年4月
  • ロシアのたばこ事業をグループの経営から切り離すことを含め、選択肢を検討する方針を表明
2023年〜
  • 制裁を守りながら事業を続ける。グループの経営からの切り離しや所有権の移転を含む選択肢を検討しているとし、業績への影響は「合理的に見積もれない」と説明
2026年10月29日
  • 1〜9月期の決算で、通期の業績予想を引き上げ(調整後営業利益は1兆790億円)。ロシアについては同じ説明を続けた
2026年11月5日
  • ロシアが大統領令で、製造4社を一時管理の下に置く

出所: JT の決算短信・有価証券報告書・発表資料、報道

JTは侵攻から4年半あまり、ロシア事業を手放す道を探りながら、事業を続けてきました。ロシアでは外国企業が事業を売るのに政府の承認が要り、大幅な値引きも求められるため(第3章)、大きな事業ほど売却は簡単ではありません。売却の条件が決まる前に一時管理の対象になり、JTは交渉の主導権を持たないまま経営の権限を失いました。

CHAPTER 03前例:一時管理された外国企業はどうなったか

2023年以降、欧米の電力・食品・家電・小売などの企業が対象になりました。返還された例は限られます。

28社
2023年4月から2026年9月末までに一時管理の対象になった外国企業・グループ
21件
そのうち、9月末時点で管理が続いている件数
7件
管理が解かれた件数。返還のほか、ロシア側が認めた相手への売却や国の没収を経たものを含む

出所: 報道(ロシアの報道機関による2026年9月28日時点の集計)。その後も対象は増えている

一時管理の仕組みができた2023年4月以降、対象になった外国企業は2026年9月末までに28社・グループにのぼります。最初はドイツのユニパーとフィンランドのフォータムの電力会社で、7月にはフランスの食品大手ダノンと、デンマークのビール大手カールスバーグのロシア事業が続きました。

売却・没収に追い込まれた
ダノン(仏)2023年7月
経営トップにチェチェン共和国の首長のおいが就任。2024年3月に管理が解かれ、5月にロシアの会社への売却が完了。累計の損失は12億ユーロ
カールスバーグ(デンマーク)2023年7月
ビール大手バルチカが対象に。2024年12月、バルチカの経営陣2人の会社に340億ルーブル(現金)などで売却
グラブプロドゥクト(米国籍の経営者)2024年10月
缶詰メーカー。2025年7月に裁判所が国による没収を命じ、2026年に管理のリストから外れた
管理が続いている
ユニパー(独)2023年4月
電力会社ユニプロ(持ち分83.73%)。国の機関の管理が3年半続く
フォータム(フィンランド)2023年4月
約17億ユーロを全額減損し、ロシア事業を連結から除外。2024年に国際的な投資仲裁を申し立て
BSH(独、ボッシュ系)2024年4月
家電メーカー。国営ガス大手の子会社が管理
返還された
アリストン(伊)2024年4月→2025年3月
給湯器メーカー。約11か月後の大統領令で管理が解かれ、所有と経営が戻った

出所: 各社の発表、ロシアの大統領令、報道

結末は大きく3つに分かれます。ダノンとカールスバーグは、管理の下で経営陣を入れ替えられた後、ロシア側が認めた相手に事業を手放しました。フォータムは早い段階でロシアの資産の価値をゼロにし、国際的な仲裁で争う道を選んでいます。所有と経営がそのまま戻ったのはアリストンなど一部にとどまります。

2026年秋、一時管理が相次ぐ

9月17日
  • 仏オーシャン(小売)、スイスのネスレ、仏ルロワ・メルラン系(ホームセンター)などのロシア事業が対象に
9月21日
  • 米アプター(容器)。管理者は旧ダノン・ロシアが名前を変えた会社
9月28日
  • 独メトロ(卸売)
10月15日
  • 仏タルケット(床材)、ベルギーのオンテックス(衛生用品)など5社
11月3日
  • (米中間選挙の投票日)
11月5日
  • JTの製造4社。日本企業では初めてとみられる

出所: ロシアの大統領令、報道

2026年9月以降、欧米の消費財や小売の企業が次々と対象になりました。赤沢経済産業相も、9月以降に西側の企業の資産が一時管理の下に置かれる例が続き、警戒していたと説明しています。JTはこの流れの中で対象になりました。

なぜ今、JTなのか:秋からの流れと、日ロの対立

背景1
秋からの一時管理の連続
9月以降、欧米の企業が相次いで対象に。米国の容器メーカーのアプターも、米中間選挙(11月3日)の前に対象になっていた
▼
背景2
日本への圧力
ウクライナ支援や制裁に加わる日本への対抗との見方がある。8月にはプーチン大統領が北方領土の択捉島を初めて訪問。10月21日、ロシア外務省の報道官は、日本のドローン企業テラドローンがウクライナに迎撃用ドローンを納入したことを「敵対的な行為」と批判し、対抗措置を警告
▼
背景3
JTへの批判
10月7日、ロシア国防省は、ウクライナ中部クレメンチュクにあるJTIの工場を「ウクライナ軍の弾薬の製造に使われていた」として攻撃したと発表。JTは軍事物資の生産への関与を否定
一時管理の背景(ロシア政府の発表、報道をもとに当社で整理)

大統領令は米中間選挙の2日後に出ましたが、選挙の結果との関係を示す発言や報道は見当たりません。一時管理の連続は選挙の前から始まっており、日本が対象になった背景には、日ロの間で積み重なっていた対立があるとみられます。10月には、ロシアが日本の報道機関の記者をスパイの疑いで拘束しています。

ロシア側は、一時管理を欧米によるロシアの資産の凍結への「対称的な対応」と位置づけてきましたが、今回の大統領令では理由を示していません。日本政府は措置の撤回を求めており、ロシア側の反応はまだ明らかになっていません。

なお報道によると、ロシアでたばこを販売する「JTIロシア」と、加熱式たばこの関連の会社は今回の対象に入っていません。ただ、製品をつくる工場の経営が管理者に移れば、販売を含む事業全体の運営に影響が及ぶ可能性があります。

ロシアから撤退するときの「出口の値段」:ロシアでは、非友好国の企業が事業を売るには政府の委員会の承認が必要です。条件は年々厳しくなり、2024年10月からは、評価額より60%以上安く売ることに加え、評価額の25%以上を国に拠出することが求められています(拠出の割合は段階的に35%まで引き上げ)。大きな事業ほど、売却で取り戻せる金額は限られます。

日本企業の前例:サハリンの資源開発(2022年)

サハリン2(LNG)
2022年6月大統領令
運営会社の資産を、ロシア政府が新たにつくった会社に移すよう命令
三井物産・三菱商事持ち分を維持
新会社への参加を申請し、8〜9月に承認された。2025年末時点でも参加を続けている
シェル(英)撤退
持ち分はロシアの国営ガス大手の子会社が約10億ドルで取得
サハリン1(原油)
2022年10月大統領令
サハリン2と同じく、新たな運営会社に移す
サハリン石油ガス開発持ち分を維持
日本の政府系機関や商社などが出資。30%の持ち分を維持し、11月にロシア政府が承認
エクソンモービル(米)撤退
持ち分の売却期限は2027年1月まで延長されている

出所: 三井物産・三菱商事の発表、ロシアの大統領令、報道

2022年のサハリンの2つの事業では、ロシアが大統領令で運営会社を入れ替えましたが、日本企業は手続きを経て持ち分を保ちました。日本のエネルギーの確保にかかわる事業で、ロシア側にも日本の参加を続けさせる理由がありました。今回のたばこ事業は、ロシア側にとって日本企業に残ってもらう必要性が高いとはいえず、サハリンと同じ道をたどるかは見通せません。

CHAPTER 04株価と相場への影響

JT株は最高値を付けた翌日にストップ安。JTの件が日本株全体に与える影響は限られますが、配当への影響が焦点です。

JT株は侵攻後も上昇を続け、5日に最高値。6日はストップ安の6,269円で取引を終えた
JT株(週足の終値、最後は11月6日の終値) 3,000 5,000 7,000 9,000 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 6,269円 6日のストップ安 6,269円 1 2 3 4 3,000 5,000 7,000 9,000 2022 2023 2024 2025 2026 6,269円 ストップ安 6,269円 1 2 3 4
出所: JT株の終値をもとに当社作成(週足、2022年1月〜2026年11月6日)。番号は下の出来事
1
2022年2月 ロシアがウクライナに侵攻。JT株は一時2,000円近くまで下落
2
2023年4月 ロシアが外国企業の資産の一時管理の仕組みをつくる大統領令
3
2026年10月29日 1〜9月期の決算。通期の業績予想を引き上げ
4
2026年11月5日 終値7,769円と、比較できる2000年以降で最も高い水準。同じ日の夜に大統領令が公表

JT株は、ウクライナ侵攻の直後に2,000円前後まで下げた後、値上げによる利益の伸びや配当の増加を背景に上がり続け、5日の終値は7,769円と、侵攻直後(2022年2月末)の約3.7倍になっていました。5日も5.2%上昇し、最高値を更新したばかりでした。

6日の東京証券取引所では、取引の開始から売りの注文が買いの注文を大きく上回り、ストップ安の6,269円で売り気配が続きました。取引時間中は売買が成立せず、取引の終わりに6,269円(19.3%安)で比例配分が行われ、約279万株の売買が成立しました。

東京証券取引所では、株価の水準ごとに1日に動ける幅(値幅制限)が決まっています。7,000円以上1万円未満の銘柄の幅は1,500円です。売りが買いを大きく上回ったまま取引が終わると、ストップ安の値段で、買いの注文を売りの注文に割り当てる「比例配分」が行われます。

272円
2026年の1株あたり配当の予想(10月29日時点、変更なし)
4.3%
ストップ安の6,269円で計算した配当利回り(当社計算)
33.34%
日本政府(財務大臣)が持つJT株の割合(2025年末、発行済み株式に対して)。JT法で3分の1超の保有が義務

出所: JT 決算短信・有価証券報告書。配当利回りは当社計算

JTは、配当を利益の約75%を目安に決める方針です。ロシアからの利益が業績から外れたり、資産を減損したりすれば、配当の前提となる利益が減る可能性があります。ただ、減損は現金の流出を伴わない損失で、JTは配当の計算から一時的な損失を除くこともあります。次の決算や配当の方針で、ロシアの扱いをどう示すかが注目されます。

JTは財務相が所管する会社で、日本政府はJTの株式の3分の1超を持つ筆頭株主でもあります。6日の日経平均は前日比3,643円(6.0%)安の5万7,434円と大きく下げましたが、主な要因は米国の半導体株の急落を受けたAI・半導体関連株の売りで、JTの件が日本株全体に与える影響は限られます。ロシアの通貨ルーブルも、1ドル=81ルーブル台と大きな動きはありません。

他の日本企業への広がり:多くの日本企業は侵攻後にロシアでの事業を止めたり撤退したりしましたが、JTのように事業を続けている企業もあります。経済産業省は9月以降の一時管理の連続を警戒していたとしており(第3章)、他の企業への広がりにも注意が必要です。

CHAPTER 05今後の注目点とシナリオ

交渉で取り戻せるのか、売却を迫られるのか。JTの次の開示と、日ロの交渉が焦点です。

交渉で返還される
日本政府の抗議や交渉で、ロシアが大統領令を取り消す。イタリアのアリストンのように、約11か月で返還された例がある
JT株
▲
ロシアの利益が戻るとの見方から買い戻し
JTの業績
▶
大きな変化はない
配当
▶
予想どおりの見通し
管理が長引く(中心のシナリオ)
経営の権限が戻らないまま時間がたつ。JTがロシア事業を連結から外すかどうか、減損をするかどうかを判断する
JT株
◆
減損の規模や配当の方針が出るまで振れやすい
JTの業績
▼
ロシアの利益が取り込めなくなる可能性
配当
◆
一時的な損失を除くかどうかで変わる
安値での売却を迫られる
ダノンやカールスバーグのように、ロシア側が認めた相手に、大幅に安い値段で売ることになる
JT株
▼
資産の多くを失うとの見方
JTの業績
▼
大きな減損と、売上・利益の減少
配当
▼
利益の水準が下がれば減配の可能性も

※各シナリオの影響は、過去の事例と一般的な関係をもとに当社で整理した方向感で、将来の値動きを示すものではありません。▲上昇・▼下落・▶横ばい・◆まちまち

今後の注目日程

11/9
月
市場週明けのJT株
6日の終値6,269円が基準になり、値幅制限の幅は1,000円に変わる(下限は5,269円)
未定
—
政治日ロ政府間の協議
措置の撤回に向けた交渉。ロシア側の反応はまだ明らかになっていない
未定
—
企業JTの追加の開示
影響の大きさ、ロシア事業の連結の扱い、業績予想・配当の見直し
2027/2
—
決算JTの2026年12月期決算(例年2月中旬)
通期の業績と2027年の見通し、配当の方針

出所: JT、東京証券取引所の資料、報道。日時は日本時間

チェックしておきたい3つのポイント

  • ✓JTが影響の大きさをいつ、どう示すか:連結からの除外、減損の金額、業績予想と配当の見直しの有無
  • ✓日ロの交渉で措置が見直されるか:返還の前例は少なく、交渉は長引く可能性がある
  • ✓他の日本企業に広がるか:ロシアで事業を続ける企業や、サハリンの資源開発に参加する商社などへの影響
用語メモ
一時管理(暫定管理)
ロシアが2023年4月の大統領令でつくった仕組み。「非友好国」の企業の資産を、ロシア政府が指名した管理者の下に置く。所有権は元の持ち主に残るが、経営権は事実上なくなる
非友好国
ロシアに制裁を科した国・地域としてロシア政府が指定した国。日本、米国、EU加盟国などが含まれる
ストップ安
株価がその日の値幅制限の下限まで下がること。売りが買いを大きく上回ると、取引が成立しないまま下限の値段で売り気配が続くことがある
比例配分
ストップ安(高)のまま取引が終わるとき、取引所が限られた買い(売り)の注文を、証券会社ごとの注文の量に応じて割り当てる仕組み
PTS(私設取引システム)
証券取引所の外で株を売買できる仕組み。夜間も取引でき、取引所の時間外のニュースへの反応が先に表れやすい
減損
資産の価値が下がったときに、帳簿上の金額を引き下げて損失を計上すること。現金の流出は伴わない

まとめ

  • ✓ロシアのプーチン大統領は11月5日、JTの海外子会社がロシアに持つ製造会社4社を、ロシア企業の一時管理の下に置く大統領令に署名した。持ち分はJTに残るが、経営権は事実上ロシア側に移る
  • ✓JT株は5日夜のPTSでストップ安の6,269円まで売られ、6日の東京証券取引所でもストップ安の6,269円で取引を終えた(大引けに比例配分)
  • ✓ロシアはJTの出荷数量の13.7%、シェアは35.8%で最大手。販売子会社1社の税引前利益は連結の約2割、純資産は約5,010億円にのぼる
  • ✓日本政府は財務相・官房長官・経産相がそろってロシアに抗議し、措置の撤回を求めた。政府はJT株の3分の1超を持つ筆頭株主でもある
  • ✓一時管理は9月から欧米の企業に相次いでおり、米中間選挙との関係は確認されていない。背景には、日本企業によるウクライナへのドローン納入やJTIのウクライナ工場を巡る日ロの対立がある
  • ✓過去に一時管理された外国企業は、安値での売却や管理の長期化が多く、返還は一部にとどまる
  • ✓焦点は日ロの交渉と、JTがロシア事業の連結の扱い、減損、業績予想・配当をどう示すか

参考資料

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