「Help on the way(助けが来る)」とは、パウエル米連邦準備制度理事会(FBR)議長お気に入りのロックバンド“デッド・アンド・ザ・カンパニー(以前はグレイトフル・デッド)”の名曲のひとつだ。
2023年6月、パウエル氏がライブ会場で目撃され話題になり、米下院での公聴会では質問を受け50年にわたるファンと明らかにしたことが思い出される。
そのパウエル氏は3月6日、半期に一度行う金融政策に関する議会証言で、「年内のいずれかの時点で利下げを行う」との方針を表明。
1月米連邦公開市場委員会(FOMC)で3月の利下げ開始の公算は小さいと言及した流れに沿い、Fedの次の一手が利下げあるとの見解を寄せた。
金融市場にとって、まさにFedの「助けが来る」ことを確認した瞬間と言えよう。
パウエル氏自身、利下げに軸足を置くべき理由が3つある。
1つは、米経済の減速で、米国内総生産(GDP)の約7割を占める消費が息切れのサインが点灯した。
米1月小売売上高は前月比0.8減と2023年3月以来の落ち込みを見せた。
消費鈍化の一因はコロナ禍での現金給付を受けた過剰貯蓄を取り崩しにあり、1月の貯蓄率は可処分所得比で3.8%と2019年平均の7.4%を大幅に下回った。
支出する上でクレジットカードへの依存が中低所得者層で強まるなか、新規のクレジットカードの延滞率の割合は2023年10~12月(Q4)に8.52%と2011年Q2以来の水準に上昇している。
結果、米銀でもクレジットカードの貸倒が増加、バンク・オブ・アメリカの場合、貸倒償却率は3.07%と2020年Q2以来の高水準に。
裁量的支出の余地は、徐々に狭まりつつある。
チャート:クレジットカードの新規延滞の割合は上昇中
2つ目に、米商業用不動産ローン問題が挙げられ、米地銀ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)の予想外の赤字決算を受け、再燃しつつある。
コロナ禍からの経済正常化を受けても、リモートワークの普及によりオフィス空室率は悪化の一途をたどり、ムーディーズ・アナリティクスによれば2023年Q4に19.6%と過去最悪を更新。
オフィスの借り不足に陥る上、足元の米利下げ期待の後退により米金利は高止まりの状況だ。
不動産データ会社トレップによれば、2024年は米商業用不動産ローンの5,406億ドル(約80兆円)相当、2027年までに総額2兆2,384億ドルが借り換えに直面するだけに、いつ負の連鎖が起こってもおかしくない。
国際通貨基金(IMF)は月に公表したレポートで、「米銀行部門の脆弱性は高まっている」と警鐘を鳴らしたのも頷ける。
うず高く積み上がる米連邦債務残高も、懸念材料だ。
米議会予算局(CBO)の試算では、米連邦政府債務残高は2023年度の26.4兆ドルから2024年度は前年度比6%増の27.9兆ドル、2034年には23年度比84%増の48.3兆ドルへ膨れ上がる。
GDP比では、2023年度の97.3%→116%へ上昇する見通しだ。
それにより、純利払い負担も2023年度の6,590億ドルから2024年度は8,700億ドル、2026年度には1兆ドル超えとなる見通しだ。
1兆ドル超えとなる過程の2025年度には、GDP比3.1%と第2次世界大戦超えの規模になるという。
チャート:純利払い負担、2025年度には第2次世界大戦超えの規模に
以上の3つの点を踏まえれば、パウエル氏率いるFedとしては年内の利下げで米経済を支えたいというのが本音であってもおかしくない。
また、バイデン政権に近い要人も、利下げを望んでいるようだ。
米1月消費者物価指数(CPI)が市場予想比で上回った直後、イエレン財務長官は「インフレを下げるための闘いを大きく前進させた」と発言。
オバマ政権で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長だったシカゴ連銀総裁もインフレが一段と低下する可能性に言及していた。
ただし、利下げを行う上ではインフレ鈍化が必要であり、Fedは厳しい舵取りが迫られよう。
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