4月29日の介入規模は5兆円超え!残りは7兆円程度か?
「はい」、その言葉一つがドル円の流れを決定づけた。
4月26日、日銀金融政策決定会合後の会見で、記者からの「今の円安は、基調的な物価上昇の観点で無視できる範疇か?」との質問に対する、植田総裁の回答だ。
これが火付け役となって、ドル円は同日のNY時間に158.44円へ一気に駆け上がった。
東京市場が祝日を受け休場の4月29日には、一気に160円を突破。
ゴールデン・ウィーク中に2022年10月以来の介入をもたらした。
市場では、ドル円が150ー160円のレンジに移行したとの思惑が広がりつつある。
J.P. モルガン・チェースのグローバル外国為替戦略共同責任者、ミーラ・チャンダン氏は安定を失った円は最大で5%下落すると予想。
ステート・ストリートのストラテジスト、リー・フェリッジ氏も円安が一段と進むリスクについて「マクロの観点から、それ以外の結論に達するのは難しい」と指摘した上で、150ー160円のレンジを基本シナリオに掲げた。
しかし、円安がゆるやかなスピードにとどまれば、ドル円が170円に到達してもおかしくないと見込む。
一方で、本邦当局による介入懸念もくすぶる。
4月29日には160円突破を受け、3回にわたり実弾介入に踏み切ったとされている。
日銀が4月30日に発表した5月1日分(為替取引の決済が2日後)の当座預金残高見通しでは、注目の「財政要因」がマイナス7兆5,600億円となった。
短資会社の予想との乖離を見る限り、5兆1,000億~5兆5,000億円規模と言えそうだ。
少なくとも、前回2022年9月~10月に3回介入を実施したうち、10月21日の5兆6,202億円以来の大きさとなる。
チャート:過去の本邦当局による介入実績
神田財務官は4月29日、過度な為替変動による悪影響は「看過しがたい」、「必要に応じて適切な対応をする」と発言した。
2022年9ー10月の介入を振り返れば、今回で終わりというわけではないだろう。
ただ、4月25日付けのレポートで指摘したように、介入の上限が前回通りなら、GDP比2%の約12兆円が一つの節目となり、残りは約7兆円と考えられよう。
IMFが介入を規定?スイスは2022年にGDP比2.8%規模の介入も!
ところで、国際通貨基金(IMF)は各国・地域の通貨制度を5つに大別、日本や米国、ユーロ加盟国など先進国を中心に31カ国は「自由な変動相場制」を採用している。
これを受け、一部では2009年9月にIMFが公表したワーキング・ペーパーに記載されている文言が話題だ。
ワーキング・ペーパーによれば、「自由な変動相場制」を採用する国の介入について、以下のように記している。
- ・介入は、例外的な場合のみ実施
- ・無秩序な市場動向を是正する目的の場合
- ・当局は、介入が過去6カ月間に最大3回、それぞれの期間は3営業日以内であることを証明する情報やデータを提供している場合
ただし、これはあくまで「ワーキング・ペーパー」、つまり調査結果報告書と位置付けられよう。
また、冒頭に「本ワーキング・ペーパーはIMFの見解や政策を代表するものではない」と注意書きされ、「著者による進行中の研究を記述したものであり、コメントを求め、議論を深めるために公表される」と明記している。
従って、あくまで参考資料と受け止めた方がよさそうだ。
そもそも、IMFには「国際通貨基金協定」が存在し、第4条に「為替取極に関する義務」というものがある。
第1節の「加盟国の一般義務」では、「各加盟国は、秩序ある為替取極を確保し、安定した為替相場制度を促進するため、IMF及び他の加盟国と協力することを約束する」と明記。
その上で、加盟国は「国際収支の効果的な調整を妨げるため又は他の加盟国に対し不公正な競争上の優位を得るために為替相場又は国際通貨制度を操作することを回避すること」などを求めている。
具体的に、介入の頻度や規模などを明確に定義しているようには見えない。
コロナ禍後、先進国による大規模な自国通貨買い介入を行った国は、日本だけではない。
スイスは2022年、223億スイスフラン(CHF)ものCHF買い介入を実施した。
米財務省が2023年6月に公表した為替報告書でも、GDP比で2.8%の介入規模だったと確認できるため、2015年の貿易円滑化・貿易執行法に基づく為替操作国認定の3条件(他の条件はこちらをご参照)のうちGDP2%以上に抵触していたことになる。
とはいえ当時、バイデン政権はスイスに対し、自国通貨買い介入だった事情に加え、対米貿易黒字が縮小していたため、「為替操作国」と認定せず、2023年11月にはスイスを「監視対象国」から除外した。
スイスは日本と違って主要7カ国(G7)やG20の枠組みに加わっていないものの、仮にGDP比2.8%を適用するなら、上限が16.5兆円となり、約11兆円の介入余地があることになる。
ドル円が158円台を回復するなか、市場は本邦当局が前回の介入の限界を突破するか試すことになりそうだ。
チャート:為替報告書での「監視対象国・地域」、「為替操作国・地域」

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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