米家計の株式資産への集中、弱気相場のサインか

マーケットレポート

米家計の純資産、米国人の株式保有率は過去最高

18歳以上の米国人の間で、4人に1人の貯蓄額が1,000ドル(約16万円)以下――2024年に米誌フォーブスが実施した調査結果である。
世代別では、ジェネレーションZ世代(主に1997~2012年生まれ)で32%と最多に。
続いて、ミレニアル世代(1980~1996年生まれ)が31%、ジェネレーションX世代(1965~1979年生まれ)が27%、ベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)が20%となる。

しかも、各世代で貯蓄額が1,000ドル以下の割合が最も大きい。
ただ、貯蓄額が少ない理由は、投資に振り分けているためとも考えられる。
米連邦準備制度理事会(FRB)が発表した1~3月期の米家計調査によれば、家計の純資産は160兆8,440億ドル(約2.5京円)と過去最大を更新した。
不動産価格の高騰を受け、不動産が前期比9,070億ドル増の49兆9,970億ドルに膨らんだほか、特にS&P500が3月末までに年初来で9.5%高を遂げる過程で、株式資産も同3.8兆ドル増の50兆9,570億ドルと、増加をけん引した。

米家計の純資産は、株式資産につれて拡大傾向が見て取れる。
FRBが3年毎に行う消費者金融動向調査によれば、株式を保有する米国人の割合は2022年に58.0%と、リーマン・ショック直前の2007年の53.2%を超え、調査が開始した1989年以降で最高記録を塗り替えた。
当然、ITバブルが崩壊した2001年の53.0%も上回る。
コロナ禍で巣ごもり状態だった上、現金給付を受けて、多くの米国人が株式市場に向かったためだ。
コロナ禍の直前にあたる2019年、投資アプリのロビンフッドが先駆け、オンライン証券会社が相次ぎ手数料を無料化したことも、株式保有率を押し上げた。

チャート:米国人の株式保有率、2022年は過去最高
チャート:米国人の株式保有率、2022年は過去最高

米家計の株式資産、対金融資産で30%超えは弱気相場入りのサイン?

お気づきになられただろうか? 奇妙なことに1989年以降、米国人の株式保有率がデータ公表以来で最高を記録したタイミングは、コロナ禍を除き、概ね米株相場の急落局面とほぼ合致してきた。
2001年は前述したようにITバブル崩壊の年にあたり、2007年はサブプライム危機が火を噴き始めた頃で、翌年にはリーマン・ショックが世界に激震をもたらした。

もうひとつ、興味深いデータがある。
米家計資産並びに米家計の金融資産に占める株式資産の割合が上昇すると、その後に米株相場が大きく崩れてきた。

2001年のITバブル崩壊前、金融資産に対する株式資産の割合は38.4%だった。
2008年のリーマン・ショック前にあたる2007年Q2には33.1%に。
2018年Q3は36.4%へ上昇すると、同年12月にナスダックが弱気相場入りし、S&P500も19.8%安と肉薄した。
コロナ禍直前の2019年Q3も、株式資産の割合は36.7%へ上昇。
つまり、金融資産に対し、株式保有資産の割合が30~35%をつけると、急落局面に入ってきたというわけだ。
2021~22年に株式資産の割合が40%超えに至り、2021年Q4に41.6%をつけた後、2022年6月にS&P500が弱気相場入りした。

チャート:米家計資産並びに金融資産に占める、株式の割合の推移
チャート:米家計資産並びに金融資産に占める、株式の割合の推移

米家計の株式資産、預金の2.5倍超えも米株相場の弱気材料

米家計の株式保有率と、株式資産の割合が上昇する背景に、株高が挙げられよう。
株高が株式投資への関心を招き、米家計が預金残高を取り崩し、資金を株式に集中させたと考えられる。
実際、株式資産が預金残高に対し概して2.5倍を超えると、米株が弱気相場入りしてきた。
2000年Q1には株式資産が預金残高の3倍、2007年Q2には2.3倍、2018年Q3には2.6倍、2019年Q4には2.6倍、2021年Q4には2.7倍に膨らんでいた。

預金金利が低いならば、株式投資で「お金に働いてもらう」という意識が働くとも考えられよう。
その考え方自体は、間違っていない。
ただ、「卵を一つの籠に盛るな」との投資格言があるように、ある程度の分散が必要と言えそうだ。
足元、S&P500の上昇のけん引役は生成AIをカタリストとした半導体大手エヌビディア一強の声が聞かれて久しい。

6月初めまでのS&P500の上昇のうち、34.5%はエヌビディアが占めたと言われる。
過去、米株市場において個別銘柄への集中が相場の急落につながってきただけに、米家計の株式資産への集中も、懸念材料として意識しておくべきだろう。
特に、今年は米大統領選を控えるだけに、夏場の不確実性の高まりに留意しておきたい。

チャート:米家計、株式資産が預金を大幅に上回るは相場の過熱感を表すか
チャート:米家計、株式資産が預金を大幅に上回るは相場の過熱感を表すか

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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