FX自動売買向けVPS徹底比較。MetaTraderでレイテンシーとスリッページを検証
FX取引における自動売買(EA)は、取引環境の安定性や通信速度によってトレード成果に影響がもたらされると指摘されています。
特に、VPS(Virtual Private Server)を用いた取引において、サーバーとの通信にかかる遅延時間(レイテンシー)が取引結果にもたらす影響は無視できません。
本記事では、レイテンシーがトレードに与える影響を解説しつつ、複数のVPS環境で測定した実際のレイテンシーを比較していきます。
なお、本記事はVPSのレイテンシーを調査することを目的としており、特定のVPSを推奨するものではありません。
目次
- 1.VPSとは何か?EA運用に使う理由とは
- 2.レイテンシーとは何か?VPS比較における重要性
- 3.今回のレイテンシー計測方法
- 4.VPS計測その1 お名前.comデスクトップクラウド
- 5.VPS計測その2 ABLENET VPS Windowsプラン
- 6.VPS計測その3 シンクラウドデスクトップ for FX
- 7.VPS計測その4 ConoHa for Windows Server
- 8.VPS計測その5 さくらのVPS for Windows Server
- 9.レイテンシー計測結果
- 10.まとめ
VPSとは何か?EA運用に使う理由とは
VPSとは、クラウド上に構築された「自分専用の仮想マシン」を指します。
FXでVPSが活用される主な理由は、「自動売買の取引プラットフォームを24時間365日、安定稼働させるため」です。
MT5のEAは自宅のPCでも稼働できますが、自動売買のためにはPCが常時立ち上がっている必要があり、停電や通信不良、PCのスリープなどで停止するリスクがあります。
一方、VPSはプロ仕様のデータセンターで運用されており、「常時稼働・高速ネットワーク・堅牢なセキュリティ」が提供されています。
そのため、EAを安定的に動作させるにあたり、VPSは非常に心強いツールだと考えられます。
レイテンシーとは何か?VPS比較における重要性
レイテンシー(latency)とは、注文を出してから、それがサーバーに届き、実際に約定するまでにかかる「通信の遅延時間」を指します。
FX取引においては、1000分の1秒である「ミリ秒(ms)」単位のズレが約定価格やスリッページに影響を与えるため、特にスキャルピング系のトレードでレイテンシーは重要な要素となります。
MT5では、トレーダーの取引端末(クライアント)と、ブローカーが運用する取引サーバーとの間でレイテンシーが発生します。
これが大きいと、以下の可能性が生じます。
- ①エントリー・決済が遅れることによる不利な約定
- ②想定外のスリッページ
- ③EAのパフォーマンス悪化
スリッページとは、注文した価格と、実際に約定した価格の差のことです。
たとえば「100.00円で買い注文を出し、実際には100.02円で約定した」場合、その差の0.02円(=2pips)がスリッページです。
レイテンシーは、使用しているVPSやインターネット回線の品質、ブローカーのサーバー位置(物理的な所在地)など、さまざまな要素によって左右されます。
MT5のEAで安定した収益を目指すトレーダーにとって、レイテンシーは意識すべき事項だと考えられます。
今回のレイテンシー計測方法
今回、5社のVPSでスペックが似たプランを契約し、同一のMT5、同一のEAを用いてレイテンシーとスリッページを計測しました。
MT5を安定して動作させるため、それぞれのVPSはWindows Serverのプランに揃えています。
利用したVPS
- ①お名前.comデスクトップクラウド
- ②ABLENET VPS Windowsプラン
- ③シンクラウドデスクトップ for FX
- ④ConoHa for Windows Server
- ⑤さくらのVPS for Windows Server
FXのEA向けVPSの主要5社で、「Windows Server、メモリ2GB、CPU2コア(一部は3コア)」のスペックを選びました。
MT5プラットフォームと調査用EA
MT5プラットフォームは、OANDA証券のMT5(デモ口座×5つ)です。
EAは、定刻に売買するロジックを持つ「MAN-010_USDJPY_M5_TRIAL」を使用しました。
この調査用EAは、日本時間の午前8時ちょうど、午後3時ちょうどなど、注文が集中しやすい時間帯でエントリーするため、VPSごとの性能比較に適していると考えられます。
この条件で合計25回計測し、その平均値を比較します。
VPS計測その1 お名前.comデスクトップクラウド
お名前.comデスクトップクラウドは、GMOインターネット株式会社が運営する国内最大級のドメイン登録サービス「お名前.com」のVPSです。
今回は、StartUpの2GBプランを利用しました。
※2025年5月30日時点
計測結果最大スリッページ(pips) ネガティブ/ポジティブ |
平均スリッページ(pips) | レイテンシー(ms)最小/最大 | 平均レイテンシー(ms) |
---|---|---|---|
-1.4/1.4 | -0.064 | 296/329 | 303.28 |
VPS計測その2 ABLENET VPS Windowsプラン
ABLENET VPSは、株式会社ケイアンドケイコーポレーションのサービスブランド、ABLENETが運営するVPSです。
今回は、WindowsプランのWin1プランを利用しました。ストレージはSSD60GBを選択しています。
※2025年5月30日時点
計測結果最大スリッページ(pips) ネガティブ/ポジティブ |
平均スリッページ(pips) | レイテンシー(ms)最小/最大 | 平均レイテンシー(ms) |
---|---|---|---|
-0.3/1.1 | 0.008 | 296/578 | 369.96 |
VPS計測その3 シンクラウドデスクトップ for FX
シンクラウドデスクトップ for FXは、エックスサーバーのグループ会社「シンクラウド株式会社」が運営する、FX自動売買専用VPSです。
こちらは、スタートアップ2GBのプランを選択しました。メモリは2GB、仮想CPUは2コア、OSはWindows Server 2022です。
※2025年5月30日時点
計測結果最大スリッページ(pips) ネガティブ/ポジティブ |
平均スリッページ(pips) | レイテンシー(ms)最小/最大 | 平均レイテンシー(ms) |
---|---|---|---|
-1.7/0.9 | -0.096 | 281/438 | 311.80 |
VPS計測その4 ConoHa for Windows Server
ConoHa for Windows Serverは、GMOインターネット株式会社が運営するレンタルサーバー「ConoHa」のVPSサービスの1つです。
今回は、2GBプランを選択しました。メモリは2GB、仮想CPUは3コアです。
※2025年5月30日時点
計測結果最大スリッページ(pips) ネガティブ/ポジティブ |
平均スリッページ(pips) | レイテンシー(ms)最小/最大 | 平均レイテンシー(ms) |
---|---|---|---|
-1.7/1.4 | -0.048 | 312/609 | 428.16 |
VPS計測その5 さくらのVPS for Windows Server
さくらのVPS for Windows Serverは、創業1996年の老舗「さくらインターネット株式会社」が提供するVPSサービスの1つです。
今回は、Windows Server 2022 Datacenter Edition、W2Gプランを選択しました。メモリーは2GB、仮想CPUは3コアです。
※2025年5月30日時点
計測結果最大スリッページ(pips) ネガティブ/ポジティブ |
平均スリッページ(pips) | レイテンシー(ms)最小/最大 | 平均レイテンシー(ms) |
---|---|---|---|
-1.4/0.5 | -0.064 | 297/344 | 319.44 |
レイテンシー計測結果の比較
各VPSでの計測結果を、一覧でまとめました。
スリッページとレイテンシーの最小値、最大値、平均値を比較できます。
計測結果VPS | 最大スリッページ(pips) ネガティブ/ポジティブ |
平均スリッページ(pips) | レイテンシー(ms)最小/最大 | 平均レイテンシー(ms) |
---|---|---|---|---|
お名前.comデスクトップクラウド | -1.4/1.4 | -0.064 | 296/329 | 303.28 |
ABLENET VPS Windowsプラン | -0.3/1.1 | 0.008 | 296/578 | 369.96 |
シンクラウドデスクトップ for FX | -1.7/0.9 | -0.096 | 281/438 | 311.80 |
ConoHa for Windows Server | -1.7/1.4 | -0.048 | 312/609 | 428.16 |
さくらのVPS for Windows Server | -1.4/0.5 | -0.064 | 297/344 | 319.44 |
平均レイテンシーを比較すると、303.28ms~428.16msまでの幅、つまり約120ms(0.12秒)の差が見られました(5社平均は346.53ms)。
また、最大ネガティブスリッページを見ると、-0.3pips~-1.7pipsの幅、つまり1.4pipsの差が見られました。
なお、トレーダーに有利な方向に価格が滑るポジティブスリッページも、0.5pips~1.4pipsの幅で発生していたことも確認できました。
今回の計測では、VPSによってレイテンシーやスリッページに差が見られることがわかりました。
スキャルピングのような短期トレードのEAを運用する場合、これらの項目に留意してVPSを選ぶことが推奨されます。
※本調査結果は、2025年5月末~7月上旬にかけて、各社のVPSを同等スペックのプランで契約・計測した結果に基づくものですが、同一プラン内でも割り当てられるリソースには個体差が生じる可能性があります。 計測期間を変えれば、あるいはVPSの契約をし直せば、異なる結果になると考えられます。まとめ
本調査では、同一のMT5用EAを用いて、同一に近いスペックで契約した5社のVPSを対象に、レイテンシーとスリッページを測定・比較しました。
結果として、平均レイテンシーでは約120ms(0.12秒)の差、ネガティブスリッページでは1.4pipsの差が確認されました。
VPSの選定は、コストパフォーマンスに注目するだけでなく、EAのロジックに合った特性を考慮することも大切です。
1000分の1秒単位の精度を求めるならばレイテンシーの安定性が重視され、約定価格のブレを抑えたい場合はスリッページの少なさが重要になります。
なお、今回の計測結果はあくまで一例であり、同一プランでもクラウド上の割り当てリソースや回線状況によってパフォーマンスに差が生じる可能性があります。
トレード環境の最適化は、成績向上につながる見えないコスト削減でもあります。
導入前に無料体験や短期契約で使用感を確かめるなど、VPSの選定は慎重に行うことが推奨されます。
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