FX自動売買基礎と応用

FX自動売買向けVPS徹底比較。MetaTraderでレイテンシーとスリッページを検証


FX取引における自動売買(EA)は、取引環境の安定性や通信速度によってトレード成果に影響がもたらされると指摘されています。

特に、VPS(Virtual Private Server)を用いた取引において、サーバーとの通信にかかる遅延時間(レイテンシー)が取引結果にもたらす影響は無視できません。

本記事では、レイテンシーがトレードに与える影響を解説しつつ、複数のVPS環境で測定した実際のレイテンシーを比較していきます。

なお、本記事はVPSのレイテンシーを調査することを目的としており、特定のVPSを推奨するものではありません。

VPSとは何か?EA運用に使う理由とは

VPSとは、クラウド上に構築された「自分専用の仮想マシン」を指します。

FXでVPSが活用される主な理由は、「自動売買の取引プラットフォームを24時間365日、安定稼働させるため」です。

MT5のEAは自宅のPCでも稼働できますが、自動売買のためにはPCが常時立ち上がっている必要があり、停電や通信不良、PCのスリープなどで停止するリスクがあります。

一方、VPSはプロ仕様のデータセンターで運用されており、「常時稼働・高速ネットワーク・堅牢なセキュリティ」が提供されています。

そのため、EAを安定的に動作させるにあたり、VPSは非常に心強いツールだと考えられます。

レイテンシーとは何か?VPS比較における重要性

レイテンシー(latency)とは、注文を出してから、それがサーバーに届き、実際に約定するまでにかかる「通信の遅延時間」を指します。

FX取引においては、1000分の1秒である「ミリ秒(ms)」単位のズレが約定価格やスリッページに影響を与えるため、特にスキャルピング系のトレードでレイテンシーは重要な要素となります。

MT5では、トレーダーの取引端末(クライアント)と、ブローカーが運用する取引サーバーとの間でレイテンシーが発生します。

これが大きいと、以下の可能性が生じます。

  • ①エントリー・決済が遅れることによる不利な約定
  • ②想定外のスリッページ
  • ③EAのパフォーマンス悪化

スリッページとは、注文した価格と、実際に約定した価格の差のことです。

たとえば「100.00円で買い注文を出し、実際には100.02円で約定した」場合、その差の0.02円(=2pips)がスリッページです。

レイテンシーは、使用しているVPSやインターネット回線の品質、ブローカーのサーバー位置(物理的な所在地)など、さまざまな要素によって左右されます。

MT5のEAで安定した収益を目指すトレーダーにとって、レイテンシーは意識すべき事項だと考えられます。

今回のレイテンシー計測方法

今回、5社のVPSでスペックが似たプランを契約し、同一のMT5、同一のEAを用いてレイテンシーとスリッページを計測しました。

MT5を安定して動作させるため、それぞれのVPSはWindows Serverのプランに揃えています。

利用したVPS

FXのEA向けVPSの主要5社で、「Windows Server、メモリ2GB、CPU2コア(一部は3コア)」のスペックを選びました。

MT5プラットフォームと調査用EA

MT5プラットフォームは、OANDA証券のMT5(デモ口座×5つ)です。

EAは、定刻に売買するロジックを持つ「MAN-010_USDJPY_M5_TRIAL」を使用しました。

この調査用EAは、日本時間の午前8時ちょうど、午後3時ちょうどなど、注文が集中しやすい時間帯でエントリーするため、VPSごとの性能比較に適していると考えられます。

この条件で合計25回計測し、その平均値を比較します。

VPS計測その1 お名前.comデスクトップクラウド

お名前.comデスクトップクラウドは、GMOインターネット株式会社が運営する国内最大級のドメイン登録サービス「お名前.com」のVPSです。

今回は、StartUpの2GBプランを利用しました。

お名前 デスクトップクラウド料金プラン_加工

※2025年5月30日時点

計測結果
最大スリッページ(pips)
ネガティブ/ポジティブ
平均スリッページ(pips) レイテンシー(ms)最小/最大 平均レイテンシー(ms)
-1.4/1.4 -0.064 296/329 303.28

VPS計測その2 ABLENET VPS Windowsプラン

ABLENET VPSは、株式会社ケイアンドケイコーポレーションのサービスブランド、ABLENETが運営するVPSです。

今回は、WindowsプランのWin1プランを利用しました。ストレージはSSD60GBを選択しています。

ABLENET料金プラン_加工

※2025年5月30日時点

計測結果
最大スリッページ(pips)
ネガティブ/ポジティブ
平均スリッページ(pips) レイテンシー(ms)最小/最大 平均レイテンシー(ms)
-0.3/1.1 0.008 296/578 369.96

VPS計測その3 シンクラウドデスクトップ for FX

シンクラウドデスクトップ for FXは、エックスサーバーのグループ会社「シンクラウド株式会社」が運営する、FX自動売買専用VPSです。

こちらは、スタートアップ2GBのプランを選択しました。メモリは2GB、仮想CPUは2コア、OSはWindows Server 2022です。

シンクラウドデスクトップfor FX料金プラン_加工

※2025年5月30日時点

計測結果
最大スリッページ(pips)
ネガティブ/ポジティブ
平均スリッページ(pips) レイテンシー(ms)最小/最大 平均レイテンシー(ms)
-1.7/0.9 -0.096 281/438 311.80

VPS計測その4 ConoHa for Windows Server

ConoHa for Windows Serverは、GMOインターネット株式会社が運営するレンタルサーバー「ConoHa」のVPSサービスの1つです。

今回は、2GBプランを選択しました。メモリは2GB、仮想CPUは3コアです。

ConoHa for Windows_時間課金プラン_加工

※2025年5月30日時点

計測結果
最大スリッページ(pips)
ネガティブ/ポジティブ
平均スリッページ(pips) レイテンシー(ms)最小/最大 平均レイテンシー(ms)
-1.7/1.4 -0.048 312/609 428.16

VPS計測その5 さくらのVPS for Windows Server

さくらのVPS for Windows Serverは、創業1996年の老舗「さくらインターネット株式会社」が提供するVPSサービスの1つです。

今回は、Windows Server 2022 Datacenter Edition、W2Gプランを選択しました。メモリーは2GB、仮想CPUは3コアです。

さくらのVPS料金プラン_月額払い_加工

※2025年5月30日時点

計測結果
最大スリッページ(pips)
ネガティブ/ポジティブ
平均スリッページ(pips) レイテンシー(ms)最小/最大 平均レイテンシー(ms)
-1.4/0.5 -0.064 297/344 319.44

レイテンシー計測結果の比較

各VPSでの計測結果を、一覧でまとめました。

スリッページとレイテンシーの最小値、最大値、平均値を比較できます。

計測結果
VPS 最大スリッページ(pips)
ネガティブ/ポジティブ
平均スリッページ(pips) レイテンシー(ms)最小/最大 平均レイテンシー(ms)
お名前.comデスクトップクラウド -1.4/1.4 -0.064 296/329 303.28
ABLENET VPS Windowsプラン -0.3/1.1 0.008 296/578 369.96
シンクラウドデスクトップ for FX -1.7/0.9 -0.096 281/438 311.80
ConoHa for Windows Server -1.7/1.4 -0.048 312/609 428.16
さくらのVPS for Windows Server -1.4/0.5 -0.064 297/344 319.44

平均レイテンシーを比較すると、303.28ms~428.16msまでの幅、つまり約120ms(0.12秒)の差が見られました(5社平均は346.53ms)。

また、最大ネガティブスリッページを見ると、-0.3pips~-1.7pipsの幅、つまり1.4pipsの差が見られました

なお、トレーダーに有利な方向に価格が滑るポジティブスリッページも、0.5pips~1.4pipsの幅で発生していたことも確認できました。

今回の計測では、VPSによってレイテンシーやスリッページに差が見られることがわかりました。

スキャルピングのような短期トレードのEAを運用する場合、これらの項目に留意してVPSを選ぶことが推奨されます。

※本調査結果は、2025年5月末~7月上旬にかけて、各社のVPSを同等スペックのプランで契約・計測した結果に基づくものですが、同一プラン内でも割り当てられるリソースには個体差が生じる可能性があります。 計測期間を変えれば、あるいはVPSの契約をし直せば、異なる結果になると考えられます。

まとめ

本調査では、同一のMT5用EAを用いて、同一に近いスペックで契約した5社のVPSを対象に、レイテンシーとスリッページを測定・比較しました。

結果として、平均レイテンシーでは約120ms(0.12秒)の差、ネガティブスリッページでは1.4pipsの差が確認されました。

VPSの選定は、コストパフォーマンスに注目するだけでなく、EAのロジックに合った特性を考慮することも大切です。

1000分の1秒単位の精度を求めるならばレイテンシーの安定性が重視され、約定価格のブレを抑えたい場合はスリッページの少なさが重要になります。

なお、今回の計測結果はあくまで一例であり、同一プランでもクラウド上の割り当てリソースや回線状況によってパフォーマンスに差が生じる可能性があります。

トレード環境の最適化は、成績向上につながる見えないコスト削減でもあります。

導入前に無料体験や短期契約で使用感を確かめるなど、VPSの選定は慎重に行うことが推奨されます。


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