米11月雇用統計で、クリスマス追加利下げの期待強まる

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失業率は上昇、労働参加率は低下も

米連邦公開市場委員会(FOMC)を12月17~18日に控え、Fed高官はブラックアウト期間に入った。
FRBのブラックアウト期間は主要国の中銀で最も長く、FOMCが開かれる以前の前週の土曜日からFOMCが終了した翌日までの13日間に及ぶ。
ちなみに、日銀の場合は、国会での発言を除く「各金融政策決定会合開始日の2営業日前から会合終了当日の総裁記者会見終了時刻までの期間」となる。

パウエルFRB議長はブラックアウト期間前の12月4日、ニューヨーク・タイムズ紙主催のイベントに出席し「米経済は想定以上に力強い」と発言、利下げに「慎重(cautious)」となる姿勢を打ち出した。
11月14日に続き、利下げに急がない立場を強調した格好だ。

ブラックアウト期間の直前に発表された米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想の20万人増を上回る22.7万人増だった。
事前予想通り、ハリケーンで急減した反動に加え、航空大手ボーイングのストライキ終了で20万人を超える雇用増となった。
過去2カ月分も、5.6万人の上方修正となり、2023年以降、22回のうち6回目の引き上げを迎えた。

ただし、米11月雇用統計の詳細をみると、冬の訪れとともに米労働市場の冷え込みを感じさせる。
失業率は前月まで2カ月連続で4.1%を経て、4.2%へ上昇した。
しかも四捨五入前では9月の4.051%→10月の4.145%→11月の4.245%と着実に上昇し、11月はあと一歩で4.3%と2021年10月以来の高水準に並ぶところだった。

チャート:失業率は3カ月連続で上昇1210
チャート:失業率は3カ月連続で上昇

労働参加率が62.5%と、6カ月ぶりの水準に低下したにもかかわらず、失業率の上昇を招いたのは、悪材料だ。
通常、労働参加率が低下するなら、職探しをする失業者が減少する場合があるためだ。
今回は、家計調査の結果によれば(NFPは事業所調査で給与明細ベースである一方、家計調査は聞き取り調査)、失業者が前月比16.1万人増だった一方、就業者は同35.5万人減と2カ月連続で30万人超えの減少となり、失業率の上昇につながった。
なお、家計調査での就業者数が35.5万人減だったが、NFPは同22.7万人増で、両者の結果は乖離していたが、前月を含め2カ月連続となる。

チャート:家計調査の就業者数と事業所調査のNFP、2カ月連続で乖離1210
チャート:家計調査の就業者数と事業所調査のNFP、2カ月連続で乖離

失職者数、完全解雇者数は2021年秋以来の水準へ増加

それ以外にも、米11月雇用統計は弱い材料が点在する。
失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比7.3万人増の262.7万人と2カ月連続で増加した結果、2021年10月以来の高水準だった。
失職者のうち、完全解雇者も前月比5.8万人増の189.3万人、労働人口に占める割合は1.12%と、2021年11月以来の高水準をつけた。

チャート:完全解雇者数、労働力人口比と合わせ2021年11月以来の水準1210
チャート:完全解雇者数、労働力人口比と合わせ2021年11月以来の水準

賃上げ圧力の根強さが指摘されるが、必ずしもそうとは言い切れない。
確かに、平均時給は前年同月比4.0%と、市場予想の3.9%を上回った。
しかし、労働者の約8割を占める生産労働者・非管理職部門では同3.9%と、4カ月ぶりの4%割れに。
足元、10月の米港湾労働者やボーイングなどストライキを経て賃上げしたにもかかわらず、前年比で伸びが鈍化した。
11月公表のベージュブック(地区連銀報告、日銀でいうさくらレポート)では、「大半の地区と業種で見通しはゆるやかに上向き」、「解雇は低水準」だったものの、雇用は「従業員を増やす企業はほとんどみられない」と報告。
従業員を増やす環境にないならば、賃上げが加速するとは想定しづらい。

チャート:平均時給、生産労働者・非管理職は4%割れ1210
チャート:平均時給、生産労働者・非管理職は4%割れ

FF先物市場は12月の追加利下げを8割織り込む、問題はその先

FF先物市場では12月6日、一連の結果を受けて12月の追加利下げ織り込み度が前日の66%→86%へ上昇した。
Fedがクリスマスに合わせ、利下げというプレゼントを市場にもたらす期待が高まるが、問題はその先だ。

12月17~18日開催のFOMCでは、四半期に一度公表される経済・金利見通し(SEP)とドットチャートが公表される。
前回9月は、2025年のFF金利予想中央値につき3.375%、0.25%ずつなら4回の利下げが予想されていた。
足元、12月の追加利下げの支持に傾くと明言するのは、トランプ前大統領に指名されたウォラーFRB理事のみで、同氏は恐らく低金利を望むトランプ氏の意志を汲んでいるのだろう。
しかし、パウエルFRB議長を始め、Fed高官は政策決定の柔軟性を維持し、2025年についてもフリーハンドを確保する。

チャート:9月FOMCでの経済・金利見通し1210
チャート:9月FOMCでの経済・金利見通し

12月11日発表の米11月消費者物価指数(CPI)が上振れすれば、2025年は2回の利下げ示唆に転じる場合がある。
トランプ次期大統領はNBCのインタビューでパウエルFRB議長を解任しないと発言しており、トランプ砲への警戒感も以前よりは低下しただろう。
ただ、米労働市場が冷え込みつつある過程で、2025年に2回の利下げ示唆へ変更するなら、トランプ陣営がメッセージを送るシナリオに留意すべきだ。
財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏は、パウエルFRB議長の解任ではなく、新たな候補を先んじて指名しレームダック化を図る計画を検討していただけに、バイデン政権より干渉するリスクをはらむ。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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