米5月雇用統計、米利下げ期待を再燃させるか

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米5月ADP全国雇用者数を受け、トランプ氏は再び利下げを要請

「ADPの数値が発表された!!! 『遅過ぎ』パウエルは今すぐ利下げすべきだ。彼は信じられない!!! 欧州はすでに9回も利下げしている!」とは、トランプ大統領が6月4日にトゥルース・ソーシャルに放った投稿内容だ。
6月6日に発表される米5月雇用統計の前哨戦、米5月ADP全国雇用者数が前月比3.7万人増と、2023年4月からの増加トレンドで最小の伸びとなった結果を受けたものである。
トランプ氏がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に利下げを直接要求したのは、大統領就任以降で、少なくとも13回目だ。

チャート:米5月全国雇用者数は前月比3.7万人増、23年4月以降の増加トレンドで最小の伸び
チャート:米5月全国雇用者数は前月比3.7万人増、23年4月以降の増加トレンドで最小の伸び

米5月ADP全国雇用者数は、政府を除く民間の雇用者数を示す。
10業種別では5業種が減少、前月の3業種から増えた。
今回、雇用を押し下げたのは専門サービスと教育・健康だ。
教育・健康は、5月の1.3万人減を含め過去6カ月のうち3回減少していたため、平均ではゼロとなる。
雇用統計の業種別では、教育・健康が増加幅トップであり続け、過去6カ月間平均では7.1万人増とけん引してきた結果と、乖離した格好だ。
夏季休暇入りに伴う教員のリストラも、一因だろう。
トランプ政権が発表した予算教書では、教育省の予算が前年度比15.3%の削減と提案され、教育省の解体も視野に入れるだけに、夏季休暇要因も重なり雇用を押し下げうる。

従業員数別では、1ー19人、20ー49人の零細・中小企業がそれぞれ6,000人、7,000人と減少。
250ー499人、500人以上も2,000人、3,000人のマイナスと、年初来で初めて広範囲にわたる雇用の落ち込みを確認した。
4月からの一律関税10%(相互関税は4月9日に90日間一時停止)や、中国への相互関税発動(5月12日に90日間の115%引き下げで米中合意)、その他、鉄鋼・アルミや自動車・部品の追加関税が打撃となった可能性がある。

チャート:米5月ADP全国雇用者数、セクター別の雇用の増減
チャート:米5月ADP全国雇用者数、セクター別の雇用の増減

チャート:米5月ADP全国雇用者数、従業員数別の雇用の増減
チャート:米5月ADP全国雇用者数、従業員数別の雇用の増減

全米リアルタイム求人広告動向指数でも、労働市場の減速を確認

オンライン求人広告インディードが発表する全米リアルタイム求人広告動向指数では、5月30日までで平均106.4と、4月平均の107.5を下回った。
裁量的支出の余地が縮小しつつあるためか、宿泊・観光が5月に平均88.6と、4月平均の93.9から大きく低下した。
アメリカン航空など米連邦政府職員の削減に伴う出張の減少と関税発動による不確実性の高まりを受け、通期見通しを撤回したことが思い出される。
NFPのうち、これに該当する娯楽・宿泊は雇用の約1割を担うだけに、減速すれば労働市場を押し下げうる。

チャート:全米リアルタイム求人広告動向指数、全体的に低下傾向
チャート:全米リアルタイム求人広告動向指数、全体的に低下傾向

チャート:全米リアルタイム求人広告動向指数、宿泊・観光の落ち込みが明確化
チャート:全米リアルタイム求人広告動向指数、宿泊・観光の落ち込みが明確化

米新規失業保険申請件数も、不気味な影が現れている。
米新規失業保険申請件数は5月24日週に24.0万件へ増加した。
これはメモリアル・デーの3連休を控え一時的に増加した可能性を残すが、気掛かりなのは継続受給者数で、191.9万人と2021年11月以来の水準へ増加していた。
特に、継続受給者数は5月17週時点で、メモリアル・デーの祝日を受けた3連休の影響は限定的であるだけでなく、12日を挟む雇用統計のサンプル週にあたる。
米5月雇用統計の失業率の予想は3カ月連続で4.2%となる見通しだが、上向く余地を残す。

チャート:米新規失業保険申請件数が増加、継続受給者数は2021年11月以来の水準へ増加
チャート:米新規失業保険申請件数が増加、継続受給者数は2021年11月以来の水準へ増加

ISMの雇用は5月に改善も、ちらつく関税の警戒

トランプ大統領はパウエルFRB議長と5月29日に会談した。
パウエル議長がFRBのウェブサイトに掲載した声明によれば、ホワイトハウスで経済の動向について協議しつつ、金融政策見通しについて議論しなかったという。
その上で、金融政策はデータ次第、FRBは慎重で客観的かつ「非政治的な分析」に基づき金融政策を決定すると強調した。

一方で、ホワイトハウスのレビット報道官は、トランプ大統領が会談で利下げをしないことは間違いとし、「米国を中国など他の国と比べて不利な立場に置いている」と訴えたと説明。
引き続き利下げを行うよう要請したことが分かっている。

米5月雇用統計の非農業部門就労者数は前月比13.0万人増と、前月の17.7万人増から鈍化する見通しだ。
失業率は、前述したように4.2%と見込まれている。
ISM景況指数を振り返ると、製造業の雇用は5月に46.5→46.8に小幅改善し、非製造業に至っては49.0→50.7と3カ月ぶりに分岐点の50を回復した。
米5月雇用統計を前に労働市場をめぐる指標は必ずしも悪化を示すものばかりではない。
米5月ADP全国雇用者数にしても、過去半年間で雇用統計・民間就労者数を3.2万人下回っただけに、今回も過小評価している可能性を残す。

しかし、ISM非製造業景況指数における回答者のコメントを読むと、関税によるコスト圧迫や不確実性が指摘されていた。
仮に米5月雇用統計が弱い数字となれば、トランプ氏の利下げ圧力が増し、足元で年内2回とされている利下げ予想が再び3回へ増えてもおかしくない。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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