ドル円159円乗せで、相次ぐ片山財務相の円安けん制
自民党総裁選で高市早苗氏が勝利した2025年10月4日以降、ドル円は急伸した。
総裁選直前にあたる同年10月2日の安値147.06円から、実に、12.39円もの上昇幅を記録。
年明け1月9日に高市首相が通常国会招集日の23日に解散を発表するとの報道を受け、自民党勝利なら「責任ある積極財政」が加速するとの見方から、1月14日には159.45円まで上値を拡大した。
2024年7月3日の高値161.95円が視野に入るなか、片山財務相を始め当局は米財務省を巻き込み、円安けん制を先鋭化させている。
2025年12月22日、介入について「フリーハンド」と、神田前財務官が使った「スタンバイ」に続く新たなキーワードを採用。
年明け1月12日には、G7財務相会合でベッセント財務長官と会談後、1月9日の「一方的な円安を憂慮しており、ベッセント財務長官に伝え認識を共有した」と発言した。
2025年11月から、日米財務相共同声明について言及する局面は確認できた一方で、ベッセント氏の名前を出し、介入が「フリーハンド」であることを強調した。
同声明では、介入について「過度の変動や無秩序な動きに対処するためのものに留保されるべき」と明記されている。
1月16日には、片山氏が協調介入について質問され、「協調なのかどうかは書いていないので、あらゆる手段は排除されないものと考えている」と言及。
この発言を受けて、ドル円は3営業日ぶりに158円を割り込み、一時157.95円まで下落した。
為替介入に関するキーワードを踏まえれば足元は介入手前の4段階目にあたるだけに、いつ実弾の介入が飛び出してもおかしくない。

チャート:片山氏の主な円安けん制発言

チャート:為替介入に関するキーワード
解散総選挙中の円買い・ドル売り介入、レバレッジ系のポジションが正当化?
高市氏は1月14日、首相官邸で自民、日本維新の会両党の幹部と会談し、23日召集の通常国会の早期に衆院を解散する意向を伝達した。
高市氏は19日に記者会見し、国民に解散についての考えを説明する方針。
解散総選挙を控えるなかでの円安進行は、物価高政策を掲げる高市政権としては、歓迎せざるニュースのはずだ。
NHKが1月に実施した世論調査では、高市政権が最優先で取り組むべき課題として、全体の45%が「物価高対策」と回答。
18~39歳でも、39%と2位の「外交・安全保障」にダブルスコアをつけ、高い関心が窺える。
帝国データバンクが行った飲食料品の価格調査で、4月までにマヨネーズやパックごはんなど、3593品目が値上がりする見通しのなか、円安進行が輸入物価を通じ、一段の物価高につながる警戒が高まっているかのようだ。
仮に、総選挙を控え、円安進行を受け介入を行えば、1993年、2003年以来となる。
ただ、当時は円売り・ドル買い介入だったため、今回仮に実現するなら、円買い・ドル売り介入としては総選挙中で初となりそうだ。
物価高対策を掲げるならば、円安進行を食い止めるための「断固たる措置」として、国民の理解を得られる側面も考えられる。
神田前財務官が陣頭指揮を執っていた2022~24年の介入実績を踏まえれば、足元は①ドル円の値動き、②ポジション――を踏まえると、今すぐ行うタイミングにあるようにはみえない。
かつて神田財務官が言及した為替介入の「条件」に該当しないためだ。

チャート:神田前財務官が挙げた為替介入の「条件」
ポジションでみると、米商品取引委員会(CFTC)が発表したデータに基づけば、投機筋の円先物は1月10日週で8,815枚のネット・ロングである。
2022~24年の大幅なネット・ショートに至っていない。

チャート:2022~24年の介入規模など詳細と、投機筋のポジション
しかし、投機筋のポジションの内訳をみると、違った風景がみえてくる。
投機筋のうち、アセットマネジメントとその他(アセットマネジメント、レバレッジ系、ディーラー以外)はそれぞれ4万6,448枚、6万6,503枚のネット・ロングだが、レバレッジ系(ヘッジファンド、商品投資顧問など)は6万3,230枚、ディーラーも5万枚のネット・ショートにあたる。
特に、レバレッジ系は2022年9~10月の介入前後のネット・ショートが4万~8万枚、2024年4~5月の前後で5~6万枚、同年7月で7~10万枚だった。
こうした事実を踏まえれば、投機筋の中でも最も足の速い短期筋を狙い撃ちする上で、適切なタイミングと評価できる。

チャート:レバレッジ系の円先物ポジション動向
介入に踏み切るなら、米国の条件は「3月利上げ」か
テクニカル的に、足元は重要な節目にある。
プラザ合意前の高値240円と、2011年10月31日につけた変動相場制に移行してからの最安値75.32円の半値押し157.70円を抜けただけではない。
一時は週足のダブルトップにあるネックラインにあたる、2025年1月10日の高値158.88円を突破してしまい、上方向を目指す機運が高まってきた。
今週、ここを終値で堅持できるか否かで、ドル円の方向性が変わってくるというものだ。
ベッセント氏が片山氏との会談後に公表した米財務省声明では、「過度な為替変動は望ましくないと指摘し、財務長官は金融政策の適切な立案と明確なコミュニケーションの必要性を強調した」と明記された。
日米財務相共同声明にある「過度な変動」の文言を使用しているだけに、介入への理解を示したようにみえる。
ただし、引き続き日銀の利上げ継続を求める姿勢を示唆しており、仮に解散総選挙にかけ介入に踏み切るなら、3月利上げとセットになるシナリオに留意すべきだろう。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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