自民党は結党以来で最多の議席獲得も、高市氏は食品消費税率ゼロに慎重姿勢
衆議院選挙の投開票が2月8日に行われ、自民党は3分の2を上回る316議席を獲得した。
連立を組む日本維新の会と合わせれば、352議席となる。
今回の選挙は、就任からわずか数か月の高市首相が「国民からの信任」を明確に得ることを目的に仕掛けたものであり、その狙いは達成された。
今回の結果を受け、政権の立法府に対する影響力は一段と強まる。
衆院の委員会運営を掌握し、法案審議の主導権を独占できるため、政策遂行の速度は大幅に高まる見通しだ。
さらに、参院で否決された法案でも、衆院が再可決すれば成立させることが可能となる。
総選挙を経て、為替市場での焦点は「2年間の食品消費税率ゼロ」を中心とした財政政策の行方だ。
高市首相は「責任ある積極財政」を掲げ、公約でも「飲食料品を2年間限定で消費税の対象外とする減税策の検討を加速させる」と明記していた。
自民党の勝利を受け、片山財務相は「赤字国債に頼ることなく2年間限定でやる」と発言。
鈴木幹事長も「給付付き税額控除をつくっていくまでの措置として2年間の減税という位置づけなので、その線はしっかりと守っていきたい」と言及、実現への意欲を示す。
ただし、片山氏は「自民大勝でも放漫財政にはならない」と明言しており、今後の道筋には不透明感を残す。
これまでの高市氏の発言に基づけば、食品の消費税率ゼロは、①2026年度以内を目指す、②超党派で組織する国民議会で議論――といった方向性となる。
一方、選挙戦での応援演説での同措置への発言は格段に少なく、自民党の公開資料でも確認できなかった。
高市氏は自民党大勝後も「新規国債は発行しない」と明言し、バラマキ加速に慎重姿勢を表明。
また「国民会議で検討を加速することになる」と述べ、政策優先順位の低下を示唆するなど、依然として慎重姿勢がうかがえる。
英テレグラフ紙は、総選挙を受け「日本の“浪費家の鉄の女”には危険な計画がある」などと報道したが、こうした海外の論調を意識したかのようだ。
何より、一連の発言からは1月23日の“日米協調レートチェック”における、米国との“密約”が見え隠れする。
米財務省が公表した為替報告書に基づけば、総選挙前にドル円を下落させ160円突破を防いだ見返りとして、①食品の消費税率ゼロの見送り、②日銀の利上げ――が視野に入る。
ここについては、前週のレポートで指摘した通りである。
対米投資を踏まえ、2024年当時の大規模な介入は困難か
片山氏は2月8日に「金融市場には万全の注意を払っている」「必要であれば、月曜も市場と対話する」と早くもけん制球を放った。
ただし「今の為替状態だと、利益というのが5兆円以上出てくる」との見通しにも言及。
この点については、対米投資を絡めて考えるべきだろう。

チャート1:米国にとっての「協調行動」の利点
(出所:ストリート・インサイツ)
日経新聞によれば、赤沢経財相(当時)は2025年9月に、対米投資5,500億ドル(約85兆円)につき、「半分は外為特会の運用収入などで対応可能だと思う。米国債等を売却する必要はない」と語っていた。
しかし、外為特会の2025年度予算における運用収入見通しは約4.4兆円にとどまり、これだけでは到底賄えない。
財務資料を基にすると、外貨預金のうち当座預け金、1年以内の債券償還金を合わせても約60兆円規模となる。
ただし、日銀は外貨準備を「通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産」と定義する。
本来の目的である介入に照らし合わせると、2022年の介入額は9兆1,880億円、2024年は15兆3,233億円だった。
対米投資の規模を踏まえれば、日米当局にとって介入によって外貨準備を減らすことは得策ではなく、こうした制約が1月23日の“日米協調レートチェック”につながったとみられる。
足元、ドル円の上昇が介入観測を招いているが、対米投資を踏まえれば、大規模介入を行うかは不透明感が残る。

チャート:2022、24年の介入実績
円安加速なら、日銀は3月利上げも?
為替報告書で「金利差」や「新政権の財政政策」が円安要因として指摘された事実に照らし合わせると、介入より前に、日銀の利上げが円安是正の手段として浮かび上がる。
1月の日銀金融政策決定会合の「主な意見」で「数か月に一度のペースで利上げ」が明記されるなど、タカ派への急旋回とも整合的だ。
とはいえ、ベッセント財務長官の「(日米協調介入は)断じてない」発言を踏まえれば、日米協調レートチェックがこれ以上使えないだけに、片山氏は介入資金について「潤沢」と強調する必要がある。
2月8日の「今の為替状態だと利益が5兆円以上出てくる」との発言は、米国に対し「介入しても対米投資に悪影響を与えない」とのメッセージだったのではないか。
筆者は、現時点で自民党の大勝が必ずしも食品消費税率ゼロの実現に直結するとは想定していない。
仮に実現したとしても、財源確保とセットとなりそうだ。
一方で、日米当局にとって介入を回避できるに越したことはなく、まずは日銀の3月利上げでドル円の上昇を抑制しようとする展開が想定される。
今週は13日に田村審議委員、そして26日には1月の会合で利上げ票を投じた高田審議委員と、タカ派の政策委員会メンバーの発言が相次ぐ。
過去の利上げパターンを踏まえれば、利上げを行う月には必ず正副総裁の発言が挟まれた。
3月利上げの狼煙を上げるのは、今回も正副総裁となる蓋然性が高い。

Provided by
株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。