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FRBは据え置き継続へ、ECBとBOEは4月利上げが視野に

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3月FOMC、年内1回の利下げ予想維持も…

米連邦準備制度理事会(FRB)の責務は、「雇用の最大化」と「物価の安定」で、米連邦準備法に規定されている。
一方で、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)は、シングルマンデート、すなわち「物価の安定」のみ課されている。
米国とイランが2月28日にイラン軍事攻撃を開始後、WTI原油先物が一時119ドルと2022年6月以来の高値をつけ、欧州の天然ガス価格の指標となるオランダTTF先物が2月27日比で2倍以上も急騰するなか、金融政策はそれぞれの中銀で分岐点に差し掛かりつつある。

米連邦公開市場委員会(FOMC)は、3月17〜18日の会合で、FF政策金利誘導目標レンジを3.5〜3.75%で据え置いた。
据え置きは2会合連続で、前回に続きミランFRB理事が0.25%の利下げを求め反対票を投じた。
しかし、1月FOMCで利下げを求めたウォラーFRB理事は据え置きに反転。
3月20日のCNBCインタビューで、ウォラー氏はインフレ警戒重視へシフトしたと説明した。

声明文では、経済活動が引き続き堅調なペースで拡大していることを確認する一方、中東情勢が米経済に与える影響への「不確実性」を明示的に追記した。
これは1月の声明文にはなかった文言であり、イラン情勢の緊迫化が政策判断に影を落としていることを率直に認めた格好だ。

同時に公表された経済・金利見通し(SEP)では、成長率とインフレの見通しの上方修正が目を引いた。
インフレはエネルギー高が影響したが、成長率についてはパウエルFRB議長いわく人工知能(AI)ではなく「生産性の向上」と説明した。
一方で、米2月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が前月比9.2万人減、失業率が4.4%へ上昇した結果にもかかわらず、失業率見通しは小幅な修正にとどめた。

注目のFF金利見通しは前回と変わらず、年内については1回利下げの予想を維持した。
ただし、長期見通しは3.0%から3.1%へ上方修正され、景気を引き締め過ぎず、緩和し過ぎないとされる中立金利が引き上げられた格好だ。

チャート:FOMC、3月版のSEP
チャート:FOMC、3月版のSEP

パウエルFRB議長はインフレ重視へシフト、FRB残留の可能性も示唆

ただし、パウエルFRB議長は、記者会見で「何人かの委員が『もしSEPを省略するなら今回がそれだ』と発言したほどだ」と述べ、今回のSEPは重視すべきではないと強調した。

インフレについては、「関税の押し上げ効果は理論上一度きり」との見解を維持しつつ、今回の原油ショックは通常の“一時的”な性質とは異なり、規模と期間が読めない点で特別だと指摘。
エネルギー価格がインフレを押し上げるリスクを強調した。
スーパーコア(住宅を除くコアサービスインフレ)が依然として粘着的であることを「もどかしい(frustrating)」と表現し、インフレの高止まりへの不満をにじませる場面もあった。
また、利下げの前提条件は「関税の押し上げ効果が剥落することによる」ディスインフレだと説明し、インフレ減速が明確化しない限り利下げのハードルは高いとの認識を示した。
一方で、スタグフレーションについては「1970年代とは全く異なる。失業率は過去の正常な水準に近く、インフレは目標を1ポイント程度上回るに過ぎない」と明確に否定した。

労働市場については、「過去6カ月の民間部門の雇用増は実質ゼロ」と、厳しい現状認識を示した。
ただし、労働力人口の伸びもほぼゼロであるため「ゼロ雇用増の均衡」が成立しているとも付言。
労働市場の悪化を意味するものではないとの見方を寄せ、これはSEPでの失業率予想が楽観的だった結果と一致する。
「下振れリスクを感じさせる不安定な均衡」とも述べたが、現時点でインフレ警戒を重視したと捉えられよう。

米司法省は、パウエル氏が上院銀行委員会で行ったFRB本部改修工事に関する「偽証」疑惑を捜査している。
パウエル氏は捜査が続く限りFRBに留まる姿勢を示した。
一方、トランプ氏が次期議長に指名したウォーシュ元FRB理事の承認は米上院が行うが、その前段となる上院銀行委員会で手続きが止まっている。
委員会メンバーのティリス議員(共和党)が、パウエル氏への刑事捜査が取り下げられない限り承認を阻止する構えを見せているためだ。

こうした状況を踏まえ、パウエル氏は「任期終了時点で後任が承認されていなければ、法律に基づき暫定議長として職務を続ける」と述べた。
つまり、新FRB議長が決まらなければ利下げは遠のき、仮にウォーシュ氏が就任しても、パウエル氏が“影の議長”として影響力を残す可能性がある。
これは利下げ時期の後ろ倒しにつながり得る。

以上の結果を踏まえ、FF先物市場ではこれまで下半期に1回の利下げ予想が優勢だったが、年内据え置きの予想に傾いた。
一部で利上げ観測も浮上するなか、利下げ再開を見込む時期は、2027年秋まで後ずれした。

チャート:FF先物市場、年内は据え置き予想が優勢ながら利上げ予想も浮上
チャート:FF先物市場、年内は据え置き予想が優勢ながら利上げ予想も浮上

ECBとBOE、4月利上げが視野に

3月19日、ECBは定例理事会を開き、中銀預金金利を2.0%で維持した。
6会合連続の据え置きとなる。
ECBはラガルド総裁が会見で「インフレ見通しのリスクは上方に傾いており、特に短期的に顕著」、「中東での戦争が長期化すれば、エネルギー価格が現在の想定以上に大きく、かつ長期にわたり上昇し、ユーロ圏のインフレをさらに押し上げる可能性あり」と発言。
さらに、スタッフ見通しでもインフレ見通しを大幅に上方修正した。
それだけでなく、基本シナリオに加え「追加シナリオ」を提示し、原油高次第で統合消費者物価指数(HICP)が前年比4.8%に加速すると警鐘を鳴らした。

チャート:ECBスタッフ見通し3月版、インフレ見通しを軒並み上方修正
チャート:ECBスタッフ見通し3月版、インフレ見通しを軒並み上方修正

BOEの金融政策員会(MPC)でも政策金利を3.75%で据え置きを決定。
MPCの委員9人全員が金利据え置きに賛成票を投じており、全会一致は4年半ぶりとなる。
声明文では「2%目標達成のため必要に応じて行動する用意がある」と明記し、代わりに「基準金利はさらに引き下げられる可能性が高い」を削除した。
ただし、ベイリー総裁は「金利は高く、需要は比較的低調。英中銀は2022年とは全く異なる状況に直面している」と述べ、過度な利上げ期待へのけん制に努めた。
実質金利がFedに続くプラスと引き締め寄りなだけに、市場の利上げの織り込みに対応したのだろう。

チャート:実質金利だけをみると、米欧英でもっとも利上げ余地があるのはECB
チャート:実質金利だけをみると、米欧英でもっとも利上げ余地があるのはECB

もっとも、先物市場ではBOEとECBに対し4月の利上げ開始、並びに年内2~3回の利上げ予想に傾き始めた。
エネルギー価格上昇の影響として物価高と景気減速が懸念されるなか、少なくともマーケットは中銀が物価高対応を優先すると予測している。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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