日銀主な意見、大規模緩和解除後で初めて「金融引き締めが必要」
米国によるイラン攻撃の長期化でエネルギー価格が高止まりし、世界経済の不確実性が増す状況でも、日銀は4月の金融政策決定会合に向けて追加利上げの地ならしを着実に進めている。
3月会合の「主な意見」や各種経済統計は、日銀の利上げ継続姿勢を裏付ける内容となっており、中東情勢の悪化も利上げ判断を揺るがすには至っていない。
3月会合の「主な意見」では、中東情勢の悪化にもかかわらずタカ派的な見解が集まった。
物価高と景気減速の可能性をにらみつつも、「今後も長くあけずに金融緩和の度合いの調整を検討」との指摘がみられた。
さらに、基調的な物価上昇率が2%を超えて上昇し続けることを避けるべく、「躊躇なく利上げに進むことが必要」との意見も。
ビハインドザカーブに陥れば、急激かつ大幅な金融引き締めを余儀なくされるとして、「利上げ幅を含め利上げについて検討したい」との認識も寄せられた。
過度な円安進行によるコストプッシュの深刻化などで賃金が上振れすれば、「金融引き締めが必要となる可能性」にも触れられており、これは2024年3月の大規模緩和解除以降、初めての「引き締め」言及となる。
その他、「従来の想定より利上げを加速させる」、「金融政策によってまずは物価を安定させ」との意見もあり、総じてタカ派的だ。
植田総裁は3月30日の衆院予算委員会で「短期金利が適切に調整されずに物価が上振れする可能性があると市場が認識した場合は、長期金利も上振れするリスクがある」と答弁した。
利上げを通じた金利の適切な調整の必要性を明確に示したと言え、4月追加利上げを視野に入れた見解と捉えられよう。

チャート:3月会合「主な意見」
4月1日公表の日銀短観も、利上げを後押しする内容だった。
大企業製造業の業況判断指数(DI)はプラス17と、4四半期連続で改善。
非鉄金属や生産用機械に加え、自動車など、幅広く上向きを確認した。
なお、今回の調査回答期間(2月26日〜3月31日)にはイラン攻撃後が含まれており、その状況下でも景況感が改善した意義は大きい。
先行きはプラス14と若干の慎重見通しながら、全産業の国内需要見通しはマイナス9と少なくとも2022年9月以来の高水準を記録しており、国内需要の底堅さが確認されている。

チャート:日銀短観、大企業の製造業と非製造業の景況判断は上向き続く
物価面では、企業の1年後の物価見通しが2.6%とウクライナ戦争開始後の2023年Q2以来の高水準に達した。
中東情勢を受けたエネルギーコストの上昇に加え、供給網の混乱への警戒が企業のインフレ期待を押し上げている。
さらに雇用人員の実績がマイナス38と1991年Q3以来の低水準となり、先行きもマイナス42と1991年Q4以来の水準まで悪化が予想されている。
人手不足が一段と顕著となっており、賃金インフレの持続が物価上昇圧力を温存する構図だ。

チャート:1年後の物価見通し、2023年Q2以来の高水準
特殊要因を除いたコアCPI、需給ギャップも4月利上げを後押し
日銀の主な意見や短観の結果に加え、その他の条件も利上げシナリオを正当化している。
日銀が3月26日に発表した各種の制度変更に起因する「特殊要因」を除いたコア消費者物価指数(CPI)をみると、2月の生鮮食品と特殊要因を除いた場合は前年同月比2.2%、生鮮食品・エネルギーと特殊要因を除いた場合は同2.7%と、それぞれ2月全国CPIのコアである1.6%、コアコアの同2.5%を上回った。
欧米型コアとされる食品・エネルギーに特殊要因も除いた場合では同1.7%と、こちらも2月の1.4%を超え、基調的な物価の底堅さが確認できる。
なお、特殊要因とは消費税率の変更・教育無償化政策+ガソリンや電気・ガス代等の負担緩和策+2021年の携帯電話通信料の引き下げ+旅行支援策の各影響などが含まれる。

チャート:コアCPIから特殊要因を除くと、コアとコアコアはそろって2%乗せ
日銀が3月26日に発表した需給ギャップの再推計では、従来「22四半期連続マイナス」とされていたデータが遡及修正され、2022年Q1以降プラスに転換していたことが判明した。
直近の2025年Q3はプラス0.45%(後に0.53%に上方修正)。
さらに4月3日に発表された2025年Q4分はプラス0.65%とプラス幅が拡大しており、2022年Q1以降16四半期連続のプラスとなる。
再推計では資本投入ギャップが大きく上方修正されたことが主な要因だ。
なお、需給ギャップとは、日本経済の潜在的な供給力と実際の需要の差を表す(潜在的な供給力は潜在GDP、総需要はGDP)。

チャート:需給ギャップ、プラスに反転
日銀が4月会合で追加利上げに踏み切る環境は着実に整いつつある。
イラン戦争がもたらすリスクは依然くすぶるが、現時点では日銀の利上げ判断を覆すには至っていないと言えよう。
ホルムズ海峡の通航を巡り困難な状況が続けば、政府が節電・節エネを要請するシナリオが視野に入る。
他方、日銀としては、そうした経済減速が本格化する前に利上げを行い、円安進行による物価高を抑えたいというインセンティブが働くのではないか。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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