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GPIF国内投資引き上げ、対米配慮を踏まえた現実的なシナリオとは

マーケットレポート

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骨太の方針の文言修正でも、ドル円は買い戻されず

高市政権が、本格的に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国内投資引き上げに向かい始めた。
高市首相は7月17日、参院予算委員会の集中審議にて「年金基金による日本の金融資産へのさらなる投資を後押しする方策を追求する」と明言
「GPIFは運用方針のもとでオルタナティブ投資を実施して国内案件についても着実に投資を積み上げ、国内経済の成長にも寄与している」とも述べたうえで、「円安・ドル高局面で外国資産を売却して国内資産を購入するので、日本経済のためにもなっている」と強調した。

その2日前の15日、高市氏は党首討論で、骨太方針の原案が円売りや金利上昇の「ショックの原因だとは思っていない」と指摘し、「為替市場もそう、金利もそうだが、これはさまざまな要因によって決まる」と答弁していた。
日経新聞が「高市円安」などと報じるなか、骨太ショックを否定しつつも高市政権が円安・金利上昇に神経質になりつつある様子がにじみ出ている。

実際、骨太方針は、以下の2点――①強い経済の安定に向けては…との文言に「安定的な物価上昇の実現に資する」を追加。
日銀の自主性を尊重する趣旨から、「日銀法第3条」について言及すると報じられたが、脚注に収められるにとどまった。

チャート:骨太ショック、一連の主な流れ
チャート:骨太ショック、一連の主な流れ

画像:骨太の方針、「安定的な物価上昇の実現」との文言を盛り込むが、本文には「日銀法第3条に基づき」とは明記されず、脚注3で日銀法第3条にある日銀の自主性を網羅した格好
画像:骨太の方針、「安定的な物価上昇の実現」との文言を盛り込むが、本文には「日銀法第3条に基づき」とは明記されず、脚注3で日銀法第3条にある日銀の自主性を網羅した格好
(出所:内閣府)

7月15日以降、ドル円の下落局面でも160円を割り込めない状況下、GPIFという2026年3月末で294兆円と世界最大級の年金への「介入」で、円安是正へ舵を切る方向だが、どのような手順になるのだろうか。
GPIFのポートフォリオ配分変更、①基本ポートフォリオ見直し、②乖離許容幅、③オルタナティブ投資の5%上限活用、――の3つの経路が見込まれる。

乖離許容幅とオルタナ投資上限5%の合わせ技で、国内投資引き上げか

このうち①の基本ポートフォリオの変更には2つの手法があり、前回のレポートで指摘したように(a)2014年型の有識者会議設置→正式な財政検証→厚労相による要請、(b)GPIFの経営委員会主体の定例プロセス――が挙げられる。
(a)の場合は1年以上要したが、(b)であれば、比較的短期間で終わる可能性がある。
とはいえ、いずれの手法であっても、厚生年金保険法に則る必要がある。
すなわち「積立金の運用は、積立金が厚生年金保険の被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の保険給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、専ら厚生年金保険の被保険者の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うことにより、将来にわたって、厚生年金保険事業の運営の安定に資することを目的として行うものとする」というもの。
(b)は外部有識者による検証を経ない分、この目的適合性をどう説明するかが、より厳しく問われよう。
足元の国内投資引き上げが、この目的規定を満たすかは不透明と言わざるをえない。

続いて、②の乖離許容幅の場合であれば、国内債券の場合±6%とあって、最大31%まで引き上げが可能だ。
なお、株式と債券の資産配分だけで見れば、それぞれ±9%とあるが、これは株式あるいは債券という資産配分全体で59%まで引き上げられるという意味になる。
これならば、現状の枠組みを活用するだけであり、基本ポートフォリオ変更の手続きを経る必要はない。

最後に、③のオルタナ投資の5%上限活用だが、オルタナ投資とは債券に対する「代替的(オルタナティブ)」な投資対象資産の総称であり、主に不動産やプライベート・エクイティ(PE、非上場株)、インフラ施設などが対象となる。
流動性リスクは高いものの、高利回りが期待できる商品だ。
GPIFは2013年よりオルタナ投資を開始しており、オルタナティブ資産全体の時価総額は、2026年3月末時点で5兆2,067億円、GPIF運用資産全体の1.74%に相当する。
日本成長戦略会議の下に設置された資産運用立国推進分科会は、月内にもまとめる「成長投資を促進するための金融戦略」に盛り込む方針と報じられており、②と③の合わせ技となる可能性が出てきた。

日米財務相共同声明や為替報告書、GPIFの「円安誘導」を問題視

GPIFの国内投資拡大をめぐっては、米国から理解を得る必要がある。
前回のレポートで指摘したように、日米財務相共同声明に「年金基金等による海外投資は、引き続きリスク調整後のリターンや分散化の目的で行われ、競争上の目的のために為替レートを目標とはしない」と明記された。
2026年1月に公表された為替報告書でも「2014年にGPIFのポートフォリオを見直し国内債券の比率を引き下げたのは、日本からの資本流出を促進する円安誘導との憶測を招いた」との文言を確認できる。
日本の国債投資を引き上げる際には、米国債を売却する必要があり、米国を無視するとは思えない。

もっとも、米国との関係においては、片山財務相が7月14日に「日米は相変わらず非常に緊密に話をしている」と説明しており、この点については説明している公算が大きい。
また、今回の国内投資引き上げは円安誘導とは言えないため、日米財務相共同声明にある「競争上の目的」に抵触するとは考えられない。
また、基本ポートフォリオ変更の配分を大幅に変更せず、乖離許容幅の調整であれば、従来の米国債売買の範囲内にとどまるため、米国債利回りの急伸につながる可能性は低い。

何より、高市政権がGPIFの基本ポートフォリオを抜本的に変更する場合は、2014年に約1年4カ月要した事情を踏まえれば、その間に円安を容認すると受け止められかねない。
また、GPIFの基本ポートフォリオ変更は、今回の対応で円安が是正できない場合の伝家の宝刀として確保すべきと言える。

高市政権の支持率は、毎日新聞の世論調査では41%と政権発足以来の最低を更新しただけでなく、不支持率が逆転した。
時事通信の世論調査でも49%と、過去最低だった。
皇室典範改正の影響とされるが、円安によるインフレ圧力が家計を圧迫している事情も、高市政権の支持率押し下げに作用していると考えられよう。
日銀が7月16日に公表した生活意識に関するアンケート調査では、6月調査分で「1年後に物価がかなり上がる」との見方が40.5%と、データ公表を開始した2006年以降で最高となった。
「少し上がる」との合計では90.4%と、こちらも過去最高となる。
物価高の一因は円安と言えるだけに、高市政権は対応を迫られよう。

チャート:日銀の生活意識に関するアンケート、1年後の物価を現在と比較した場合の回答は「かなり上がる」が大幅上昇
チャート:日銀の生活意識に関するアンケート、1年後の物価を現在と比較した場合の回答は「かなり上がる」が大幅上昇

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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