米個人消費と可処分所得、実質は年初来で2回目のマイナスに
米経済の屋台骨といえば、個人消費だ。
その個人消費が、遂に息切れしつつある。
米Q1実質国内総生産(GDP)成長率・改定値は前期比年率1.3%増と、速報値の同1.6%増を下回った。
下方修正の主因は、米経済の約7割を占める個人消費で、速報値の同2.5%増→改定値は同2.0%増に引き下げられた。
米4月個人消費支出も前月比0.2%増と、3カ月ぶりの低い伸びにとどまった。
加えて、インフレを除く実質の個人消費支出も4月は同0.1%減と、年初来で2回目のマイナスに。
実質の可処分所得(税金や社会保険料などを除いた所得で、自分で自由に使える手取り収入)の伸びが前月比0.1%減と2月に続き年初来で2回目の減少となったように、個人消費の源泉となる所得が落ち込み、個人消費を押し下げていた。
チャート:名目ベースの個人消費、個人所得の前月比伸び率と、貯蓄率はそろって4月に低調
チャート:名目ベースと実質ベースの前月比の個人消費、実質は年初来で2回目のマイナス
チャート:可処分所得、名目ベースで前月比0.2%増と5カ月ぶりの低い伸びで、実質ベースは年初来2回目のマイナス
個人消費の減速の背景として、サンフランシスコ連銀が5月に指摘したように、コロナ禍での現金給付で積み上がった余剰貯蓄の取り崩しが挙げられよう。
4月の可処分所得比での貯蓄率は前月に続き3.6%と、引き続き2019年平均の7.4%の約半分程度の水準にとどまる。
その他、90日以上のクレジットカードの延滞率がQ1に10.7%と、2012年以来の高水準だった。
5月29日付けのレポートで、3月と5月のFOMC議事要旨は消費支出の下方リスクを取り上げたと指摘したが、少なくとも4月までの結果を踏まえれば、こうしたリスクが顕在化しつつあると言えよう。
加えて、需要低下が重石となり賃金の伸びも鈍化するだけに、個人消費減速は必至の状況だ。
低所得者層、食費が占める割合は所得の約3割に
個人所得の伸び鈍化は、可処分所得に占める食費の支出が大きい中低所得者層に最も打撃を与えそうだ。
米農務省によれば、可処分所得比の食費(自炊と外食)は2023年に11.2%と、1991年以来の高水準だった。
コロナ禍での供給制約と正常化に揺れた2021年から急伸しており、高インフレが家計を直撃したことが読み取れる。
チャート:可処分所得比での食費、2023年は1991年以来の高水準
米農務省が米国勢調査局の消費支出調査を基に分析したところ、家計を年収ベースで5つに分けた場合、最下位20%の所得に占める食料支出は31.2%だった。
最上位20%の8.0%と、雲泥の差である。
食費以外に家賃を支払う状況を踏まえれば、裁量的支出の余地どころか、生活必需品の支出すら困難になっていたとしてもおかしくない。
なお、米消費者物価指数での食費の値上がりをみると、自炊の場合、コロナ禍直前の2020年2月から24.9%上昇したほか、外食に至っては人件費の高騰もあって26.2%も加速した。
CPI全体の20.8%を上回る。
ファストフード大手は格安メニューを提供、消費者は値上げに「反発」も
食費の高騰が中低所得者層を圧迫するなか、ファストフードチェーン大手は苦肉の策を講じている。
マクドナルドは5月半ば、5ドルセットメニューを6月25日から1ヵ月限定で開始すると発表すると、競合のバーガー・キングも前倒しで数カ月間にわたる5ドルメニューの展開を決定した。
5月21日には、同じくウェンディーズが3ドルの朝食メニューの提供を開始。
ただ、マクドナルドに対しては懐を削って格安メニューを提供するわけではなく、フランチャイズ店や飲料大手コカ・コーラの支援を受ける事情もあって、潜在顧客から批判を浴びており、いかに家計が厳しい状況かを物語る。
同時に、ファストフード大手から、ディスインフレ環境が強まりつつあると言えよう。
5月分の地区連銀報告(ベージュブック)でも、家計の苦悩が読み取れる。
12地区連銀のうち、大半の地区連銀は「消費者がさらなる値上げに反発した」と報告。
また、「小売業者は消費喚起に割引を提供している」とも明記された。
ミネアポリス連銀総裁は5月27日、物価の高止まりを受け利上げの選択肢を持つべきと主張した半面、ニューヨーク連銀総裁は5月31日、金融政策が景気を抑制している「証拠は十分にある」と述べた。
後者は、米国内でのディスインフレの高まりを意識した発言したと捉えられ、年内の利下げ余地を残すものと言えよう。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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