ドル円155円突破!円安の救世主はトランプか

マーケットレポート

ドル円155円を突破、160円への扉が開いたか

ドル円は、まさに「行き過ぎもまた相場」の展開を迎えている。
4月24日のNY時間で、ドル円は約34年ぶりに155円を突破した。
バンク・オブ・アメリカから元財務官まで、155円オーバーで介入を予想していたものの、現時点でそれらしき動きはみられていない。

34年前の1990年といえば、4月にその年の高値160円乗せを実現していた。
介入や日銀の追加利上げといった円安是正対応が不在もしくは不十分ならば、円の一段安は避けられそうもない。

介入と言えば、原資となる外貨準備を確認しておこう。
財務省によれば、3月末時点の外貨準備は約1.29兆ドル。
そのうち、外貨は約9,949億ドルで、155円換算で約154兆円となる。
ただし、全て介入に充てるはずもなく、米大統領選前に米金利を押し上げる米国債の売却を抑え、預金の約1,550億ドル(約24兆円)を中心とした活用が視野に入る。
なお、2022年8月末時点での外貨は約1,360億ドル(約20兆円)のところ、9~10月の介入規模は9兆1,880億円だった。

チャート:日本政府の外貨準備、3月末時点
チャート:日本政府の外貨準備、3月末時点

日本は米国とスワップ協定を結んでおり、これを活用すれば米国債を売却する必要はない。
流動性危機発生時に、自国通貨を預け入れや債券の担保などと引き換えに、予め決まったレートで資金を融通し合う仕組みで、無制限に介入を実施することが可能だ。
ただ、バイデン政権がこれを受け入れれば、文字通り日本政府に介入の「お墨付き」を与えたことになる。
加えて、米大統領選を控えるだけに、米国は自国通貨誘導策と批判されそうな決断を控えるだろう。

介入の規模を考える上では、2015年の貿易円滑化・貿易執行法に基づき、米財務省の為替報告書で為替操作国認定の条件として規定するうちの1つ(後述)、「GDP比2%以上の介入」にも留意すべきだ。
2023年の名目GDPが約591兆円のところ、GDP比2%はざっくり12兆円で、介入規模と予想される。
2022年9~10月の介入時も、名目GDP比2%の約11兆ドルにとどまっていた。

トランプ再選なら転換点?「円安は大惨事」

足元の円安是正には、介入に加え日銀の追加利上げが視野に入る。
今週末25-26日開催の日銀金融政策決定会合は、まさに円安トレンドの方向性を占う上で「決戦は金曜日」となりそうだが、自民党内では円安への危機感は感じられない。
ロイターとのインタビューで、片山さつき政調会長代理は「日銀の追加利上げの判断は慎重に行われるべき」とし、消費下支え策での対応が一案と言及。
衆議院議員の越智隆雄氏も、同じくロイターに対し、円安にメリット・デメリットが存在するため「党内で水準の議論はそれほど盛んではない」とし、急速に160円へ振れれば対応が迫られうると述べていた。
9月の自民党総裁選を控え、夏頃の解散総選挙が意識されるなか、円安より金利上昇回避に軸足を置いているかのようだ。

いずれにしても介入効果は不透明であり、日銀の追加利上げも早くて7月と予想され、即効性が高い円安への対応策が見当たらないのが現状と言わざるを得ない。
そこへ突如、「円安は大惨事」と物申したのがトランプ前大統領だ。
麻生副総裁と会談する前日の4月23日、自身が立ち上げた保守系ソーシャル・ネットワークのトゥルース・ソーシャルにて、米国の製造業が自国通貨安の「賢明な国」に奪われるとし、日本と中国を並べ猛批判を展開。
バイデン大統領に対しても「放置している」と槍玉に挙げた。
トランプ氏が再選されるなら、3月の本レポートで指摘したように、ドル高よりドル安への転換が予想され、対円にも波及しそうだ。

トランプ氏、「円安は大惨事」と怒りの投稿
画像:トランプ氏、「円安は大惨事」と怒りの投稿(出所:トゥルース・ソーシャル)

これは、激戦7州のうち製造業州が集まるラストベルトの3州、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンでの支持獲得を狙った投稿とも受け止められる。
これら3州の選挙人数は合わせて44人。
その他のノースカロライナ、ジョージア、アリゾナ、ネバダ4州での世論調査ではトランプ氏が優勢なだけに、ラストベルト3州のうち2州でも勝利すれば、再選への可能性が一段と高まる。

とはいえ、トランプ氏の「円安は大惨事」コメントが選挙戦のポーズかというと、過小評価すべきではないだろう。
トランプ前政権時に公表された為替報告書では、2019年5月から、為替操作国認定の3条件にある①当該国の対米貿易黒字が200億ドル超(※2021年にバイデン政権が150億ドル超へ変更)、②経常黒字が当該国GDP比3%超、③為替介入額が当該国GDP比2%超――だが、2019年から、このうち2つが該当する「監視国」が増え、自国通貨安誘導への対応を強化させた。

それまでは日本を始め中国、台湾、韓国、ドイツ、スイスの5カ国・地域だったが、2018年4月にインドを加え、2019年5月にはイタリアやアイルランド、シンガポール、マレーシア、ベトナムなどを加え9カ国へ広げた。
何より、2019年8月には、対中追加関税を課す傍らで、3条件のうち①しか該当していない中国を「為替操作国」と認定、米中第1段階貿易合意の成立に合わせ、2020年12月に解除した。

チャート:為替報告書で指定された「監視対象国・地域」と、「為替操作国・地域」 注①※は為替操作国認定の国

チャート:為替報告書で指定された「監視対象国・地域」と、「為替操作国・地域」

翻って日本は当時、ドル円が下落していたため、通貨安で真っ向から批判を浴びていなかった。
むしろ、トランプ大統領と安倍首相(当時)の蜜月関係を通じ、インド太平洋での協力体制を構築していった時期に当たる。
日本に対中追加関税のような発動は想定しづらいが、仮にトランプ再選となれば、バイデン政権下で除外された為替報告書で再び「監視リスト入り」が視野に入る。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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