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米国雇用統計で取引を行う際の注意点を現役トレーダー志摩力男氏が徹底解説


米雇用統計発表時、結果の発表を見て売買するとき、どういったことに気をつければ良いでしょうか。

多くのトレーダーは、事前予想の数字と実際に発表される結果を比較して、数字が良い場合はドル買い、悪い場合はドル売りで反応することが多いと思われます。
事前予想よりも結果が良ければ、米国経済が想定されている以上に好調です。

しかし、実際に売買すると、事前予想よりも良い数字なのに結果的にドルが下がってしまう場合もあります。

また、非農業部門雇用者数の結果と、失業率の結果が相反する場合もあります。
その場合は、どのように対処すべきなのでしょうか。

実際に、過去1年の雇用統計の結果を見て、ドル円相場が実際にどのように動いたか、比較してみます。

 
米雇用統計
(2022年)
非農業部門雇用者数
(千人)
失業率
(%)
ドル円の動き
結果 予想 結果 予想 発表前 終値 変化率
1月(2/4/22) 467 125 342 4 3.9 0.1 114.9 115.14 0.21%
2月(3/4/22) 678 423 255 3.8 3.9 -0.1 115.39 114.74 -0.56%
3月(4/1/22) 431 490 -59 3.6 3.7 -0.1 122.57 122.54 -0.02%
4月(5/6/22) 428 381 47 3.6 3.5 0.1 130.35 130.53 0.14%
5月(6/3/22) 390 326 64 3.6 3.5 0.1 130.11 130.81 0.54%
6月(7/8/22) 372 264 108 3.6 3.6 0 135.8 136.04 0.18%
7月(8/5/22) 528 249 279 3.5 3.6 -0.1 133.22 135.02 1.35%
8月(9/2/22) 315 300 15 3.7 3.5 0.2 140.49 140.14 -0.25%
9月(10/7/22) 263 264 -1 3.5 3.7 -0.2 144.91 145.36 0.31%
10月(11/4/22) 261 191 70 3.7 3.6 0.1 147.77 146.65 -0.76%
11月(12/2/22) 263 202 61 3.7 3.7 0 134.1 134.31 0.16%
12月(1/6/23) 223 201 22 3.5 3.7 -0.2 134.72 132.1 -1.94%

2022年を例に見ると、1月の結果は、翌月(2月)の第1週の金曜日に発表されました。
カッコ内が実際に発表された日です。

表内で事前予想よりも結果が良い場合は枠内を緑に、結果が悪い場合は枠内が赤にしています。
ドル円の動きについては、ドルが上昇した場合は緑、下落した場合は赤にしています。

表をみてみると、非農業部門雇用者数の結果と失業率の結果が食い違うケースがあることがわかります。
過去1年間、12回のうち6回の結果が食い違っています。

非農業部門雇用者数と失業率の結果が同じケースは2月、6月(失業率の結果が予想と同じケースも含む)、7月、11月、12月。
9月は非農業部門雇用者数の結果が事前予想をわずか千人下回りましたが、これをほぼゼロと考えれば、失業率が改善しているので、ドルに対してポジティブ(良い)ケースと認定することは可能でしょう。

6月、7月、9月、11月は、非農業部門雇用者数、失業率ともに良好で、ドルも上昇しました。
しかし、2月と12月は、結果がポジティブ(良い)だったにも関わらず、ドル円は下落しました。

非農業部門雇用者数と失業率の結果が食い違うケースは6回あり、1月、4月、5月は良好な非農業部門雇用者数の結果通りにドル円が上昇しています。
8月、10月は逆に、失業率の結果とドル円の方向が一致しています。
3月はドル円がほとんど動いていないので、判定不能とします。

この結果から、5回中3回非農業部門雇用者数に軍配が上がっているので、一般的に、両者の結果が違う場合は非農業部門雇用者数の方に従うべきなのかもしれません。

次に、個々のケースを見てみます。

2022年1月(発表 2022年2月4日)

  • 非農業部門雇用者数 46.7万人(予想 12.5万人)
  • 失業率 4.0%(予想 3.9%)
  • ドル円 少し上昇 114.90円⇒115.14円(+0.21%)

直前のADP雇用統計が-30.1万人と非常に悪い数字だったので、多くの人が悪い数字を予想していました。
また、コロナウィルスの中でも感染力の強いオミクロン株が蔓延し始めたときで、実際の雇用増がどの程度になるか、検討がつかない状況でした。

こうした中で、実際の結果は46.7万人と非常に良好な数字が発表されました。
前月の数字も19.9万人から51.0万人に上方修正。
当然、マーケットはポジティブに反応します。平均時給も高く、労働参加率も上昇しました。

2022年2月(発表 2022年3月4日)

  • 非農業部門雇用者数 67.8万人 (予想42.3万人)
  • 失業率 3.8%(予想 3.9%)
  • ドル円 下落 115.39円⇒114.74円(-0.56%)

非常に良好な数字にも関わらず、ドル円は大きく下落しました。
ただ、理由は明確です。
結果発表が3月4日であることからわかるように、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が理由です。
2月24日が軍事侵攻開始の日でした。
それからわずか8日後の雇用統計、混乱は必死でした。

当日、私自身が書いた記録を見ると、「本日雇用統計だが、ほとんど注目されていない」「米雇用統計は誰も見ていなかった。
もう金利の1-2%など、どうでも良くなっている」とあります。
雇用統計がどのような数字でも、リスクオフの円買い(ドル売り)が起こると考えていたようでした。

2022年3月(発表 2022年4月1日)

  • 非農業部門雇用者数 43.1万人(予想 49万人)
  • 失業率 3.6%(予想 3.7%)
  • ドル円 ほとんど変わらず。122.57円⇒122.54円(-0.02%)

非農業部門雇用者数は事前予想に届かなかったものの、前月、前々月の数字が以下のように上方修正され、それらを考慮すると、ほぼ事前予想と同じ雇用増とみなせます。

1月非農業部門雇用者数 48.1万人⇒50.4万人
2月非農業部門雇用者数 67.8万人⇒75.0万人

過去2回の非農業部門雇用者数は修正されるので、修正された数字も含めて考える必要があります。

この結果は、非常に良いものでした。
しかしながら、ドルはほとんど上昇しませんでした。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、最初はリスクオフの円買いが進んだのですが、(クロス円は下がったものの)ドル円は下がらず、3月13日以降は、資源価格の高騰が日本の貿易赤字を拡大するとの懸念から、強烈な円売りドル買い相場が始まりました。

4月2日時点では、ドル円があまりにも買われ過ぎだったので、息切れしたものと思われます。
とは言え、それ以降も強いドル上昇相場が続きました。

ドル円があまりにも買われ過ぎだったので、息切れした状態

2022年4月(発表 2022年5月6日)

  • 非農業部門雇用者数 42.8万人(予想 38.1万人)
  • 失業率 3.6%(予想 3.5%)
  • ドル円 ほとんど変わらず。130.35円⇒130.53円(+0.14%)

このときの雇用統計も内容を見ると非常に良かったと思います。
ただ、前回同様、あまりにもドルが買われ過ぎていて、上昇相場の中の調整局面に入っていました。
事実、5月はこのときから月末に向け4円ほどドル円が下落しました。つまり、あまりにも買われすぎだったので、調整が必要です。

2022年5月(発表 2022年6月3日)

  • 非農業部門雇用者数 39.0万人(予想 32.6万人)
  • 失業率 3.6%(予想 3.5%)
  • ドル円 上昇 130.11円⇒130.81円(+0.54%)

引き続き、予想を上回る強い数字で、ドル円も素直に上昇。
ADP雇用統計が悪い数字(12.8万人)だったので、米雇用統計も悪いかもしれないとの観測がありましたが、強い数字に素直にドル買いになりました。
ADP雇用統計は、この後、予測の方法を調整するとして3ヶ月発表中止となりました。

2022年6月(発表 2022年7月8日)

  • 非農業部門雇用者数 37.2万人(予想 26.4万人)
  • 失業率 3.6%(予想 3.6%)
  • ドル円 あまり変わらず。135.80円⇒136.04円(+0.18%)

内容的には依然として、良い内容。上昇トレンドの中で、ドルが買われすぎ状態だったこともあり、数字に反応して(勢いのある)ドル上昇とはならなかったように見えます。

2022年7月(発表 2022年8月5日)

  • 非農業部門雇用者数 52.8万人(予想 24.9万人)
  • 失業率 3.5%(予想 3.6%)
  • ドル円 力強く上昇。133.22円⇒135.02円(+1.35%)

数字の内容を好感し、ドル円上昇。
事前に大きめの調整があり、ドル円も上がりやすかったといえます。
この頃から、雇用統計等ではドルが上がり、米CPIの結果でドルが下がるというパターンが出てきたように見えます。
消費者物価指数のピークを探る動きが見え始めました。

2022年8月(発表 2022年9月2日)

  • 非農業部門雇用者数 31.5万人(予想 30.0万人)
  • 失業率 3.7%(予想 3.5%)
  • ドル円 あまり動かず。140.49円⇒140.14円(-0.25%)

ドル円はあまり動かず。
平均時給が予想5.3%のところ5.2%と改善したことが、ドルの頭を抑えました。

2022年9月(発表 2022年10月7日)

  • 非農業部門雇用者数 26.3万人(予想 26.4万人)
  • 失業率 3.5%(予想 3.7%)
  • ドル円、あまり動かず。144.91円⇒145.36円(+0.31%)

比較的良好な数字に、ドル円は堅調でしたが、9月22日に初のドル売り介入実施後とあって、市場には介入への警戒感が高まりはじめていました。

2022年10月(発表 2022年11月4日)

  • 非農業部門雇用者数 26.1万人(予想 19.1万人)
  • 失業率 3.7%(予想 3.6%)
  • ドル円 やや下落。147.77円⇒146.65円(-0.76%)

予想より良い非農業部門雇用者数でしたが、10月22日に2回目のドル円介入があり、介入への警戒感が高まっていました。
そのため、ドル円は良好な雇用統計の数字に反応できずに、下落するだけに終わりました。

2022年11月(発表 2022年12月2日)

  • 非農業部門雇用者数 26.3万人(予想 20.2万人)
  • 失業率 3.7%(予想 3.7%)
  • ドル円 変わらず 134.1円⇒134.31円(+0.16%)

ドル円の動きは、雇用統計前とあと、あまり変わっていないように見えますが、一時136円まで上昇。
上値を維持できず下がりました。

2022年12月(発表 2023年1月6日)

  • 非農業部門雇用者数 22.3万人(予想 20.1万人)
  • 失業率 3.5%(予想 3.7%)
  • ドル円 下落 134.72円⇒132.1円(-1.94%)

前回の解説記事で取り上げましたが、平均時給への関心が高く、賃金上昇が沈静化したことを確認すると、ドル円は売られました。

まとめ

こうしてみてみると、発表される数字に反応する部分もありますが、全体の流れに沿った動きとなるケースが大半であることがわかります。
単純に雇用統計の結果の良い悪いにとらわれず、相場全体の流れを見て取引の判断すべきでしょう。

記事執筆者:志摩力男(しまりきお)

慶應義塾大学経済学部卒。
ゴールドマン・サックス、ドイツ証券などの大手金融機関でプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任。
その後、香港でマクロヘッジファンドマネージャーを務める。
独立後も世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍中。


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