欧州中央銀行(ECB)は日本時間10月29日22時15分に理事会の結果を公表し、政策金利の中銀預金金利を2.50%で据え置くことを決めました。据え置きは市場予想通りです。声明では、エネルギー価格の上昇が続き、物価の上振れと景気の下振れのリスクになっていると指摘したうえで、前回の理事会以降に金融環境が引き締まったことにも触れました。また、ECBは同じ日に、ラガルド総裁が2027年2月7日に退任すると発表しました。その後の会見で、ラガルド総裁は、理事会で利上げの是非を議論したうえで全会一致で据え置いたと説明し、慎重な姿勢が現時点では適切だと述べました。12月の利上げについては明言を避けています。本記事では、声明と会見の要点を整理したうえで、今後のユーロドル(EUR/USD)とユーロ円(EUR/JPY)の見通しを解説します。
結果ハイライト
発表直後の市場の反応
- ユーロドル(EUR/USD):発表前1.1130近辺 → 発表直後に1.1104まで下落(発表15分後:1.1124近辺)→ 会見中に1.1156まで上昇
- ユーロ円(EUR/JPY):発表前175.93円近辺 → 22時40分に175.44円まで下落 → 会見中に176.15円まで上昇
- ドル円(USD/JPY):22時15分の158.06円近辺から22時39分に157.71円まで下落し、23時30分ごろは157.85円近辺(21時30分の米GDP速報値の発表後の流れを含む)
結果公表と会見前後のユーロドル(EUR/USD)1分足の値動き
ユーロドルは結果公表直前の1.1130近辺から、公表直後に売られ、22時19分に1.1104まで下落しました。2025年5月以来の安値です。その後は1.11台前半でもみ合い、会見が始まった22時45分時点では1.1119近辺でした。会見が進むにつれて買い戻しが進み、23時28分には1.1156まで上昇して、結果公表前の水準を上回っています。
結果公表と会見前後のユーロ円(EUR/JPY)1分足の値動き
ユーロ円は結果公表直前の175.93円近辺から下落し、ドル円の下落も重なって、22時40分には175.44円まで値を下げました。会見中はユーロドルと同様に買い戻され、23時24分には176.15円まで上昇しています。
10月ECB理事会の結果の詳細
政策金利:6月・9月の利上げ後、今回は据え置き
ECBは、物価高への対応として2022年7月から利上げを続け、2023年9月に中銀預金金利を4.00%まで引き上げました。その後は物価の落ち着きを受けて2024年6月から利下げに転じ、2025年6月に2.00%まで下げた後は据え置いていました。2026年に入ると、中東情勢を受けたエネルギー価格の上昇で物価が再び加速し、6月と9月に0.25%ずつ利上げしています。今回の声明では、エネルギー価格の上昇が物価の上振れと景気の下振れの両方のリスクになっていることに加え、前回の理事会以降に金融環境が引き締まり、物価と景気を押し下げる方向に働くとの見方を示しています。
声明の要点
今回の声明の主な内容は以下の通りです。
- 主要3金利を据え置き(中銀預金金利2.50%・主要リファイナンス・オペ金利2.65%・限界貸出金利2.90%)。前回の理事会以降に金融環境が引き締まっており、物価と景気の重しになるとの見方を示した
- 物価:エネルギー価格の上昇が続き、インフレ見通しの上振れリスクになっている。エネルギーショックの規模と期間が大きくなっており、間接的な影響や二次的な影響を通じて物価を押し上げる可能性が高い。一方、基調的なインフレはこれまでおおむね安定し、賃金にも現時点で目立った反応は出ていない
- 景気:エネルギー価格の上昇は成長見通しの下振れリスクで、成長を押し下げる可能性が高い
- 先行き:「データ次第で会合ごとに判断し、特定の金利経路を事前に約束しない」との方針を維持。物価が中期的に2%で安定するよう、すべての手段を調整する用意がある
9月の声明と比べると、先行きの方針の文言は変わらず、12月の利上げを示唆する表現も、否定する表現も盛り込まれませんでした。目を引くのは、前回の理事会以降に金融環境が引き締まったとの指摘です。フランス国債の利回り上昇などで市場金利が上がったことが、利上げと同じような引き締めの効果を持つとの見方とも受け取れます。TPI(伝達保護措置)については、9月と同じく、無秩序な市場の動きに対して使える状態にあると記しました。
ラガルド総裁が2027年2月7日に退任へ
ECBは理事会の結果と同じ29日に、ラガルド総裁が2027年2月7日に退任すると発表しました。ラガルド総裁は理事会と欧州理事会のコスタ議長に退任の意向を伝え、後任は欧州連合(EU)の条約に定める手続きに沿って、欧州理事会が任命します。2019年11月に就任したラガルド総裁の任期は2027年10月まででしたが、任期満了を待たずに退任することになります。後任の人選については、2027年春のフランス大統領選挙の前に決める時間を確保するため、早めに退任時期を示したとの見方も報じられています。後任の人選によってはECBの政策姿勢への見方が変わる可能性もあり、市場の関心を集めそうです。
ラガルド総裁の会見の要点
会見での主な発言は以下の通りです。
- 今回の理事会では利上げが適切かどうかを議論した。不確実性が高く、基調的なインフレが変わっていないことから、全会一致で据え置きを決めた
- 慎重なアプローチが現時点では適切。データ次第で会合ごとに判断し、特定の金利経路を事前に約束しない(12月の利上げについては明言せず)
- エネルギー価格の上昇による間接的な影響は強まっている。一方、見通しに織り込んだ以上の二次的な影響(賃金などへの波及)のリスクはみていない
- 長期の資金調達コストは9月と比べて明らかに上昇した。金利が全般に上がり、株価は下落しており、金融環境は前回の理事会以降に引き締まった
- エネルギー価格は9月のスタッフ見通しの前提を上回って上昇しており、総合のインフレ率は今後数四半期、目標を大きく上回る見込み。その後はエネルギー価格の上昇率の低下と利上げの効果で目標に戻る
- 景気は7-9月期も拡大が続いたとみられる。AI関連の投資や、インフラ・防衛への政府支出が支えになる一方、エネルギー高で消費者の心理が悪化し、資金調達コストの上昇も成長の重しになる
利上げを議論したと明かした点はタカ派(引き締めに前向き)的とも受け取れますが、全会一致での据え置きと「慎重なアプローチが適切」との発言、金融環境の引き締まりへの言及から、結果公表直後は12月の利上げを急ぐ姿勢ではないと受け止められ、ユーロが売られました。ただ、会見中にユーロは買い戻され、ユーロドルは結果公表前の水準を上回っています。
ユーロ圏の物価と景気
ECBが利上げを再開した背景には、エネルギー価格の上昇による物価の再加速があります。9月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は以下の通りです。
※ 表は横にスクロールできます →
| 項目(前年比) | 9月 | 8月 |
|---|---|---|
| 総合 | 3.8% | 3.2% |
| コア(エネルギー・食品・アルコール・たばこを除く) | 2.5% | 2.4% |
| サービス | 3.2% | 3.0% |
| エネルギー | 18.9% | 14.3% |
出所:欧州連合統計局(ユーロスタット)
総合はエネルギーに押し上げられて3.8%まで加速した一方、コアは2.5%とECBの目標の2%をやや上回る水準にとどまっています。ECBが9月に公表したスタッフ見通しでは、総合のインフレ率は2026年が3.0%、2027年が2.5%、2028年が2.1%と、2%に戻るまでに時間がかかる見方が示されました。コアは2027年に2.6%とむしろ高まる見通しで、エネルギー高が他の品目に広がることへの警戒がうかがえます。成長率は2026年が0.9%と低めの見通しです。今回はスタッフ見通しの公表がなく、次回の改定は12月の理事会です。
フランス国債の利回り上昇
10月に入ってからは、フランスの財政・政治をめぐる不安から仏国債の利回りが上昇し、ドイツ国債との利回り差が広がりました。ユーロドルは9月初めの1.17台から10月下旬には1.11台まで下落しており、ECBが利上げを続けているにもかかわらずユーロが売られる展開になっています。今回の会見では、長期の資金調達コストが9月より明らかに上昇したと述べ、会見の冒頭説明でも「財政の不確実性が金融環境をさらに引き締め、消費や投資を弱める可能性がある」と下振れリスクに挙げました。一方、フランスを名指しした対応や、TPI(伝達保護措置)の発動に前向きな姿勢は示されていません。
12月の利上げ観測
理事会前の報道では、12月理事会での利上げ(2.75%へ)は6〜8割程度織り込まれているとされていました。今回の声明が金融環境の引き締まりに触れたことから、市場には「ECBは想定ほど利上げを急がなくてよい」とのややハト派的な受け止めも出ており、ユーロドルは結果公表後に1.1104まで下げ、2025年5月以来、約1年5カ月ぶりの安値を付けました。ただ、ラガルド総裁は今回も利上げを議論したと明かしており、12月の利上げの可能性が消えたわけではありません。12月理事会で改定されるスタッフ見通しで、エネルギー高による物価の上振れがどこまで示されるかが判断の鍵になりそうです。次の材料は、ユーロ圏の10月のHICP速報値と、12月理事会で示されるスタッフ見通しです。
今後のユーロドル(EUR/USD)の見通し
ユーロドルは会見後、1.1150近辺で推移しています。1時間足では、ボリンジャーバンドの中心線(1.1145)を上回り、上限(1.1161)付近まで戻しています。米国では29日未明のFOMCで政策金利が据え置かれ、ウォーシュFRB議長が12月の利上げに含みを残したほか、同日夜には米GDP速報値も発表されており、ECBとFRBの12月の判断の違いがユーロドルの方向を左右しやすい地合いです。
日足では、ユーロドルは21日移動平均線(1.1201)を下回り、75日線(1.1432)と200日線(1.1561)も上にあって、下向きの流れが続いています。RSI(14)は36と、売られ過ぎの目安とされる30には達していません。上値の目安は21日線の1.1200付近、下値の目安はきょうの安値の1.1104と、心理的な節目の1.1100です。
会見後(10月29日23時25分時点)のOANDAのユーロドルのオーダーブックでは、オープンオーダー(未約定注文)は買いが38.85%、売りが61.15%です。現在値の上では1.1170〜1.1180に売り指値が厚く、上値の抵抗として意識されやすい一方、1.1160〜1.1175には買いの逆指値も集まっており、上抜けると買いが加速する可能性があります。下では1.1100に買い指値と売りの逆指値がともに厚く、この水準を割り込むと売りが加速しやすい配置です。
オープンポジションはロング62.3%、ショート37.7%と買いに偏っています。現在値より上に含み損のロング(42.88%)が多く、戻り局面では買値付近で手放す売り(やれやれ売り)が出やすい一方、1.1100を割り込めば、ロングの投げ売りで下げが加速しやすい状態です。
直近1週間の通貨強弱では、ユーロは8通貨中7位と弱く、米ドルは3位です。ユーロと米ドルの差は−6.61と、28日15時に付けたこの1週間の最小(−8.03)に近く、ユーロ安・ドル高の状態が続いています。
今後のユーロ円(EUR/JPY)の見通し
ユーロ円は会見後、176.00円近辺で推移しています。1時間足ではボリンジャーバンドの中心線(175.95円)を上回り、上限(176.23円)に近づいています。円サイドでは、あす30日8時30分に10月の東京都区部CPI、昼ごろに日銀会合の結果発表を控えており、日銀が12月の利上げに向けた地ならしを進めれば円買い、慎重な姿勢と受け止められれば円売りに傾きやすい状況です。
日足では、ユーロ円は21日移動平均線(176.91円)を下回り、75日線(181.09円)と200日線(183.25円)も上にあって、下向きの流れが続いています。RSI(14)は37です。上値の目安は21日線の176.90円付近と売り指値が厚い177.00円、下値の目安は買い指値が厚い175.00円です。
会見後(10月29日23時25分時点)のOANDAのユーロ円のオーダーブックでは、オープンオーダー(未約定注文)は買いが45.93%、売りが54.07%です。現在値の上では177.00円に売り指値が厚く、176.40円付近には買いの逆指値が集まっており、上抜けると買いが加速する可能性があります。下では175.00円に買い指値が厚い一方、175.30円付近に売りの逆指値が集まっています。
オープンポジションはロング60.1%、ショート39.9%と買いに偏っています。現在値より上に含み損のロング(42.93%)が多く、戻り局面ではやれやれ売りが出やすい一方、175.30円を割り込むと、ロングの投げ売りで下げが加速しやすい状態です。
まとめ
- ✓ECBは10月理事会で中銀預金金利を2.50%で据え置き。市場予想通り。声明はエネルギー高による物価の上振れリスクと、金融環境の引き締まりを指摘。ラガルド総裁は2027年2月7日に退任へ
- ✓ラガルド総裁は会見で、利上げも議論したうえで全会一致で据え置いたと説明。慎重なアプローチが適切とし、12月の利上げは明言せず。長期の資金調達コストの上昇にも言及
- ✓9月のユーロ圏HICPは総合3.8%・コア2.5%。エネルギー高による物価の再加速が利上げ再開の背景。12月理事会でスタッフ見通しが改定される
- ✓12月の利上げの可能性は残る一方、市場には利上げを急がないとの受け止めも。オーダーブック上の目安は、ユーロドルが上値1.1170〜1.1180・下値1.1100、ユーロ円が上値177.00円・下値175.00円。30日は東京都区部CPIと日銀会合に注目
▶ 同じ日に発表された米GDP速報値の解説はこちら:米GDP速報値(7-9月期)の結果とドル円・ゴールドの見通し
▶ あす30日の日銀会合の注目点はこちら:日銀会合(2026年10月)予想と注目点
Published by
OANDA Lab編集部
OANDA証券株式会社が運営する「OANDAラボ」は、FX/CFDを統計学的側面で科学するメディアです。外国為替(FX)や世界の株価指数、金や原油などの商品市場に関するマーケット情報やデータ、ニュースを提供しています。
会社名:OANDA証券株式会社
所在地:東京都千代田区平河町1-3-13 CIRCLES平河町 10階
加入協会:一般社団法人金融先物取引業協会 / 日本証券業協会 / 日本商品先物取引業協会
登録番号:第一種 金融商品取引業 関東財務局長 (金商) 第2137号
問い合わせ先:お問い合わせフォームから
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。
