欧州連合統計局(ユーロスタット)が日本時間11月4日(水)19時に発表した10月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)速報値は、前年比4.0%と、9月の3.8%から伸びが高まりました。市場予想(4.0%)と一致し、2023年9月以来、約3年ぶりの高い伸びです。エネルギーが前年比20.8%と押し上げ役になった一方、エネルギーや食品などを除いたコアは2.5%と前月から変わらず、市場予想と一致しました。国別では、イタリアが5.6%へ大きく伸びを高めた一方、ドイツは2.8%へ鈍り、ユーロ圏の中で物価の温度差が広がっています。本記事では、HICPの中身をグラフと地図で掘り下げたうえで、12月の欧州中央銀行(ECB)理事会への影響と、今後のユーロドル(EUR/USD)とユーロ円(EUR/JPY)の見通しを解説します。
今回のユーロ圏HICPを3行でいうと
総合は4.0%、約3年ぶりの高さ
うち約1.9ポイントはエネルギーの押し上げ(当社試算)
コアは2.5%で横ばい
エネルギー高がほかの品目へ広がる動きはまだ限られる
国ごとの差が拡大
イタリア5.6%・ドイツ2.8%。ユーロは発表後も小動き
結果ハイライト
主な項目の一覧
主な項目の結果(前年比)は以下の通りです。市場予想と比べた結果は、予想の欄の札で示しています。
| 項目 | 10月 | 9月 | 予想 |
|---|---|---|---|
| 総合 | 4.0% | 3.8% | 4.0% 一致 |
| コア | 2.5% | 2.5% | 2.5% 一致 |
| エネルギー | 20.8% | 18.9% | ― |
| 食品・アルコール ・たばこ | 1.6% | 1.3% | ― |
| うち未加工食品 | 4.6% | 4.0% | ― |
| 工業製品 (エネルギー除く) | 1.2% | 1.1% | ― |
| サービス | 3.3% | 3.2% | ― |
| 総合の前月比 | 0.4% | 0.6% | ― |
| コアの前月比 | 0.3% | 0.2% | ― |
出所:ユーロスタット(10月は速報値)。市場予想はOANDA経済指標カレンダー。コアはエネルギー・食品・アルコール・たばこを除く総合
発表直後の市場の反応
発表前後のユーロドル(EUR/USD)1分足の値動き
ユーロドルは発表直前の1.1257近辺から大きくは動かず、発表後しばらくは1.1260前後でもみ合いました。総合・コアとも予想通りで、新しい材料にはなりにくかったとみられます。19時26分に1.1265まで上昇した後、19時28分ごろから売りに押され、19時44分には1.1245まで下げています。20時時点は1.1247近辺です。
発表前後のユーロ円(EUR/JPY)1分足の値動き
ユーロ円も発表直前の178.32円近辺から大きな動きはなく、19時半ごろにユーロドルと同じタイミングで178.16円まで下げた後、20時には178.31円近辺まで戻しました。発表前後の値幅は、ユーロドルが約20ポイント(0.0020ドル)、ユーロ円が約20銭にとどまっています。
10月ユーロ圏HICPの結果の詳細
総合は約3年ぶりの4%台、コアは2.5%で落ち着く
総合の前年比は、2022年10月の10.6%をピークに低下し、2025年後半には2%前後まで落ち着いていました。流れが変わったのは2026年3月で、中東情勢を受けたエネルギー価格の上昇で総合は再び上向き、10月には4.0%まで高まっています。一方、コアは2026年に入ってからも2.2〜2.6%の狭い範囲で推移しており、10月も2.5%と前月から変わりませんでした。総合とコアの差は1.5ポイントと、エネルギー高が総合を押し上げている構図がはっきり表れています。
4.0%のうち約1.9ポイントがエネルギー
総合の伸びを項目ごとに分けると、10月はエネルギーが約1.88ポイント、サービスが約1.55ポイント、エネルギーを除く工業製品と食品・アルコール・たばこがそれぞれ約0.30ポイントです(当社試算)。2025年はエネルギーが総合をわずかに押し下げていましたが、2026年3月以降は押し上げに転じ、9月からはエネルギーの寄与がサービスを上回っています。ウエート(消費全体に占める割合)が約9%にすぎないエネルギーが、総合の伸びの半分近くを生んでいる計算です。裏を返せば、エネルギーを除いた総合は2.3%にとどまっています。
用語メモ
HICP(統合消費者物価指数)は、EUの共通の基準で作る消費者物価指数です。各国の物価を同じ物差しで比べられるのが特徴で、ECBは「HICPの前年比2%」を物価の目標にしています。持ち家の帰属家賃(持ち家を借家とみなした家賃)は含みません。
速報値は、対象月の月末か翌月初めにユーロスタットが出す見込みの数字で、主な項目と国別の総合だけが公表されます。品目ごとの細かい数字を含む確報値は、10月分は11月18日に公表される予定です。
寄与度は、全体の伸びのうち、それぞれの項目がどれだけを占めるかを示す数字です。本記事では「その年のウエート×項目の前年比」で概算しています。
項目別:エネルギーと未加工食品が加速、サービスもじわり
項目別では、エネルギーが20.8%と9月(18.9%)から伸びを高め、2022年12月以来の高さになりました。ただ、前月比は1.4%と、9月の4.0%から上昇の勢いが弱まっています。前年比が高まったのは、前年の10月にエネルギー価格が前月比0.2%下がっていたことの影響もあります。食品・アルコール・たばこは1.6%(9月1.3%)で、このうち天候などで値動きの大きい未加工食品が4.6%と高めです。エネルギー高による輸送や加工のコスト増が、食品の価格に表れ始めている可能性もあります。
サービスは3.3%(9月3.2%)、エネルギーを除く工業製品は1.2%(同1.1%)と、いずれも小幅な加速にとどまりました。ラガルドECB総裁は10月の会見で、エネルギー高の間接的な影響(ほかの品目への価格転嫁)は強まっている一方、賃金などへの二次的な影響は見通しに織り込んだ以上には出ていないと説明しています。今回のコアやサービスの数字は、この見方とおおむね合っています。
前月比で見た勢い:10月のサービスは近年で高め
HICPの前月比は季節によるくせが大きいため、過去の同じ10月と比べると勢いがつかみやすくなります。主な項目の10月の前月比は以下の通りです。
| 10月の前月比 | 24年 | 25年 | 26年 |
|---|---|---|---|
| 総合 | 0.3% | 0.2% | 0.4% |
| コア | 0.2% | 0.3% | 0.3% |
| サービス | 0.0% | 0.1% | 0.2% |
| 工業製品※ | 0.7% | 0.5% | 0.6% |
| エネルギー | 0.4% | ▲0.2% | 1.4% |
出所:ユーロスタット(季節調整前、2026年は速報値)。※工業製品はエネルギーを除く
コアの前月比0.3%は、前年の10月と同じ伸びで、前年比が2.5%で変わらなかったことと整合的です。目を引くのはサービスで、10月の前月比0.2%は、2019年以降の10月では最も高い伸びです。1か月だけで判断はできませんが、サービスの値上げの勢いが今後も続くかどうかは、ECBが最も気にする点の一つです。
国別のHICP:イタリアは5.6%、ドイツは2.8%
ユーロスタットの速報は、ユーロ圏21か国の総合の前年比も公表しています。2026年1月にブルガリアが加わり、ユーロ圏は21か国になりました。10月は21か国すべてで、伸びがECBの目標の2%を上回っています。
地図で見ると、南欧と東欧で色の濃い国が目立ちます。伸びが最も高いのはリトアニアの6.1%で、ブルガリア(6.0%)、ギリシャとイタリア(ともに5.6%)が続きます。一方、ユーロ圏で経済規模が最も大きいドイツは2.8%と、マルタ(2.3%)に次いで低い伸びでした。フランスは3.8%と、ユーロ圏全体(4.0%)に近い水準です。
伸びの高い国・低い国と、前月からの変化が大きい国は以下の通りです。
伸びの高い国
伸びの低い国
前月から上昇
前月から低下
出所:ユーロスタット(前年比、10月は速報値)。前月から低下の「スペインなど4か国」はスペイン・オーストリア・マルタ・スロバキア。前月から上昇はベルギーとフィンランドが同率2位
ユーロ圏の0.2ポイント上昇はイタリアから
ユーロ圏全体の前年比は3.8%から4.0%へ0.2ポイント高まりました。これを国ごとに分けると、イタリアだけで約0.22ポイントの押し上げになり、フランス(約0.07ポイント)やベルギー(約0.03ポイント)が続きます(当社試算)。一方、ユーロ圏の約3割を占めるドイツは、伸びが0.5ポイント鈍ったことで約0.14ポイントの押し下げ要因になりました。ドイツの鈍化を、イタリアの急加速が打ち消して余りあった計算です。
主要4か国の動き:イタリアが急伸、ドイツは鈍化
イタリア国家統計局の10月30日の速報によると、イタリアのHICPは前月比1.2%と大きく上昇しました。主な要因はエネルギーで、電気・ガスなど料金が規制されたエネルギーの前年比は59.5%(9月25.8%)、規制のないエネルギーは29.4%(同22.5%)へ伸びを高めています。規制料金のエネルギーは10月の1か月だけで18.8%上がっており、卸売価格の上昇が料金の改定を通じて遅れて表れた可能性があります。未加工食品も7.5%(同5.5%)と伸びを高めました。
ドイツ連邦統計局の10月30日の速報では、ドイツのHICPは前年比2.8%(9月3.3%)、前月比▲0.1%でした。エネルギーの伸びが12.2%(9月14.9%)とやや鈍ったほか、食品とエネルギーを除くコアも2.1%(9月2.4%)へ下がっています(いずれもドイツの国内基準の消費者物価指数)。ユーロ圏で最大の経済で物価の伸びが落ち着いてきたことは、ECBの利上げを急ぐ理由を弱める材料にもなり得ます。
スペインは4.9%(9月5.0%)と高い水準ながら横ばい圏、フランスは3.8%(同3.4%)と伸びを高めました。財政への不安から国債の利回りが上がっているフランスで物価の伸びが高まっていることは、ECBが利上げを続けるうえでの悩ましさを示しています。利上げは物価を抑える一方、借り入れの多い国の利払いを重くするためです。
ECBの金融政策への影響:12月の利上げ観測は7割強
ECBは10月29日の理事会で、中銀預金金利を2.50%で据え置きました。ラガルド総裁は会見で、利上げの是非を議論したうえで全会一致で据え置いたと明かしつつ、12月の利上げについては「データ次第で会合ごとに判断する」として明言を避けています。
12月理事会での利上げの織り込み(CNBCの11月4日の報道)
CNBCによると、12月理事会での利上げの織り込みは、発表前の71.8%から発表後に72%強へわずかに高まりました。結果が予想通りだったため、見方はほとんど変わっていません。ロイター通信は、ドイツとイタリアの中央銀行総裁を含む多くの政策担当者が、12月にもう一段の利上げを示唆していると伝えており、市場では今後1年で2〜3回の利上げを織り込む動きになっています。
今回の結果は、利上げを支える材料と、慎重さを支える材料の両方を含んでいます。総合が4%に達し、サービスの前月比も高めだった点は、物価の上振れを警戒するECBの見方に沿う内容です。一方、コアは2.5%で落ち着き、エネルギーの前月比の上昇も鈍ってきました。前年の11月にエネルギー価格が前月比1.0%上がっていた反動で、11月はエネルギーの前年比が下がりやすい面もあります(前月比が横ばいなら19%台後半に鈍る計算、当社試算)。12月理事会の判断は、12月1日の11月分の速報と、理事会で改定されるスタッフ見通しで、エネルギー高がどこまで物価全体に広がるとみるかにかかっていそうです。
今後のユーロドル(EUR/USD)の見通し
ユーロドルは、HICPの発表後も1.12台半ばで推移しています。10月29日のECB理事会の直後に1.1104まで下げましたが、その後は買い戻しが続き、11月4日には日本時間の午前中に1.12台半ばへ上昇しました。ロイター通信によると、米中間選挙で民主党が上下両院で過半数を獲得し、人工知能(AI)への規制強化で成長が鈍り、利上げの必要性が薄れるとの見方から、ドル指数は約1か月ぶりの安値を付けています。1時間足では、ボリンジャーバンドの上限(1.1272)に沿って上昇した後、上限からやや離れ、中心線(1.1220)の上で推移しています。
発表後(11月4日20時25分時点)のOANDAのユーロドルのオーダーブックでは、オープンオーダー(未約定注文)は買いが43.22%、売りが56.78%です。現在値の上では1.1265と1.1275に売り指値が厚く、上値の抵抗として意識されやすい一方、同じ1.1265〜1.1275には買いの逆指値も集まっており、上抜けると買いが加速する可能性があります。下では1.1130〜1.1140と1.1100に買い指値が厚く、1.1100には売りの逆指値も重なっています。
オープンポジションはロング56.2%、ショート43.8%と買いがやや多い状態です。1.1170近辺に厚いロングがあり、含み益を抱えた買いが多い一方、1.1185〜1.1195にはショートも厚く、これらは現在値より下で売った含み損のポジションです。上昇が続けば、こうしたショートの買い戻しが上値を後押しする可能性があります。
直近1週間(10月28日20時〜11月4日20時)の通貨強弱では、ユーロは8通貨中3位、米ドルは6位です。ユーロと米ドルの差は+11.56と、4日18時に付けたこの1週間で最大の+12.98に近く、ユーロ高・ドル安の流れが続いています。米ドルは、4日11時までの6時間で−3.93と、この1週間で最も大きく下げました。首位はスイスフラン、最下位は円です。
日足では、ユーロドルは21日移動平均線(1.1193)を上回りましたが、75日線(1.1420)と200日線(1.1546)はまだ上にあり、9月からの下落の流れが反転したとは言い切れません。RSI(14)は51と中立の水準まで戻しています。上値の目安はオーダーブックで売り指値が厚い1.1265〜1.1275、下値の目安は21日線の1.1190近辺と、10月29日の安値の1.1104です。今週は11月6日の米雇用統計、来週は10日の米消費者物価指数(CPI)と米国の重要指標が続き、ECBとFRBの12月の判断の違いを探る展開になりそうです。
今後のユーロ円(EUR/JPY)の見通し
ユーロ円は178円台前半で推移しています。10月30日には175円台まで下げましたが、ユーロ高に円安が重なり、11月4日には一時178.40円まで上昇しました。ドル円(USD/JPY)は158円台半ばと円安が続いており、通貨強弱でも円は8通貨中で最下位です。1時間足では、ボリンジャーバンドの上限(178.30円)付近にあり、短期的には上昇の勢いが強い一方、上限に沿った上昇の後は伸び悩みやすい位置でもあります。
発表後(11月4日20時25分時点)のOANDAのユーロ円のオーダーブックでは、オープンオーダーは買いが51.11%、売りが48.89%とほぼ均衡しています。現在値の上では179.00円に売り指値が厚く、178.50円付近には買いの逆指値が集まっており、上抜けると買いが加速する可能性があります。下では176.80円と177.10円に買い指値があり、175.50〜175.60円には売りの逆指値がまとまっています。
オープンポジションはロング54.8%、ショート45.2%です。現在値より上で買った含み損のロング(31.01%)が多く、178円台後半から179円にかけては、買値近くで手放す売り(やれやれ売り)が出やすい状態です。
日足では、ユーロ円は21日移動平均線(176.82円)を上回り、RSI(14)も56まで回復しました。ただ、75日線(180.63円)と200日線(183.12円)は上にあり、9月以降の下落の流れの中での戻りの段階です。上値の目安は売り指値が厚い179.00円、下値の目安は21日線の176.80円近辺と、売りの逆指値が集まる175.50円台です。円サイドでは、日銀が10月30日の会合で政策金利を1.25%に据え置いており、円安が進む場面では、日本の通貨当局による円安けん制の発言にも注意が必要です。
12月ECB理事会までの主な予定
12月のECB理事会までに予定されている主なイベントは以下の通りです。
11月6日(金)22:30
10月の米雇用統計
FRBの12月の利上げ観測とドルの方向
11月10日(火)22:30
10月の米消費者物価指数(CPI)
前回9月は総合3.7%・コア2.6%(前年比)
11月18日(水)19:00
10月のユーロ圏HICP(確報値)
速報からの改定と、サービスの品目ごとの中身
12月1日(火)19:00
11月のユーロ圏HICP(速報値)
12月理事会の前の最後の物価統計。エネルギーの前年比が鈍るか
12月17日(木)22:15
ECB理事会の結果発表(22:45からラガルド総裁の会見)
利上げの有無と、新しいスタッフ見通しの物価見通し
まとめ
- ✓10月のユーロ圏HICP速報値は総合4.0%(9月3.8%)と、市場予想通りで約3年ぶりの高い伸び。エネルギーが20.8%と押し上げ、寄与は約1.9ポイント(当社試算)
- ✓コアは2.5%で横ばい、サービスは3.3%。エネルギー高の波及は限られる一方、サービスの前月比は近年の10月より高め
- ✓国別ではイタリアが5.6%へ急伸(規制料金のエネルギーが大幅上昇)、ドイツは2.8%へ鈍化。21か国すべてが2%を上回る
- ✓12月のECBの利上げの織り込みは7割強で変わらず。判断の鍵は12月1日の11月速報と、12月17日のスタッフ見通し
- ✓ユーロドルは米国の政治・指標によるドル安で1.12台半ば。オーダーブック上の目安は上値1.1265〜1.1275・下値1.1100。ユーロ円は178円台で、上値179.00円・下値176.80円近辺が目安
▶ 10月のECB理事会の結果と、ラガルド総裁の会見の要点はこちら:ECB理事会の結果とラガルド総裁退任
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