貴金属の基礎

ゴールドの歴史 – 近代から現代へ


金本位制


ゴールドが本格的に世界の経済に登場するのは、ゴールドラッシュによりゴールドの流通量が急増し、産業革命によって世界経済発展の先頭にいた英国が1816年に金本位制を採用したのを皮切りにフランス、米国がそれに追従したことがその始まりになると言っていいでしょう。金本位制は国(中央銀行)が発行した通貨と同額のゴールドを常時保管し、ゴールドと通貨の兌換を保証する制度のことです。

つまり本来ならばただの紙切れに過ぎない紙幣をゴールドへの交換を保証することによって言わば有価証券として流通させる制度です。日本もイギリスに遅れること55年、1871年に金本位制を採用し、金、銀、銅貨を発行しています。しかし金本位制には致命的な欠点がありました。

保有しているゴールド以上の通貨は発行できないということです。1929年に起こった世界大不況に対して、金本位制の下では有効な金融政策を講じ、景気調整を行うことが困難であるとして、各国は金本位制から離脱しました。


ブレトンウッズ体制


そして第二次世界大戦終結直前の1944年、世界は新たな国際経済の枠組みを米国のニューハンプシャー州のブレトンウッズで、決定しました。「ブレトンウッズ体制」はゴールド1トロイオンス(31.1035グラム)を35米ドルと決め、各国通貨と米ドルとの交換レート、つまり為替も固定レートを決め、「ゴールド・ドル本位制」というものでした。

ちなみに日本円の対ドルレートは360円で固定されました。このブレトンウッズ体制での固定レートは時折そのレート調整を行いながら、基本的には国際経済の仕組みとしてしばらくはうまく作用していました。1971年8月までは。


ブレトンウッズ体制の崩壊とその後


ブレトンウッズ体制は少なくとも戦後しばらくの間はその役割を十分に果たしました。しかし、世界経済が復興し、世界の貿易や資金の移動が拡大していくとその体制に軋みが出て来ました。早くも1950年代には米国は朝鮮戦争そしてその後60年代にはベトナム戦争へと突入することになり、米国はドルを印刷することによってそれらの戦争をファイナンスします。

その結果物価は高騰し、米ドルの購買力は大きく低下、そして国際基軸通貨としての米ドルの信頼は大きく損なわれることになり、多くの国々がその保有している米ドルをゴールドに交換することを米国に求めるようになりました。

米国のゴールド準備は当時の世界の中央銀行の持っている「マネタリー・ゴールド」の三分の二を占めていましたが、世界各国、特に西欧の諸国からの当時は米国外にあった「ユーロ・ドル」をゴールドとの交換のため米国に持ち込み、ゴールドの「引き出し」を進めた結果、あっという間にその残高が減っていきました。

2万トンあった米国の保有ゴールドが、他の国々の引き出しにより8000トンまで減少し、もはや米国のゴールド支払い能力は破綻寸前という段階でした。その結果がこのニクソン大統領による突然のドルとゴールドの兌換停止宣言だったのです。

これはドルとゴールドの兌換にその基礎を置いていたブレトンウッズ体制の突然の停止を意味し、この宣言により1971年8月15日以降、世界経済はそれまでと全く違うものになってしまった瞬間でした。すべての通貨は「不換通貨=fiat money」となり、もはや保有しているゴールドの量に縛られることがなく、「好きな時に好きなだけ」発行ができるものになったのです。

当然その結果、それ以降、物やサービスの価格が大きく上昇(通貨の価値が下落)するという「インフレーション」が進むという事が起きるようになります。通貨発行権という宝刀を得た国家と中央銀行は、その強大な力によって経済をそして世界をコントロールしようとします。

そのためにより多くの通貨を発行するという循環を世界は続けているのです。この増大する通貨量の結果として、投機が生まれ、バブルが形成され、それがはじけて経済危機が起きるという景気不景気サイクルが繰り返されることになりました。そしてこの景気不景気のサイクルにおいて、経済成長よりも遥かに速いスピードで世界の「負債」は膨らんでいき、その総額は加速度的に増加しているのです。


現代におけるゴールド


今、パンデミックによる経済のスローダウンに対して、世界の中央銀行は金融緩和と財政出動という名目で、歴史に例をみないほどの通貨を増刷し、世界の負債総量はもはやどう考えても支払うことができるレベルではないまで膨らんでいます。

国際金融協会(International Institution of Finance: IIF)の計算によると2021年第一四半期での世界負債の額は289兆ドルであり、世界の経済規模の360%に当たるとしています。これはどう考えても返済不可能な額でしょう。

1971年8月15日に始まったゴールドと通貨のデカップリングと国家による自由な通貨創造、50年を経てその限界が近づいてきていると言えるでしょう。そしてそれが結果的に再びゴールドの役割にスポットライトを当てることになるのではないでしょうか。

もはや制御不能の規模になった国際経済では「金本位制」の復活は物理的に不可能ですが、ふくれあがった不換通貨に対して、おそらく唯一の内在価値をもつゴールドの役割は増大していくことと思われます。当時35ドルだったゴールドは現在1780ドル、50倍になっています。

新興国の中央銀行が積極的にゴールドを買っているのはそれを見通しているからかもしれません。個人投資家としてもゴールドをポートフォリオに入れておく意味は今後より大きくなっていくでしょう。


本記事の監修者・Bruce Ikemizu / 池水雄一


1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社。1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産株式会社で貴金属チームを率いる。2006年スタンダードバンクに移籍、2009年同東京支店支店長就任。2019年9月日本貴金属マーケット協会代表理事。


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