貴金属の基礎

金(ゴールド)の需要と供給について|国別ゴールド鉱山生産量も解説


ゴールドの需給


ここからゴールドの需要と供給に入っていきます。まず過去10年の需給表を見てみましょう。ここからの資料はMetals Focusが毎年発表しているゴールドの年間レポートの最新版である「Gold Focus 2021」を使います。

現在ゴールドの需給統計の発表をしているのは、このMetals Focus社と現在は情報ベンダーであるRefinitiveの一部となっているGFMSの2社がありますが、元々はGold Fields Mineral Services(GFMS)という南アの鉱山会社が出資して設立した情報会社が1970年代から始めたサービスであり、現在のこの二社もこのGFMSがReuter社(現在のRefinitive)に身売りし、そこから独立したのがMetals Focusです。元々は同じルーツを持ち、そのために毎年両社が発表する年間の統計は非常に似通ったものになっています。

画像1/ゴールドの需給表過去10年の流れ

ゴールドの需給表過去10年の流れ

この、需給表でまず覚えておきたいのは、ゴールドの鉱山生産が現在3600トン前後あり、増加傾向にあること。二次供給と呼ばれるリサイクルは1200トン前後で、これは宝飾品や個人投資家の保有する現物の売り戻し、そして近年話題の「都市鉱山」と呼ばれる電化電子製品などに含まれるゴールドを回収して再びゴールドとしてマーケットに供給される部分です。

需要は最大分野は宝飾品で2021年の予想は約1800トン、産業用需要は320トン、現物投資需要は1160トン。需要部門の特徴は宝飾品と現物投資が大きく、実際に材料として使われる産業用需要はほんの一部であるということです。これは工業用メタルとして産業用需要が大きいPGMやシルバーと好対照となっています。

画像2/ゴールド供給2021年予想

ゴールド供給2021年予想

画像3/ゴールド需要2021年予想

ゴールド需要2021年予想


ゴールドの供給



ゴールド鉱山生産


ゴールドが他の貴金属との違いとしてあげることができるのは、ゴールドは世界中に存在しているということです。たとえばPGMのように、南ア、ロシアそして北米という特定の地域に偏在していることとは対照的だと言えます。

ゴールドの鉱山生産は世界のほとんどどこでも確認されています。↓の表は2020年の世界のゴールド鉱山生産量の20位までの国々ですが、アジア、ユーラシア、オセアニア、米州、アフリカとその地域は地球上をほぼすべてカバーしています。

我が国日本は昔は黄金の国ジパングと呼ばれた歴史があるほどゴールドに恵まれたイメージの国でした。(マルコポーロの思い込みによる部分が大きいと言えますが、)佐渡、北海道の鴻之舞、鹿児島の串木野など、国内にも多くのゴールド鉱山がありましたが、残念ながら現在、生産を続けているのは鹿児島県にある住友金属鉱山の菱刈鉱山のみの年間6トン程度となっており、菱刈鉱山以外の商業ベースで成り立つ金鉱脈はほぼ掘り尽くされたと考えられています。菱刈鉱山も住友金属鉱山の技術者養成の場という位置づけであり、開山の1985年から2020年3月までの累計産出量は248.2トンです。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
2020年国別ゴールド鉱山生産量
順位 国名 トン
1中国368
2ロシア331
3オーストラリア328
4米国190
5カナダ171
6ガーナ139
7ブラジル107
8メキシコ102
9ウズベキスタン102
10インドネシア101
11南アフリカ99
12ペルー98
13マリ94
14ブルキナファソ93
15スーダン84
16カザフスタン78
17コンゴ61
18ギニア57
19コロンビア54
20パプアニューギニア53
その他の国769
合計3479

(Metals Focus)

過去14年間世界一のゴールド生産国は中国でした。しかし今年2021年は前半期は中国153トン、オーストラリア157トンとわずかながらオーストラリアが中国を上回り、このペースで行くと2021年はオーストラリアが世界一のゴールド生産国になりそうです。ここ数年にわたっての同国の活発なゴールド鉱山開発事業の結果であり、2008-2014年の間の鉱山開発費でゴールドの占めた割合は20%だったのが、今は50%まで上がっており、オーストラリア全体でゴールド鉱山の開発がブームになっています。

おそらく50代を越える人々にとっては、ゴールドというと南アフリカというイメージが強いのですが、今や南アフリカの生産は年間99トンと100トンを割り込み、世界11位とその他大勢のイメージが強くなっていますが、確かに1960年代70年代は年間1000トンを越えて全世界のゴールド生産の7-8割を占めた時代が続きました。

現在の生産高はその当時の10分の1を下回る量であり、南アも現在その採掘コストに見合う鉱脈を掘り尽くしつつあると思われます。南アフリカがゴールド鉱山生産でガリバー的存在であった60~50年前と比べると現在は、世界各国でゴールド鉱脈の探索が進み、この表でもわかるように、あまりに突出した生産国はなく、100トンを越える国々が10ヵ国以上あります。これが現在のゴールド生産の大きな特徴です。

昔は南アフリカで何か問題があればゴールドの価格は大きく動きましたが、現在は南アフリカの動向はほとんどゴールド相場に影響を与えません。(逆にプラチナは世界生産の8割が南アフリカとその周辺で行われているため、南アフリカの動向は相場に大きな影響力があります。)

これは逆に、リスクが分散されてゴールドの鉱山生産が非常に安定していることを意味します。2020年の鉱山生産は3478トンで2016年以来の低い数字になっていますが、これはCovid-19の影響での都市ロックダウンによる一時的な鉱山の閉鎖が行われたことが原因です。特にペルー、カナダそして南アフリカではその影響が大きく、前年からの生産量が大きく減少しています。Metals Focusの予測によれば2021年は大きく回復するとみられています。パンデミック対策が進みほとんどの鉱山が通常生産に戻り、2020年の6%増加の3693トンと予測されています。

画像4/地域別ゴールド鉱山生産高推移・2021年 ゴールド鉱山生産予想

地域別ゴールド鉱山生産高推移・2021年 ゴールド鉱山生産予想

Provided by
池水 雄一(Bruce Ikemizu)

1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社。
1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産株式会社で貴金属チームを率いる。
2006年スタンダードバンクに移籍、2009年同東京支店支店長就任。
2019年9月日本貴金属マーケット協会代表理事。

>池水 雄一氏監修の「金(ゴールド)や銀(シルバー)などの貴金属」に関する記事一覧はこちら

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