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覚書(サイドレター)とは?盛り込める内容についてGT東京法律事務所の弁護士が解説


本記事の執筆者

         
大橋 宏一郎(弁護士)
慶応義塾大学法学部卒(1989年)、コロンビア大学ロースクール法学修士号取得(2001年)、日本と米国NY州の弁護士資格を持つ。
主な取扱分野は、国内外の銀行取引、スポンサード米国預託証券プログラムの設定等の資本市場取引、ファンドおよび投資運用関連事案(プライベート・エクイティ、ヘッジ・ファンド、REIT)を含む、様々な金融取引事案およびコーポレート事案(特に合併買収、企業再編取引)。
GT東京法律事務所(Greenberg Traurig LLPの東京事務所)に所属。
         
石本さやか(弁護士)
北海道大学工学部環境社会工学科 卒業(2011年)、京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻 修了(2014年)、日本の弁護士資格を持つ。
主な取扱分野は、一般企業法務、知的財産法、不動産、金融関係、IPO関係およびゲーミング産業に関連する業務。
国内企業法務系法律事務所において、主に、一般企業法務、企業訴訟、労務紛争、倒産処理、医療紛争等の案件を経てGT東京法律事務所(Greenberg Traurig LLPの東京事務所)に所属。

1.サイドレターとは~ファンド契約との関係

リミテッド・パートナーシップに投資するときには、原則として、リミテッド・パートナーシップ契約(LPA)と引受契約(Subscription Agreement)を締結します。

ファンドは、複数の投資家が参加することが原則的に想定されているところ、すべての投資家が同一のLPAに署名します。
ジェネラル・パートナー(GP)やGPから委託を受けてファンドに係る契約を管理するインベストメント・マネージャーといったファンド運営側としては、すべての投資家と、LPAに限らずすべての契約書についてなるべく同一のフォームによって契約することが効率的です。

一方で、投資家は、自己に適用がある各種法規制等により、個別の取り扱いを求める場合があります。
そこで、ファンド運営側は、LPAと引受契約については(投資家の所在地の法律により異なる取扱いをすべき事項を除いては)すべての投資家に統一的なフォームを使用し、特別条項の策定は認めないものの、別途個々の投資家との間で締結するサイドレター(覚書)によって、LPAに規定のない条項やLPAの規定とは異なる内容の条項を認め、別個の取り扱いを許容しています。

このように、サイドレターとは、個々の投資家との間で、LPAや引受契約に規定がない事項について規定し、又はLPAや引受契約の内容を修正するために締結される覚書のことをいいます。

2.サイドレターに盛り込める内容

各投資家との個別取り決めを野放図に認めてしまうと対応しきれなくなってしまう恐れがあり、自ずと、サイドレターの締結は制限的にならざるを得ません。

どのような内容をサイドレターに盛り込めるかは、どのくらい当該投資家がファンドにとって重要か、すなわち当該投資家のもつ交渉力によって左右されます。

一般的に、大口投資家や有名な投資家は、交渉力が高くサイドレターの作成において優遇される場合があります。
下記は、我々が過去に見たことのあるサイドレターの合意条項です。

a.他の顧客と同等以上の条件を与える(Most Favored Nation条項)。

ある投資家がサイドレターを締結しているとしても、サイドレターはファンドと投資家が個別に締結するものであることから、他の投資家は、サイドレターにおいて合意された内容がわかりません。

そこで、投資家は、ファンド運営側に対して、自己の契約条件が、可能な範囲で常に他の投資家の契約条件と同等以上であることを希望します。
このような内容の規程をMost Favored Nation条項といい、多くのファンドにおいて、投資家が、この条件に合意させようとします。

しかし、すべての投資家に対してこの条件を認めると、別個の取扱いを認めたことの趣旨に反し、特に大口投資家や有名な投資家がその交渉力をもって自らに有利な条件を認めさせた意味がなくなってしまい、Most Favored Nation条項が認められるのは、大口投資家や有名な投資家といった当該ファンドにとって重要な投資家に限られる場合が多いのも事実です。

b.譲渡制限を外す。

ファンドの持分は、基本的にその譲渡が制限されていますが、例えば、同じ企業グループの関連会社にファンド持分を譲渡することが予定されている場合に、あらかじめGPから譲渡承認を取っておくことがあります。

c.税務書類をファンド側が作る。

例えばファンドが米国籍である場合、そのファンドに投資をするLP投資家は、米国でも納税申告することが求められます
その際、本邦投資家が米国税務申告書面を作成するには手間とコストがかかりますので、ファンド側に税務申告書類のひな型を作成してもらうことがあります。

d.自国の会計基準に合った財務諸表を受領する。

本邦投資家で、日本の会計基準を使っている投資家の場合、外国籍ファンドの使用する米国会計基準やIFRSでは、日本における会計処理や税務の関係上、日本の会計基準に合わせる調整が必要となってきます。
そこで、ファンド側にあらかじめ日本の会計基準に則した財務諸表を用意してもらうことがあります。

e.他の顧客資産を賠償責任の対象から外す。

特に、投資家自身が、信託銀行や投資一任運用会社のように、顧客の資産を運用する立場の者である場合、ファンドからの責任追及に備え、責任の対象を当該ファンドに投資する資産に限定し、他の顧客の資産については、責任追及しないことを理解してもらいます。

信託銀行のように、多くの委託者資産を抱えている投資家は、当該ファンドへの投資とは関連のない他の委託者の信託財産が賠償責任の対象となることは許容できません。
そこで、この条項を入れることで、例えば信託銀行が特定金銭信託勘定から投資をする場合に、責任の対象も、当該信託勘定(信託銀行の自己資産も責任の対象とされてしまうことがあります)に限定してもらいます。

3.サイドレターブックレット

前述のMost Favored Nation条項は、自己の契約条件が常に他の投資家の契約条件と同等かそれ以上に好条件であることを内容とするものですから、投資家が何らかの形で、他の投資家のサイドレターに定められた契約条件を知り得る手段が必要です。
ただし、他の投資家のサイドレターを直接閲覧することはできません

Most Favored Nation条項において、ファンド運営側に、他の投資家のサイドレターに定められた条件の内容を投資家に通知する義務を定めることが一般的です。
このような通知を受けた投資家は、通知にかかる条件の内容を確認し、自らにも適用を希望する条件を選択しファンド運営側に回答します。

Most Favored Nation条項の定めにより、当該回答をもってサイドレターの内容を変更又は修正したものとみなすことも可能であり、投資家が適用を希望した条件を内容とする追加のサイドレターを締結することも可能です。

もっとも、サイドレターにおける契約条件すべてが上記のような手続の対象になるとは限りません。
Most Favored Nation条項において、特定の法域に所在する投資家にのみ適用される条項や、一定額以上を出資する投資家にのみ適用される条項はあらかじめ上記の手続から除外されることも多いです。

サイドレターブックレットは、ファンドの規模によっては大部になる場合もあり、その場合、どの条項を選択するべきか、検討に時間がかかることがあるので、時間に余裕をもって、検討する必要があります。


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